行動経済学が最強の学問であるの表紙

行動経済学が最強の学問である


本書の要点

  • 行動経済学の本質である「非合理な意思決定」は、「認知のクセ」「状況」「感情」の3つの要因に分けられる。

  • 「認知のクセ」を生む理論に「システム1 vs システム2」があり、迅速な判断につながる「システム1」は間違った意思決定につながりやすい側面もある。

  • 天候や周囲の人の有無、物の位置、多すぎる情報などの「状況」が私たちの意思決定に影響を与える。その状況の制御は難しい。

  • 「淡い感情」である「アフェクト」は、人を動かすうえで重要な意味を持っている。

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愛しき非合理な人間

行動経済学の本質

A Mokhtari/gettyimages

経済学と心理学という異なる学問を融合させた行動経済学の本質とは、「人間の『非合理な意思決定のメカニズム』を解明する」ことである。

現在の経済学の基本を確立したのはアダム・スミスだ。「神の見えざる手」によって、市場経済では適切な資源配分がうまく達成されるというその理論には、「市場メカニズムの中で動く人間も、常に理性的で正しい判断をする」という前提がある。

しかし、「市場経済は完全に合理的ではない」ことを私たちは経験で知っている。わかりやすい例を見てみよう。米国国勢調査局によれば、「55~66歳の人の5割が退職後の蓄えを保有していない」という。積立ては明らかに将来の自分を支えるのに、多くの人が確定拠出年金などに加入したり、うまく資産を増やしたりできない。

合理的な個人を前提とする限り解けないこの謎について行動経済学は、人間の持つ3つのバイアスで説明する。1つは「イナーシャ(慣性)」で、面倒を避けて「このままでいいや」とするバイアスのことだ。2つめは「損失回避」で、未来の貯金が1万円増えるプラスの感情より、今月の1万円が減るマイナスの感情のほうが大きいことを指す。もう1つは「現在志向バイアス」で、「今この瞬間」に重点をおき、「未来の自分」を他人事のように感じることを言う。これらのバイアスの影響で、合理的な判断ができなくなる。

「ナッジ理論」でノーベル経済学賞を受賞したセイラー氏は、逆にそのバイアスを有効に利用して、企業年金への加入率を上げることに成功している。行動経済学は「非合理な行動を変えることもできる」のだ。

著者は、行動経済学の本質である「非合理な意思決定」を、「認知のクセ」「状況」「感情」の3つの要因にカテゴライズしている。「認知のクセ」とは脳の情報処理方法にある「歪み」だ。「状況」は「脳の外」で私たちに影響を与えるものを指す。そして、不安や怒りなどの「感情」も重要なファクターである。これらが複雑に絡み合って私たちは非合理な意思決定をするのだ。

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【必読ポイント!】 認知のクセ

システム1 vs システム2

「素直に処理してはくれない」人間の情報処理では、「システム1」と「システム2」という2つの思考モードが使い分けられている。行動経済学の父、ダニエル・カーネマンは、直感的で瞬間的な判断である「システム1」を「ファスト」、注意深く時間をかけた判断である「システム2」を「スロー」と呼んだ。これは、「認知のクセ」に関する理論のなかで、最も基本となるものである。

システム1がデフォルトではあるが、システム2より優位ということはなく、これらは無意識下で連動している。全てをシステム2に頼ると、身動きが取れなくなって脳がパンクしてしまう。一方で、システム1は思い込みや偏見を招き、間違った意思決定につながることもある。

ある研究では、人間は、「疲れているとき」「選択肢が多いとき」「時間がないとき」などにシステム1を使いがちだということが示されている。忙しく、多量の情報にさらされるビジネスパーソンは、システム2のエンジンである「注意力」を損ないがちなのだ。

「五感」も認知のクセになる

脳の中だけでなく「身体的認知」も認知のクセを生み出す。方向や長短などの抽象的な概念を具体的なもので喩えることで理解を促進する「概念メタファー」もその一つだ。

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要約公開日 2023.11.19
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