それをお金で買いますか
市場主義の限界

未 読
それをお金で買いますか
ジャンル
著者
マイケル・サンデル 鬼澤忍(訳)
出版社
早川書房
定価
1,750円 (税抜)
出版日
2014年11月07日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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市場主義の限界
著者
マイケル・サンデル 鬼澤忍(訳)
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出版社
早川書房
定価
1,750円 (税抜)
出版日
2014年11月07日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
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レビュー

我々は普段から「世の中にはお金で買えないものもある」と考えている。例えば真の愛情や何かを成し遂げた誇りなどはお金では得られない充足感を与えてくれる。お金で買ったトロフィーに、一体何の価値があるのだろうか。しかし、この世で実際に売買されているものについてはどう思うだろうか。例えば臓器売買、人間の身体を使った広告、大学への裏口入学などだ。

一部の人はそれらの売買は問題ないと考えるだろう(多様な価値観があるからこそ、本書は「善をめぐる議論をしよう」と訴えている)。しかし多くの人がこうした事例について懸念を抱くだろうし、中には嫌悪感さえ覚える人もいるかもしれない。

本書はこうした市場主義の蔓延によって生み出された様々な事例を紹介するなかで、市場の限界を再認識し、道徳的価値観を見直そうというものだ。紹介される事例は米国のものが多く、一部は日本でも見られるものもあるが、資本主義国家の代表である米国ではここまで商業主義が蔓延っているのかと思うと、興味深いと同時に不気味さを感じるほどである。

著者のベストセラー「これからの『正義』の話をしよう」に比べると、哲学に関する事前知識が無くとも読みやすい一冊となっており、道徳心を見つめ直す良い機会になるだろう。私たちの生活と密接にかかわる市場主義は万能ではなく、大いなる危険性を孕んでいるのだ。

苅田明史

著者

1953年生まれ。ハーバード大学教授。専門は政治哲学。ブランダイス大学を卒業後、オックスフォード大学にて博士号取得。2002年から2005年にかけて大統領生命倫理評議会委員。1980年代のリベラル‐コミュニタリアン論争で脚光を浴びて以来、コミュニタリアニズムの代表的論者として知られる。類まれなる講義の名手としても著名で、中でもハーバード大学の学部科目「Justice(正義)」は、延べ14,000人を超す履修者数を記録。あまりの人気ぶりに、同大は建学以来初めて講義をテレビ番組として一般公開することを決定。この番組は日本では2010年、NHK教育テレビで『ハーバード白熱教室』(全12回)として放送されている。同講義を著者みずから書籍化した『これからの「正義」の話をしよう』は、日本をはじめとする世界各国で大ベストセラーとなった。

本書の要点

  • 要点
    1
    現代はほぼすべてのものが売買される時代であるが、われわれは市場の道徳的限界をめぐる議論を避けるべきではない。
  • 要点
    2
    行き過ぎた市場主義を懸念する理由の一つは不平等にかかわるもので、市場が嗜好品だけでなく日常に関連するものごとに広がると、貧しい人にとってはますます生きていくのが難しくなってしまう、という主張である。
  • 要点
    3
    もう一つの理由は、市場には腐敗を招く、つまり市場はものを分配するだけではなく、取引されるものに対する特定の態度を表現し、それを促進する懸念があるというもので、例えば子供が読書することにお金を払うようにすると、読書の意味づけが変質してしまう、という主張である。

要約

市場と道徳

iStock/Thinkstock
市場勝利主義の時代

世の中にはお金で買えないものがある。だが、最近ではあまり多くない。いまや、ほとんどあらゆるものが売りに出されている。例えば、

・刑務所の独房の格上げ:一晩八二ドル――カリフォルニア州サンタアナをはじめとする一部の州では、非暴力犯が特別料金を払うと、払わない囚人とは別の、清潔で静かな独房に入ることができる。

・額(あるいは体のどこかほかの部分)のスペースを広告用に貸し出す:七七七ドル――ニュージーランド航空は三〇人の人を雇うと、頭髪を剃らせ、消える入れ墨でこんなスローガンを入れさせた。「変化が必要? それならニュージーランドへ行こう」

われわれは、ほぼあらゆるものが売買される時代に生きている。過去三〇年にわたり、市場――及び市場価値――が、かつてないほど生活を支配するようになってきた。市場と市場的思考が比類なき威光を放つようになったのは冷戦後のことだ。物の生産と分配を調整するほかのいかなるメカニズムも、富と繁栄を築くことにかけては、市場ほどの成功を収めたことがなかった。こんにち、売買の論理はもはや物的財貨だけに当てはまるものではなく、いよいよ生活全体を支配するようになっている。

市場の道徳的限界

すべてが売り物となる社会に向かっていることを心配するのはなぜだろうか。理由は二つある。一つは不平等にかかわるもの、もう一つは腐敗にかかわるものだ。

まずは不平等について考えてみよう。裕福であることのメリットが、ヨットやスポーツカーを買ったり、優雅な休暇を過ごせたりといったことだけなら、収入や富の不平等が現在ほど問題となることはないだろう。だが、ますます多くのもの――政治的影響力、すぐれた医療、犯罪多発地域ではなく安全な地域に住む機会、問題だらけの学校ではなく一流校への入学など――がお金で買えるようになるにつれ、収入や富の分配の問題はいやがうえにも大きくなる。

すべてを売り物にするのがためらわれる第二の理由は、市場には腐敗を招く傾向があるということだ。市場はものを分配するだけではなく、取引されるものに対する特定の態度を表現し、それを促進する。子供が本を読むたびにお金を払えば、子供はもっと本を読むかもしれない。だがこれでは、読書は心からの満足を味わわせてくれるものではなく、面倒な仕事だと思えと教えていることになる。

経済学者はよく、市場は自力では動けないし、取引の対象に影響を与えることもないと決めつける。だが、それは間違いだ。市場はその足跡を残す。ときとして、大切にすべき非市場的価値が、市場価値に押しのけられてしまうこともあるのだ。

公共生活や人間関係において市場が果たすべき役割は何だろうか。売買されるべきものと、非市場的価値によって律せられるべきものを区別するには、どうすればいいだろうか。お金の力がおよぶべきでない場所はどこだろうか。われわれは市場の道徳的限界をめぐる議論を避けるべきではない。

行列に割り込む

iStock/Thinkstock
行列代行会社の例

ワシントンDCでは、議会の委員会が立法案に関する公聴会を開く際、企業のロビイストたちは席を取るために何時間も並びたくはないため、専門の行列代行会社に数千ドルを支払い、自分の代わりに行列に並ぶ人を手配してもらう。並ぶのは主に年金生活者、文書配達人、ホームレスの人たちだ。

こうした行為に何か悪いところはあるだろうか。ほとんどの経済学者はないと言う。市場は行列に優越するという主張には二つの論拠がある。一つは個人の自由の尊重にかかわるもので、人々は他人の権利を侵さないかぎり何でも自由に売り買いすべきであるという主張だ。

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