有能なのにミスする人
回想記憶と展望記憶

普段の仕事ぶりは真面目だし、モチベーションも高く有能であるはずなのに、物忘れや細かなミスをしてしまう人はいる。データを見ながら適切な説明をしたり、取引先の資料をすぐに理解して明快な質問を出したりできる一方で、プレゼン資料一式をごそっと忘れるようなことを繰り返す。またある人は、仕事の実績をかなり上げているし、出勤時にはきちんと来ているのに、なぜか打ち合わせには毎回のように遅刻し、なんならすっぽかしてしまうことすらある。そうした人物に対して理解や処遇に困ってしまうというケースは、けっして少なくない。予定を忘れることはあっても、記憶力自体に問題があるわけではない。この現象のヒントとなるのが、回想記憶と展望記憶のメカニズムである。回想記憶は「過去の出来事についての記憶」のことで、一般的な記憶の機能としてイメージされるものだろう。知識を覚えておくためのこの能力が高ければ、試験で良い成績をとることができる。一方、展望記憶は「未来のある時点にしなければならないことについての記憶」を指す。朝食後に薬を飲む、午前中に電話して取引先に商品の納期を確認する、夜7時に約束しているお店に行く。そうした予定について、適切なときに思い出せる機能が展望記憶だ。回想記憶と展望記憶の能力には、関連がみられないことが知られている。昔のエピソードをよく思い出せる人であっても、電車の網棚に置いたカバンをよく忘れてしまう。郵便に出すべき封書を手にして家を出ても、ポストに投函することなくそのまま会社まで持って行ってしまったりする。逆に、回想記憶があまり働いていないタイプもいる。はじめてのデートのお店について何も思い出せずパートナーをがっかりさせたり、話し合って決めたことなのに「そんなこと言われてません」と言って呆れられたりする。
記憶のリスクマネジメント
仕事での致命的なミスにつながりやすいのは、やはり展望記憶に問題を抱える人だ。このとき、「何かすべきことがあるということを思い出す機能」である存在想起と、「具体的に何をすべきかを思い出す心の機能」である内容想起のどちらができていないのかが大事になる。