国境なき医師団

終わりなき挑戦、希望への意志
未読
日本語
国境なき医師団
国境なき医師団
終わりなき挑戦、希望への意志
未読
日本語
国境なき医師団
出版社
みすず書房
定価
5,940円(税込)
出版日
2015年12月24日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

国境なき医師団(MSF)とは、1971年に少数のフランス人医師とジャーナリストたちによって設立された国際的人道医療団体である。2015年現在、2万7000人ものスタッフが60カ国以上の人々に医療援助を行っている。MSFは、自ら「国際的な運動」と位置づけ、暴力や放置(ネグレクト)、伝染病や栄養失調などによる死という危機について、世界の国々に異議を唱えている。

本書は、MSFの活動に参与し、医療社会学者として新境地を開拓してきた著者が、社会学的見地から、MSFの理念、現地活動、そして活動によって新たに見えてきた医学的・倫理的課題について考察した一冊である。MSFの誕生や分裂の危機、彼らが活動の意義について激しく議論を交わし、エイズなどの過酷な病と闘う様子が克明に描かれている。

「自分が行かなければ変えられない世界がある」。こうした強固な信念のもと、彼らはどのように人道支援の任務遂行に伴うリスクに対処しているのだろうか。また、MSFは介入の決断やタイミング、限られた人員・資金という資源の配分という課題に、どのように対応しているのか。著者の、客観的でありながらも、MSFへの希望に満ちた眼差しによって描き出されるMSFの「現場」には、胸に迫るものがある。

本書に登場するスタッフたちの経験の中には、心の琴線にふれるものが必ずあるだろう。そして自分の人生観を振り返るヒントを得られるにちがいない。

ライター画像
松尾美里

著者

レネー・C・フォックス
1928年ニューヨーク生まれ。ハーバード大学大学院でT・パーソンズの下、医療社会学への道を切り拓く。同期にC・ギアツ、R・ベラーが在学。
コロンビア大学を経て、ペンシルべニア大学社会学科教授として教鞭を取ったのち、90年代、ベルギーとコンゴ共和国に第二の拠点を置いた。96-97年、オックスフォード大学に招かれる。ペンシルべニア大学・生命倫理学センターのフェローを兼務。また「国境なき医師団」の活動に参与し、2002年に南アフリカ共和国に出向く。合衆国における医療社会学者の最初の一人。参与観察者として、独自の境地を開拓した。主著として『危険な実験』(1959)、『医療社会学』(1989)、『ベルギーの館にて』(1994)があり、ほかJ・スウェイジーとの共著『失敗を恐れない勇気』(1974)、『スペア・パーツ』(1992、邦訳『臓器交換社会』青木書店1999)などがある。『生命倫理をみつめて――医療社会学者の半世紀』(みすず書房2003)は日本での講演を独自編集した自伝。

本書の要点

  • 要点
    1
    MSFは、1960年代後半にフランスの若い医師たちによって創設された。「行動と発言」、「治療と証言」を二軸に据え、市民社会の運動だと自ら定義している。
  • 要点
    2
    MSFは人道的医療活動をうまく機能させようとするあまり、組織化、官僚化を招き、当初の「議論主義」や「人類愛」といった方向性から離れつつあるという課題を抱えている。
  • 要点
    3
    MSFは、南アフリカでのエイズの治療に尽力する一方で、MSFの能力の限界や人道的活動の有限性と向き合い続けている。

要約

現地からの声

ブログににじみ出るスタッフたちの想い
Benjamin A. Peterson/Mother Image/mother image/Fuse/iStock/Thinkstock

「別れは身を引き裂かれるようにつらく、その傷は完全に癒えることはない。私は、この短い間に出会ったダルフールの人々の記憶を、いつも胸にいだきつづけるだろう」。

これは、南アフリカ人の医師が、MSFの任務期間を終えようとする際、MSFのブログプラットフォームに載せた文章である。このブログは、任務にあたるスタッフが共通して味わう喜びや挫折感、悲しみだけでなく、MSFの文化の根幹にあるエートスの特徴や、連帯感をも伝えてくれる。スタッフの多くは医師と看護師であり、そのほかロジスティシャン(水道や汚物処理の専門家)、麻酔専門医、心理学者などもいる。

彼らが自分たちの体験と想いをブログに記録するのはなぜか。それはこの記録が、支援者の目を通した、現地の人々の肉声を伝える「証言」になり得るからだ。また、任務の遂行で肉体的・身体的に追い詰められたとき、ブログを書くことはブロガーにとって息抜きとなり、読者の反応は心の支えにもなっているという。

ブロガーであるスタッフたちは、任務の開始時と終了時に、人道的医療を行うために現地へ赴く理由と正面から向き合うことになる。それは、理想主義や愛他心、義憤、社会正義の追求、自己実現の追求など様々だ。同時に、彼らはMSFでの活動を通じて、その意義を実感する。中には次のように語るスタッフもいた。「死に瀕していた人間に適切な治療を施し、効果が現れるときほど、報われる瞬間はありません」。

一方、彼らは自分たちのことを英雄視したり、英雄視されたりすることを断固として拒否する。彼らは、病気や貧困、暴力などによって引き起こされる理不尽な死や苦悩を改善する能力が足りないことに、時に自責の念を覚えるという。そして、ケアの限界に対する悲しみをブログで吐露するのだ。

ジンバブエの診療所で任務にあたっていた医師は、死なずに済んだはずの26歳の女性があっけなく亡くなったのを目にし、その無念さを語った。「ほかの者よりも早死にする確率が、周りの者に早死にされる確率が、明らかに高い人たちがいるのだ。それは、耐えがたい不平等だ」。スタッフたちは、言いようのない痛みを経験しながら、状況改善のための最大限の努力さえも、望むような結果につながらないことを理解する。彼らが提供できるものは、どうしても「不完全」なのだ。

任務が終わるとき、彼らは患者とその家族、同僚、地元の人たちとの関係、勤務地のコミュニティー、文化、景色に思いを馳せる。彼らにとって、患者や仲間に別れを告げ、現地から引き上げることは、「喪失」そのものだ。とくに子どもの患者との別れには、最も深く胸をえぐられる。一方で、

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