紙の本ではなく、電子書籍ならではの取り組みを考える
日経BP社 コンピュータ・ネットワーク局 松山貴之

紙の本ではなく、電子書籍ならではの取り組みを考える

日経BP社は2015年4月より、スマホの読み心地にこだわった電子書籍『日経BP スマホでFlick!IT新書』の販売をスタートした。

スマートフォンに特化した狙いや、今後の戦略について、同社のコンピュータ・ネットワーク局 統合コンテンツ事業部長の松山貴之氏にお話を伺った。

電子書籍への不満が『スマホでFlick! IT新書』誕生のきっかけ

——『スマホでFlick! IT新書』はスマートフォンで見ると、図表が1ページに掲載されていて、非常に見やすいな、と感じました。「スマホの読み心地にこだわった電子書籍」を手掛けようと決断された背景には、どのような目的や課題意識があったのでしょうか。

松山貴之氏(以下、松山):紙の出版物の内容を載せ替えただけの電子書籍は、ユーザーフレンドリーではないなと、いち利用者として不満を感じていたんです。ITの分野では、概念や仕組みを伝えることが多く、図表が大事な役割をもちますが、電子書籍に載せ替えただけだと見づらいこともあります。私自身が編集の世界に入る前にITエンジニアをしていたこともあり、よけいに歯がゆさを感じていました。

電子書籍のメリットとして「いつでもどこでも読める」、「スペースを取らない」という点がよく挙げられますが、それはデジタルの特性にすぎない。電子書籍ならではの特性を活かせていないのではないかという課題意識がありました。

いま、ターゲットとなるエンジニアやIT関係のビジネスパーソンが圧倒的に接している媒体はスマートフォンですよね。私たちは、スマートフォン上で必要な情報を入手したいという彼らのニーズを満たし、世の中に受け入れられていく電子書籍へと進化させていくにはどうしたらいいかと検討を重ねました。

そこで、『スマホでFlick! IT新書』は「電子書籍を売る」という視点ではなく、「スキマ時間を有効に活用する方法」、「スキマ時間での学びの体験を提案する」という視点に立って開発しました。

電子書籍の利用シーンを絞り込み、移動中などのスキマ時間の20~30分でちょうど読み切れることにこだわっています。ほとんどの商品は一冊500円で、スキマ時間を使って必要なスキルを身に付けられるというのがコンセプトですので、分量も紙の書籍の3分の1程度にしています。

——500円で1つのスキルを学べるとしたら、価格以上の価値がありますし、30分なら気軽に手に取って読めますね。現在のラインナップと今後の予定についてお聞かせいただけますか。

松山:現在のコンテンツは、データ分析経営をテーマにしている雑誌『日経情報ストラテジー』や、通信業界・企業ネットワークをテーマにしている雑誌『日経コミュニケーション』の特集記事からもってきています。特集記事は、記者が力を入れて書いているコンテンツなので、まさに読者に届けたい厳選された内容ばかり。「30分のスキマ時間の活用」という狙いにもあっているなと思っています。

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※ 雑誌の特集記事から生まれたスマホ向けコンテンツ。紙の書籍よりも内容が絞り込まれており、自分が気になるテーマを選んで、通勤時間などスキマ時間にスキルアップを図ることができる。

今後は、IT分野の総合誌『日経コンピュータ』の特集記事からもラインナップを増やしていく予定です。ITや情報分野に携わる人たちが求めている良質な情報を、気軽に読んでもらえたらと思っています。

——「スキマ時間で学びの体験」というコンセプトは斬新だなと思ったのですが、読書が好きな人とは違ったターゲットを想定しているということでしょうか。

松山:そうですね。実は、ITのコンテンツを求めるターゲットの中でも、読書好きな人か、そうでない人かどうかでアプローチを分けています。ITの雑誌や本を購入している人たちには、「デジタルでしか読めない良質の情報があるんですよ」と伝えていく。一方、本で活字を読む習慣がない人たちには、スマートフォンに触れる中で、当社のサービスとの接点を作っていきたいと思っています。例えば、電車での移動時間に読んでもらうためには、乗換案内サービスのアプリに広告を出すとかは良い宣伝になるかもしれませんね。

書籍を読む習慣がない人たちに、『スマホでFlick!IT新書』の良さをどう知っていただくかという点が目下の課題です。タイトルと著者名だけでは、コンテンツ自体の魅力はなかなか伝わらないですし、ターゲットが「自分が今読むべき内容だ」と当事者意識を持ちづらいですよね。しかもタイトルがニッチなので、母集団をぐっと狭めてしまう。

そういった意味では、「今読むべき電子書籍」にたどり着くための仕掛けが必要なのかもしれません。例えばECサイトでも購入履歴をもとにおすすめ情報が届きますが、利用者それぞれの置かれた状況や志向、仕事の悩みなど、もっとパーソナルなおすすめ情報があれば、よりいっそう役立つはず。

インターネットによって無料で情報を得られるようになったのは喜ばしいことですが、玉石混交の情報が飛び交いすぎて、どの情報が自分にとって大事なのかを判別するのは難しい。そうした状況で、flierのようにキュレーターがスマートフォン上で「自分がまさに求めている情報」をすばやく提供してくれるのは、大きなメリットだと考えています。

電子書籍ならではの仕掛けとは?

——紙の本とは異なり、電子書籍ならではのPR方法も模索されているのですね。『スマホでFlick!IT新書』におけるこだわりを教えていただけますか。

松山:こだわりの1つは、スマートフォンの画面を前提にページ構成を設計しているので、図表が見やすいところです。

単行本などに比べて読者は目的意識が薄いので、一目で「このページの内容や世界観」が伝わるように、デザインや背景色、イラストのトーンを調整します。

紙の雑誌の編集でも、読者にページをめくってもらうための工夫は非常に重要でして、私たちが手掛ける電子書籍でも、この意識を大事にしています。

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※ インフォグラフィック(情報やデータを視覚的に分かりやすく表現したもの)や写真は1ページに1つずつ掲載されているなど、スマートフォンでも読みやすい工夫が満載。 (出所:『ベイシアグループ 知られざる流通優等生の素顔(日経BP Next ICT選書)』(山端宏実(著)/日経情報ストラテジー))

電子書籍なら工夫の幅が広がるので、将来的には、コンテンツのイメージに合うようなBGMを流したり、関連動画やインフォグラフィックにリンクさせたりするなどの仕掛けも検討していきたいと思っています。

ページをめくるためにタップしなくても、自動でページが切り替わって字幕を追っていくだけで本を読めたり、活字を目で追うのが疲れたときはオーディオブックに切り替えられたりというのも手でしょう。

また、今回のシリーズは短い電子書籍なので全部を短時間で読めてしまいますが、一般的な分量の電子書籍の場合、一冊の本のまとまりの中から、今の自分に必要な部分だけ購入できるようになると便利かもしれませんね。

——紙の本を中心に電子書籍を考えるのではなく、電子書籍を前提に考えると、さまざまなチャレンジができそうですね。松山さんは今後の電子書籍市場はどうなっていくと予想されていますか。

松山:これまで本は粘土板や羊皮紙から、巻物、そして紙の束へと進化してきました。デジタルの書籍も、紙の書籍と同じように進化していくと信じていますが、紙の書籍づくりと同じ考え方では行き詰まってしまうでしょう。

「電子書籍って紙の情報がデジタルで見られるだけでしょ」という意識を変えていくためにも、電子書籍だからこその特性は何なのか、インターネット上の無料で得られる情報とはどう違うのかを、「ターゲットに伝わる形」で発信していく必要があると考えています。

当社も、既存の電子書籍の枠にとらわれず、「スマホでのスキマ時間の体験」という発想に立って、必要なコンテンツをフレキシブルに届けていきたいと思っています。

——私たちflierも良い本を多くの方に知っていただくためのお手伝いをしていきたいと思います。本日はありがとうございました。 日経BP スマホでFlick! IT新書とは——

「いつでもどこでも手軽に持ち出してスキマ時間に読める」というコンセプトに基づいて、スマホでの読み心地にこだわって制作しています。忙しいビジネスパーソンが「時間」を有効活用できるよう、スキマ時間に読み切れる短い電子書籍になっているのも特徴です。今後もIT分野の専門誌の特集記事を、スマートフォンで読みやすく再構成した電子書籍を発刊していく予定です。

既刊本は以下のページを参照してください。

http://www.facebook.com/nikkeibpNextICT
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文責:苅田 明史 (2015/04/07)

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