

つい無駄遣いしてしまう。締切ギリギリにならないと動けない。健康のためとわかっていても三日坊主に終わる――。私たちが日常でよく経験する、そんな“非合理的な行動”の背景にある心理を解き明かす学問が「行動経済学」です。
いまやマーケティングやマネジメント、人材育成、公共政策にいたるまで、行動経済学の知見は広く応用されており、その理解はビジネスパーソンにとって欠かせない教養になりつつあります。
この記事では、世界的な第一人者による名著から、日常や仕事にすぐ活かせる実用書、人間の本質に迫る一冊まで、行動経済学のおすすめ書籍を厳選してご紹介します。気になる本があれば、ぜひ手に取ってみてください。


「行動経済学とはどんなもの?」から学び始めたいなら、行動経済学をビジネスの観点から効率よく学べる入門書『サクッとわかる ビジネス教養 行動経済学』(阿部誠監修)がおすすめです。
本書によると、行動経済学は、伝統的な経済学が前提とする「人間は常に合理的に、自制的に、自分の利益だけを追求する」という「ホモ・エコノミカス」像に疑問を投げかける学問です。
実際の人間は、不要な服をつい買ってしまったり、健康に悪いと知りつつ喫煙を続けたりと、しばしば非合理的な行動をとります。こうした現実の行動を心理学の知見も取り入れて分析するのが、行動経済学の特徴。経済学と心理学のハイブリッドとも呼ばれ、私たちの日常的な意思決定をよりよいものにする手助けとなります。
本書の特徴は、豊富なイラストを交えた、とにかくわかりやすい解説。行動経済学に興味がある人はもちろん、営業やマーケティングの仕事に携わっている人、消費者心理を理解して成果につなげたい人にもおすすめします。忙しい中でも、サクッと楽しく読めるでしょう。


もう一冊、行動経済学をカジュアルに学べる本を探している人におすすめの本は『行動経済学BEST100 世界最先端の研究が教える新事実』。マーケティング&ブランディングディレクターとして活躍し、行動経済学の著書も多い橋本之克さんが、行動経済学の理論や実験を100個に厳選し、ビジネスパーソン向けにシンプルに紹介した実践的な一冊です。
たとえば、グーグル社員が健康でいられる理由を、行動経済学の視点で解説したパートを見てみましょう。
グーグルのニューヨークオフィスでは、「社員の寿命を2年延ばす」という目標のもと、社員食堂のレイアウトを工夫しました。野菜や果物を目立つ位置に置き、デザートは見えにくい場所へ移動。皿も小さめのサイズを推奨し、「大きな皿は食べる量が増えやすい」と表示しました。
この取り組みの結果、ニューヨークオフィスにおける菓子の摂取カロリーは9%減、水の摂取量は47%増加。こうした施策は、強制せずに良い行動へ導く「ナッジ」という行動経済学の手法に基づいています。
「同調効果」「返報性の原理」「ラベリング効果」など、知っておきたい心理効果を1テーマ1ページで学べる構成は、忙しい人にもぴったり。すぐに仕事や日常に活かせるヒントが詰まっているので、「行動経済学のエッセンスを手早く学びたい」「理論を実務に活かしたい」人におすすめです。


同じく橋本之克さんの著書でおすすめしたいのが『世界は行動経済学でできている』。私たちの身のまわりにあふれる“なんとなくの行動”を、行動経済学の視点で読み解く一冊です。
本書を読むと、私たちのあらゆる悩みが、行動経済学で解決できることに驚くはず。本書の中から悩みの一例を挙げてみましょう。
・指示がコロコロ変わる上司
・なんでも人のせいにする同僚
・自信過剰な部下や後輩
・「限定」や「大人気」という言葉に弱い
・セール品に飛びついて後悔する
・ネット通販で買いすぎてしまう
・夫婦の家事分担に不満がある
・子どもが言うことを聞かない
読み終えたら、まさに「世界は行動経済学でできている」と実感できるでしょう。日々の行動を見直したい人や、行動経済学を生活や仕事に活かしたい人にぴったりの一冊です。


行動経済学の応用法についてより深く広く知りたい人には『行動経済学の使い方』がおすすめ。行動経済学の専門家である大竹文雄さんが、行動経済学の基礎知識とともに、「ナッジ」(意思決定の歪みを、行動経済学的特性を用いてよりよいものに変えていく仕掛け)をキーワードとし、行動経済学を用いて暮らしや仕事、医療・公共政策をより良いものにするアイデアを提案しています。
たとえば、老後資金を貯金するためのナッジ。ここで重要なのは、老後貯蓄の重要性に気づかせることと、その気づきを貯蓄行動に結びつけることです。
まず、老後貯蓄の重要性に気づかせるために有効なナッジの例として、必要な貯蓄額を計算できるツールが挙げられます。このままでは老後に生活水準が低下してしまうと気づかせるようなツールがあれば、老後貯蓄の重要性を実感できるでしょう。
貯蓄行動に結びつけるナッジとして挙げられているのは、就職時に老後貯蓄のための口座が自動で開設されるようにしたり、老後貯蓄の投資ファンドのデフォルトを決めておいて、選択に迷う必要がないようにしたりするというアイデア。これなら、貯蓄を後回しにせずに済むはずです。
これ以外にも、仕事への意欲を高めるナッジや目標と行動のギャップを埋めるナッジなど、さまざまなナッジが紹介されている本書。行動経済学の基礎を学ぶとともに、実生活に生かしたいなら、一読をおすすめします。


ナッジに注目して行動経済学を学びたい人には、世界的ベストセラーの全面改訂版である『NUDGE 実践 行動経済学 完全版』(リチャード・セイラー/キャス・サンスティーン著)がおすすめ。ナッジについて、理論と事例を交えて徹底的に解説しています。
著者のセイラーは、行動経済学の研究で、2017年にノーベル経済学賞を受賞。サンスティーンは、研究者として、オバマ政権では行政管理予算局の情報政策及び規制政策担当官を務めました。両者の知見が融合した本書では、サブスクの解約忘れや交通事故の防止からワクチンの接種促進まで、政策・ビジネス・個人行動のあらゆる場面にナッジを応用する方法が紹介されています。
人を強制せずにより良い行動へと導く「ナッジ」に興味がある人におすすめです。


同じくノーベル経済学賞を受賞したセイラー教授の著書としては、『行動経済学の逆襲』もおすすめ。セイラーが行動経済学に関心をもったきっかけや、影響を受けた理論・研究者を紹介し、行動経済学が確立されるまでの道筋をユーモラスに綴ったロングセラーです。
行動経済学の本質を深く知りたい人や、行動経済学の第一人者のストーリーに触れたい人におすすめの一冊です。


行動経済学のベストセラー本としては、『行動経済学が最強の学問である』を真っ先に挙げる人も多いでしょう。「行動経済学」博士、行動経済学コンサルタントという肩書きで活躍する気鋭の研究者・相良奈美香さんが、「人はなぜ、合理的に行動できないのか?」という問いに、明快かつおもしろく答えてくれる一冊です。
本書の特徴は、難解に思われがちな理論を、研究結果を用いつつ、身近なテーマに落とし込んでわかりやすく紹介してくれる点。
ここでは「プライミング効果」(状況に影響されて無意識に行動を選ぶ心理)について解説された項を取り上げましょう。
アリゾナ州立大学の研究では、ECサイトの背景色を緑にすると価格重視モデルが、赤にすると安全性重視モデルが選ばれやすくなることがわかりました。色が連想を促し、意思決定に影響したと考えられます。また、あるワインショップでは、フランス風の音楽を流すとフランスワインの購入率が大きく上がりました。
こうした事例を読み込めば、私たちが環境によって選択を誘導されていることがより深く理解できるでしょう。行動経済学の入門書として、はじめて学ぶ人にも、理論を実生活に活かしたい人にもぴったりの一冊です。


行動経済学の世界的名著として知られるベストセラー『予想どおりに不合理 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』(ダン・アリエリー著)も外せません。行動経済学ブームの立役者であるダン・アリエリー教授が、人間の意思決定がどれほど“非合理”で“予測可能”であるかを、豊富な実験とともに解説しています。
人はなぜわかっているのに同じ過ちを繰り返してしまうのか、不合理な選択をしてしまうのか。そして、その特性を踏まえたうえで、実社会でどう行動すべきか――。
アリエリー教授の導きにしたがって、興味深い行動経済学の世界に足を踏み入れてみませんか。


ダン・アリエリー教授の著書の中では、『アリエリー教授の「行動経済学」入門』もおすすめ。人のふるまいの不合理さについて、やさしく解説している一冊です。
興味深いのは、環境を少し変えるだけで、人々の意思決定や行動を変えられる例。
たとえば、肥満の問題を解決するために、みんなに食べる量を減らし、ダイエットをするよう促したいとしましょう。行動経済学の知見を活用すると、お皿を小さくするというアイデアが浮かぶでしょう。私たちは食べた量を目でも判断しています。大きなお皿に料理が少ししかのっていないと食べた気がしませんが、同じ量を小さなお皿にのせると、視覚的に満足感が得られるのです。
また、ベンチが体重計になっていて、座ると体重が壁に表示されるバス停があったとしたらどうでしょう。バスを待つのではなく、次のバス停まで歩いてみようと思えるのではないでしょうか。
このように、平易で親しみやすい例を用いて、誰もがピンとくるような“非合理な判断”を解説してくれる本書。「行動経済学に興味はあるけど、難しそうでハードルが高い」と感じている人にもおすすめしたい、行動経済学の入門書です。


『アリエリー教授の人生相談室 行動経済学で解決する100の不合理』は、ダン・アリエリー教授が、行動経済学を用いてお悩みを解決するというユニークな一冊。ウォールストリート・ジャーナル紙の連載「アスク・アリエリー(アリエリー先生に聞いてみよう)」を、加筆修正し、新たにまとめ直した本です。
アリエリー教授が行動経済学の知見を使ってアドバイスするのは、次のようなお悩み。
「自分の仕事とまったく関係のないことを次から次へと頼まれるようになり、自分の仕事ができない。うまく優先順位をつけるにはどうしたらいいですか?」
「娘がぐうたらでつまらない男と付き合い始めました。娘に釣り合うような男でないことを、やんわりと娘に伝える方法はないものでしょうか?」
「割り勘の一番いい方法は?」
「食べ放題のビュッフェの投資収益率を最大化する方法は何か?」
「年々時間が経つのが早くなっていく気がする。人生をもっと楽しむにはどうすればいいか?」
「意思決定を少しでも合理的にするには、どうするのが一番いいか?」
あなたのお悩みも、行動経済学で解決できるかもしれません。気軽に行動経済学の世界をのぞきたい人にぴったりの一冊です。


『努力は仕組み化できる 自分も・他人も「やるべきこと」が無理なく続く努力の行動経済学』(山根承子著)は、「努力が続かない」「習慣化が苦手」「何でも三日坊主になってしまう」と感じる人に向けて、行動経済学の知見を活用して「今よりラクに努力できるようになる」方法を教えてくれる一冊です。
著者の山根承子さんは行動経済学の専門家。大学教員を経て、企業や自治体に行動経済学のコンサルティングを行う法人の代表を務めています。
著者によると、行動経済学を活用した「努力が勝手に続く」仕組みは以下の通り。
(1)フィードバックを得る:自分の頑張りを目に見える形にする
(2)フィードフォワードを活用する:「その行動をどれくらいやるつもりか」を先に決めておく
(3)努力を自動化する:何も考えなくても行動できるようにする
(4)教育の力を用いる:「なぜそれが必要なのか」「どのような効果があるのか」「どのように行うのか」「いつ行うのか」「何を目標として行うのか」を理解しておく
本書を読めば、どんな行動でもラクに習慣化できるようになるでしょう。三日坊主になりがちな人はもちろん、誰かの努力を応援したい人にもおすすめの本です。


行動経済学の定番書といえば、『〔エッセンシャル版〕行動経済学』(ミシェル・バデリー著)も外せません。コンパクトでありながら濃密に、行動経済学という学問を解説しています。
モチベーションとインセンティブ、社会生活、リスク下の選択から、マクロ経済における行動、経済行動と公共政策まで網羅されており、行動経済学の全体像を把握したい人にぴったりの一冊です。


『行動経済学が勝敗を支配する』(今泉拓著)は、スポーツにおけるさまざまな行動を、行動経済学を用いて解説するユニークな一冊。
たとえば「損失回避バイアス」は、人間の、損につながる行動を避ける傾向を指す言葉です。
損失回避バイアスが多くみられるシーンとして挙げられているのが、サッカーのPK戦。
PKでは、ゴールの下段よりも上段を狙ったほうが成功率が高いことがわかっています。それでも実際には、多くの選手が下段を選択します。
たとえば、2010年W杯・パラグアイ戦の駒野友一選手のPK。全員が成功していた中で4人目として登場し、右上隅を狙ったもののバーに当たり失敗しました。日本はそのまま敗退し、駒野選手は責任を問われるような扱いを受けました。
PKを枠外に外すと「なぜゴール内に蹴らなかったのか」という非難を受けやすく、選手は無意識にリスクを避ける傾向があります。
実際、ワールドカップレベルのデータでも、上段を狙ったシュートの成功率は下段より約8%高く、とくに左右上部では8割以上が成功していました。にもかかわらず、上段を狙う選手は全体の3割ほどにとどまり、プロでも心理的なバイアスが判断を左右していることがうかがえます。
アスリートの行動に潜む“人間らしさ”を、行動経済学の視点から分析した本書。スポーツ好きな人には特におすすめの一冊です。


『WORK DESIGN(ワークデザイン)行動経済学でジェンダー格差を解消する』(イリス・ボネット著)は、行動経済学を活用して職場のジェンダー格差や無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)を解消する方法を提案する一冊です。
著者はハーバード大学ケネディ行政大学院の教授で、ジェンダー・異文化間の平等を実現するための行動デザインが専門。採用・評価・報酬・チーム運営といった現場の課題に対し、環境のデザインによる行動変容という具体的な処方箋を提示しています。
組織づくりやダイバーシティ推進に関わるすべての人にとって、実務に直結する知見が詰まった実践的な本だといえます。


『医療現場の行動経済学 すれ違う医者と患者』(大竹文雄/平井啓著)は、医師と患者の間に生じる“認識のズレ”を、行動経済学の視点から読み解いた一冊です。
医療の現場では、医師と患者の双方が互いの言葉や意図を正確に理解することが求められますが、それは決して容易なことではありません。そこで役立つのが、行動経済学の知見です。人が陥りやすい心理的バイアスを理解することで、より合理的な判断を導く手助けになります。
たとえば、あるがん患者が10年間にわたり複数の抗がん剤を試しながら治療を続けてきたとしましょう。ところが、病状が進行し他の持病も悪化したため、医師は抗がん剤の中止を提案します。しかし患者は「これまでの努力を無駄にしたくない」と考え、治療継続を希望します――。
こうしたケースは「サンクコストの誤謬」と呼ばれ、すでにかかった費用や努力にとらわれ、合理的な判断ができなくなる心理現象です。本来、過去のコストは今後の治療選択とは無関係ですが、人の心はそう割り切れません。医師はこのような心理をふまえ、将来に目を向けた説明をすることが大切です。
医療の現場に関わる人はもちろん、取引先やクライアントとの意思疎通をより効率的なものにしたい人にとって示唆に富む一冊です。


『いつも「時間がない」あなたに 欠乏の行動経済学』(センディル・ムッライナタン/エルダー・シャフィール著)は、「お金が足りない」「時間が足りない」と感じる人に読んでほしい、行動経済学と心理学の融合から生まれた一冊です。
著者たちは、“欠乏”が人間の思考や行動をどう歪めるのかを、実験と実例を交えて丁寧に解説しています。たとえば、時間がないと感じているとき、人は目の前の課題に集中するあまり、長期的に重要なことを見落としてしまうという「トンネリング」の概念が紹介されます。
仕事や子育てなど、目の前の忙しさに追われがちな人が、自分の思考パターンに気づき、立て直すきっかけになる一冊です。


『愛と怒りの行動経済学 賢い人は感情で決める』(エヤル・ヴィンター著)は、「人間は理性よりも感情で動く」という事実を、さまざまな実験を紹介しつつ、行動経済学の視点から読み解いていきます。
ビジネスや人間関係において「感情」をどう捉えるかという課題を抱える人にとって、気づきの多い一冊だといえるでしょう。


『人は悪魔に熱狂する 悪と欲望の行動経済学』(松本健太郎著)は、人間の悪の側面に焦点を当て、その行動の理由を解説する一冊です。
「キレイごと」より「本音トーク」がウケる理由、大人はなぜ「正論」に怒るのか、「煽り文句」はなぜ刺さるのか……現代社会を生きる誰もが共感できるテーマを用いて、人間の非合理性をあぶり出していきます。
「ヒット商品には必ず『悪』の顔がある」「膨大なデータを眺めて『次のヒットは確率的にこれ』と予想するよりも、人間の悪の側面を眺めて『こういう煩悩は誰もが持っているからヒットしそう』と予想する方が、よほどヒットする確率が高い」――これらは本書に登場する印象的なフレーズです。興味を引かれた人は、ぜひ手に取ってみてください。人間の本質を知り、ビジネスやコミュニケーションを自分の思うままに進めたい人にぴったりの一冊です。
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