落合陽一氏が語る、「2030年の世界」はどこに向かうのか?
これからの時代のキーワード、「デジタル発酵」とは?

落合陽一氏が語る、「2030年の世界」はどこに向かうのか?

メディアアーティスト、研究者、教育者、会社代表など、多方面に活躍する、落合陽一さん。

新著『2030年の世界地図帳』(SBクリエイティブ)の出版を記念し、フライヤーで落合さんの描く2030年の未来についてお聞きしました。

本書では、SDGsの枠組みをベースに、世界の問題点と、これから起きる変化を掘り下げていきます。SDGsとは、2010年の国連サミットで採択された、持続可能な世界の実現のための世界共通の目標のこと。豊富な世界地図、統計情報を眺めているだけでも、多くの気づきが得られます。

「SDGsが大事なのはわかるけれど、日常生活やビジネスとの関連性が見えづらい」

「そもそもSDGsの中身が詳しくわからない」

そんな方に、新たな視座を与えてくれます。

SDGsなどの世界の問題を、テクノロジーの力でどのように解決するのか? そして、落合さんは独自の発想力をどのように培ってきたのでしょうか?

世界の課題に向けて「アクションを促す本」をつくりたい

── 『2030年の世界地図帳』の執筆動機は何ですか。

SDGsに関心をもったきっかけは、2016年夏の朝日地球会議です。そこでSDGs制定に関わった国連副事務総長のアミーナ・モハメッドさんから話を聞くことができ、興味をもつようになりました。そのときは、先進国も開発途上国も協調して「飢餓をゼロに」といわれても、なかなか自分ごととして腑に落ちなかったんです。

それから数年後、SDGsがメディアで取り上げられたり、SDGsのバッジをつけた企業の方を見かけたりすることが増えてきました。ただ、その割にはあまり本質的な議論がされていないような気がしました。つまり何かアクションを起こせるほど、理解が充分ではないのではないかと感じたので、それなら勉強してそういう本を自分で書こうと思ったんですよ。

2030年の世界地図帳  あたらしい経済とSDGs、未来への展望
2030年の世界地図帳 あたらしい経済とSDGs、未来への展望
落合 陽一
SBクリエイティブ
本の購入はこちら
2030年の世界地図帳  あたらしい経済とSDGs、未来への展望
2030年の世界地図帳 あたらしい経済とSDGs、未来への展望
著者
落合 陽一
出版社
SBクリエイティブ
本の購入はこちら

世界の潮流は「ESG投資」へ。組織の意思決定が変わる

── SDGsのテーマが幅広くて、当事者意識をもちづらいという声を聞きます。もっと自分ごと化するためには何が必要でしょうか。

まずは、会社の意思決定を変えていくところからではないでしょうか。SDGsが生まれた思想的背景には、「責任投資原則(PRI)」(※1)や「ESG投資」(※2)などがあります。この指標がこれから広がれば、経済成長と持続可能性の両立をめざす企業への投資が増えていくはずです。

ティム・クックは、プライバシー保護について尊重する旨、そしてアップルがプライバシーに配慮する企業であることを打ち出していくと宣言しました。それが機能や性能を訴えることよりも、ブランドイメージの向上につながると確信しているからだと僕は考えています。

これからは、「ESG投資に配慮している企業のほうが良いブランド」という考えが、世界の潮流になっていくと思います。そうなると必然的に組織の意思決定も変わってくるし、個人の意思決定も変わってくるでしょう。

(※1)投資の意思決定の際、投資先となる企業の環境(Environment)、社会問題(Social)、企業統治(Governance)への取り組みを考慮・反映すべきだという原則。
(※2) 非財務情報であるESG要素を考慮する投資。

── その前提で、本書をどんな方に届けたい、というのはありますか。

もちろん大人の方にも読んでほしいですが、小中学生でも読んでもらえるように配慮しました。小学4~6 年生向けにSDGsのワークショップを開催したのも、その一環です。それは、子どもが変わっていくことが、大人の意識を変えるのにいちばん投資対効果が高いと考えているからです。たとえば、子どもが「飢餓って何?」と尋ねてきたら、親も調べないわけにはいかないでしょう。

未来の課題に向き合うために何が必要なのか。本書には、その思考の補助線とともに、未来を俯瞰するための統計情報や地政学的なフレームをちりばめました。親子で読んでもらっても面白いと思います。

落合さんが、いま、注目しているテクノロジーとは?

── 本書を読むと、SDGsの目標達成にどんなテクノロジーを応用していくのか、イメージがふくらみました。落合さんが特に注目しているテクノロジーは何ですか。

1つは、ブロックチェーンです。金融的な側面から2017年にはブームになりましたが、社会実装のタイミングは今まさにこの瞬間だと思うのです。たとえば、誰がどこでどれくらい製造して、ゴミを排出したのか。こういうことが、ブロックチェーンを活用すれば、世界規模で、非中央集権的に管理できるからです。

もう1つは、再生可能エネルギー。この本にも書きましたが、EVには「Tank to Wheel」(※3)と「Well to Wheel」(※4)の考え方がありますが、EVの電力源が火力なら、CO2を排出していることになりますよね。これをいつ再生可能エネルギーに置き換えるかということが大事になりますし、企業もできるだけ再生可能エネルギーの電力を買うという意思決定ができるようになるでしょう。

(※3)自動車の燃料タンクからタイヤを駆動するまで
(※4)エネルギー源(油田)からタイヤを駆動するまで

これからの時代のキーワード、「デジタル発酵」とは?

── 本書にはイノベーションを導くために、「デジタル発酵」というコンセプトが紹介されていました。デジタル発酵とはどのようなものですか。

発酵というのは、限られた領域のなかで無秩序に混ざり合う「内向きの力」です。「デジタル発酵」が意味するのは、あらゆる空間に偏在する情報化されたテクノロジー資源によって、既存のものからも新しい価値が醸成されることなんです。

SXSW(サウスバイサウスウエスト) 2019のテーマは、「デジタルに対する不信感」でした。この不信感は、情報流出といったガバナンスに対するものではないでしょうか。これを払拭するのに大事になってくるのが、ローカルで、現場の問題に対処するという発想だと思います。それを支える低コストのテクノロジーが、次々に登場している。オープンソース、4G・5G、メイカーズムーブメントを牽引した3Dプリンター、ファブラボ、ファブカフェ、ラズベリーパイなどがそれに当たるでしょう。テクノロジーによる民藝的試み、テクノ民藝とも言えるかもしれません。

これからの時代に大事なのは、自然や生物圏を含めた、豊かなネットワークの相互作用のなかで醸成される「発酵」的なあり方だと考えています。

その点、みそやしょう油、日本酒など、世界に誇れる発酵技術と文化を、個々のローカルで築いてきた日本には、文化的な親和性があると私は見ています。テクノロジー資源が身近になれば、デジタル発酵も進みやすくなるのではないでしょうか。

海外に出て「一次情報」にふれよ

── 落合さんは古今東西の英知をかけ合わせ、独自の発想をされています。こうした力を培うのに役立っている習慣は何ですか。

海外にはたくさん行っているなと思います。この本を書いているときも、ジュネーブでSDGsを学ぶ学科ができたと知り、現地に行ってみたりしました。実際は何が起きているのか? 当事者は何を考えているんだろう? そういったことを知れる場には足を運んで、できるだけ一次情報にふれるようにしています。

海外にあまり行かない方にはグーグルストリートビューも意外と役に立つかもしれません。「サブサハラの経済状況は、1980年代からあまり改善されていない」などと聞くと、どこも同じだと思うかもしれません。でも、南アフリカ共和国の首都ケープタウンと、平均寿命が一番低い国レソトのある地域を見比べると、距離は近いのにまるで風景が違います。このように世界の捉え方の解像度を上げていくと、今度は現地に行ってみたくなるかもしれません。

二項対立の発想だけでは立ち行かない時代に必要な「ベイトソンの発想」

── 落合さんの考え方・発想に影響を与えた本は何ですか。

色々ありますが、1つは『デカルトからベイトソンへ 世界の再魔術化』です。自著『魔法の世紀』から『デジタルネイチャー』への思想の流れにも影響を与えました。

デカルトからベイトソンへ―世界の再魔術化
デカルトからベイトソンへ―世界の再魔術化
モリス・バーマン
国文社
本の購入はこちら
デカルトからベイトソンへ―世界の再魔術化
デカルトからベイトソンへ―世界の再魔術化
著者
モリス・バーマン
出版社
国文社
本の購入はこちら

これまでは、デカルトの心身二元論のような、伝統的なヨーロッパの思想が科学技術の発展を支えていました。それは今後も変わらないでしょう。ただ、貧困や環境問題などは、先進国と開発途上国といった二項対立の発想では解決できないくらいに複雑化しているといえます。そんななか、対極にあるものを融合させて全体を捉えるというのが、ベイトソンの思想です。それはSDGsなどの世界の課題について考えるうえで、大事な方法論になるんじゃないでしょうか。

あと10代の頃はニーチェの本が好きだった。大学生になってからは、元WIRED編集者のクリス・アンダーソンの著作、『MAKERS 21世紀の産業革命が始まる』『フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略』、トーマス・フリードマンの『フラット化する社会』などから影響を受けました。そういった本を読んで、背景に何があるのかを考えていましたね。

MAKERS メイカーズ
MAKERS メイカーズ
クリス・アンダーソン(実業家),関美和(訳)
NHK出版
本の購入はこちら
MAKERS メイカーズ
MAKERS メイカーズ
著者
クリス・アンダーソン(実業家) 関美和(訳)
出版社
NHK出版
本の購入はこちら
フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略
フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略
クリス・アンダーソン
NHK出版
本の購入はこちら
フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略
フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略
著者
クリス・アンダーソン
出版社
NHK出版
本の購入はこちら
フラット化する世界 (上)(中)(下)巻セット
フラット化する世界 (上)(中)(下)巻セット
日本経済新聞出版社
本の購入はこちら
フラット化する世界 (上)(中)(下)巻セット
フラット化する世界 (上)(中)(下)巻セット
著者
出版社
日本経済新聞出版社
本の購入はこちら

ハイデガーのいう存在論的不安に対し、私たちの世代は、「考えるだけじゃ進まないから、デジタルを使って触れるものを作りながら考えてみよう!」という世代です。頭の中で考えることだけでなく、インターネット上で集合知的に考えながらアーカイブを残すことができるようになった時代、行動を起こすこと自体が、現場で考えることでもあります。だからこそアクションを起こし続けることに価値があると考えているし、それが今の自分につながっています。

2030年の世界地図帳  あたらしい経済とSDGs、未来への展望
2030年の世界地図帳 あたらしい経済とSDGs、未来への展望
落合 陽一
SBクリエイティブ
本の購入はこちら
2030年の世界地図帳  あたらしい経済とSDGs、未来への展望
2030年の世界地図帳 あたらしい経済とSDGs、未来への展望
著者
落合 陽一
出版社
SBクリエイティブ
本の購入はこちら
プロフィール:
落合 陽一(おちあい よういち)
メディアアーティスト。1987 年生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。筑波大学准教授・デジタルネイチャー推進戦略研究基盤代表・JST CREST xDiversity プロジェクト研究代表。
2015 年World Technology Award、2016 年PrixArs Electronica、EU よりSTARTS Prize を受賞。また、Laval Virtual Award を2017 年まで4 年連続5 回受賞、2019 年SXSW Creative Experience ARROW Awards など多数受賞。個展として「Image and Matter(マレーシア・2016)」、「質量への憧憬(東京・2019)」、「情念との反芻(ライカ銀座・2019)」など開催。近著として「日本進化論(SBクリエイティブ)」、「デジタルネイチャー(PLANETS)」、写真集「質量への憧憬(amana)」。専門は計算機ホログラム、デジタルファブリケーション、HCI および計算機技術を用いた応用領域(VR、視聴触覚ディスプレイ、自動運転や身体制御)の探求。
オンラインサロン「落合陽一塾」では、日々様々なトピックでのディスカッションや学びを続けている。
https://lounge.dmm.com/detail/48/
このインタビューを友達にオススメする
文責:松尾 美里 (2020/01/10)

weekly ranking
今週の要約ランキング

1
SELFISH(セルフィッシュ)
SELFISH(セルフィッシュ)
トマス・J・レナード
未 読
リンク
2
アート思考
アート思考
秋元雄史
未 読
リンク
3
記録の力
記録の力
メンタリストDaiGo
未 読
リンク

Recommendations
イチオシの本

『僕たちはヒーローになれなかった。』
『僕たちはヒーローになれなかった。』
2020.01.21 update
リンク
今年こそやってみたいこと、ありませんか?
今年こそやってみたいこと、ありませんか?
2020.01.20 update
リンク
資料に残されなかった歴史を知る『ハーメルンの笛吹き男』
【書店員のイチオシ】 資料に残されなかった歴史を知る『ハーメルンの笛吹き男』
2020.01.17 update
リンク
「ピンチをチャンスに変える」方法『会社を潰すな!』
「ピンチをチャンスに変える」方法『会社を潰すな!』
2020.01.07 update
リンク

Interview
インタビュー

落合陽一氏が語る、「2030年の世界」はどこに向かうのか?
落合陽一氏が語る、「2030年の世界」はどこに向かうのか?
2020.01.10 update
リンク
35歳医師は、なぜ、カンボジアの僻地で病院建設に挑んだのか?
35歳医師は、なぜ、カンボジアの僻地で病院建設に挑んだのか?
2019.12.23 update
リンク
「分断」が続く世界を救う「偉大なリーダー」とは?
「分断」が続く世界を救う「偉大なリーダー」とは?
2019.12.17 update
リンク
会社に「空気読みすぎ」の若者が増えてしまった理由
会社に「空気読みすぎ」の若者が増えてしまった理由
2019.12.10 update
リンク
1
SELFISH(セルフィッシュ)
SELFISH(セルフィッシュ)
トマス・J・レナード
未 読
リンク
2
アート思考
アート思考
秋元雄史
未 読
リンク
3
記録の力
記録の力
メンタリストDaiGo
未 読
リンク
『新・魔法のコンパス』をビジネスパーソンに勧める理由
『新・魔法のコンパス』をビジネスパーソンに勧める理由
2019.06.11 update
リンク
これが私の「読書観」
これが私の「読書観」
2015.03.17 update
リンク