THE LAST GIRL
イスラム国に囚われ、闘い続ける女性の物語

未 読
THE LAST GIRL
ジャンル
著者
ナディア・ムラド ジェナ・クラジェスキ 吉井智津(訳)
出版社
東洋館出版社 出版社ページへ
定価
1,800円 (税抜)
出版日
2018年11月30日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.5
革新性
4.5
応用性
3.5
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イスラム国に囚われ、闘い続ける女性の物語
著者
ナディア・ムラド ジェナ・クラジェスキ 吉井智津(訳)
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東洋館出版社 出版社ページへ
定価
1,800円 (税抜)
出版日
2018年11月30日
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4.5
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4.5
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レビュー

ヤズィディ教を信仰する貧しくも平和な村で育った著者ナディア・ムラドは、家族を大切にし、おしゃれを楽しむ、私たちと時を同じくして生きている女性であった。その生活は、ある時を境にすべて失われてしまう。2014年、ISISによって住んでいたイラクの村を襲撃されたことで、彼女の生活は崩壊した。

正直なところ、要約者は、本書を読むまで、ヤズィディ教についてもISISが行った行為の詳細も、ほとんど知らなかった。しかし著者の言葉によって、戦争による大量虐殺も性奴隷の売買も、遠い昔の物語ではなく今この瞬間に起こっている事実なのだということがはっきりと示され、改めてその事実に衝撃を受けた。

性奴隷となった女性たちにも、大勢の家族があり、生活があり、好きなことや大切にしている価値観があったが、愛おしく思えた時間のすべてが夢のように消え去ってしまった。二度と手に入らない生活への悲しみを抱え、生き残った者として罪悪感を抱えながらこの後の人生を生きていくのは、どんなに苦しいことであろうか。著者はその体験を語ることによって、ISISやそれに加担した人々を大量虐殺の罪で告発することに人生を投じていく。

本書は、戦争体験記であるとともに、戦争によって暴力性を増した世界にはびこるすべての悪を告発している。著者は「戦下における武器としての性暴力の根絶に尽力」したとして、2018年にノーベル平和賞を受賞した。著者の勇気と覚悟へ敬意をもって、本書をぜひとも一読いただきたい。

菅谷真帆子

著者

ナディア・ムラド
人権活動家。ヴァーツラフ・ハヴェル人権賞、サハロフ賞を受賞し、人身売買の被害者らの尊厳を訴える国連親善大使に就任した。現在は、ヤズィディの権利擁護団体ヤズダとともに、イスラム国を大量虐殺と人道に反する罪で国際刑事裁判所の法廷に立たせるべく活動している。
2018年、「戦争および紛争下において、武器としての性暴力を根絶させるために尽力したこと」によりノーベル平和賞受賞。

ジェナ・クラジェスキ
ジャーナリスト。ニューヨークを拠点に活動し、トルコ、エジプト、イラク、シリア関連の記事を、ニューヨーカー、スレート、ネイション、ヴァージニア・クォータリー・レビューなどのメディアで執筆している。2016年度ミシガン大学ナイト・ウォレス・フェロー。

本書の要点

  • 要点
    1
    ヤズィディ教を信仰する村人たちは、たびたび大虐殺の対象にされてきた。
  • 要点
    2
    村人たちが改宗を拒否すると、男性たちは殺されてしまった。若い女性たちはバスに乗せられ、ISISの性奴隷として運ばれた。
  • 要点
    3
    ヤズィディ教徒の未婚女性にとって、改宗させられることと処女でなくなることは、大きな打撃となる。ISISが女性たちを性奴隷として利用したのは、そのことを知っていたからだ。

要約

前触れ

ふるさと
Mike_Pellinni/gettyimages

著者は、イラク北部にあるシンジャール地方のコーチョの村で生まれ育った。この村の住民は、全員がヤズィディ教徒だ。コーチョは他のヤズィディ教徒の村と遠く離れており、イラクのスンニ派アラブ人とスンニ派クルド人のあいだに立たされ、いずれかのアイデンティティを選ぶよう求められてきた。彼らは何世代も前から殺害や改宗、収奪といった攻撃にさらされており、外部勢力から73回にわたって攻撃されてきたという。

2014年の夏、村のはずれで、農家の男性ふたりと雌鶏一羽、雛鳥数羽が姿を消した。著者が高校最後の年の始まりに向けて準備をしていたころだった。雌鶏一羽と雛鳥数羽――それらが示唆するものが明らかになったのは、それから2週間後、ISISがコーチョの村を制圧したあとのことだ。雌鶏は村の女、雛鳥は子供。つまり、村の女性と子供を連れて行くという「メッセージを送っていた」というのがISISの言い分だった。

家族との暮らし

両親が離婚すると、母と子どもたちの暮らしは貧しくなったが、母のがんばりと2003年以降のイラク北部の経済成長のおかげで、少しずつ生活環境が整っていった。母はあらゆることを冗談に変え、失敗を笑い飛ばせる人であった。著者はそんな母を慕い、愛おしく感じていた。

コーチョは子供が多い村だ。それゆえに親の負担は大きかった。だがそんな苦労があってもなお、著者が村を離れたいと思ったことはなかった。暑さの厳しい夏は、夜になればみんなで屋根にあがり、家族や隣人とおしゃべりをして過ごす。農作業はきつくても、それをこなせばつつましく楽しく暮らせるだけの収入があった。何より家族がそこにいた。著者には8人の兄、2人の姉、腹違いのきょうだい2人がおり、全員が近所に暮らしていたという。

特に母は、21年間の間、著者の生活の中心にいた。当時の著者には自宅にメイクアップサロンを開店するという夢があり、その計画を母に話していた。計画に賛同しながらも、どこへも行かないでという母に、著者はいつも「絶対に母さんを置いてなんていかない」と答えていた。

ヤズィディ教の教え
maroke/gettyimages

ヤズィディ教では、神によって世界の運命をゆだねられたクジャクの姿をした大天使、タウセ・メレクを信仰する。聖書やコーランのような聖典はない。そのため、ヤズィディ教は“本物の”宗教ではないという人もいる。タウセ・メレクが降臨した水曜日を休息と祈りの日とし、シャワーを浴びないというヤズィディ教徒もいるが、それを理由に「ヤズィディ教徒は汚い」といわれることすらあるなど、小さなことでも非難の対象になってきた。

ヤズィディ教徒は、教徒以外との結婚は許されておらず、また他教からの改宗も認められていない。コーチョでは一日3回のお祈りが一般的で、祈る場所の指定は特にない。ヤズィディ教徒は自分たちの宗教に誇りを持ち、ほかのコミュニティからの排除にも甘んじて生きてきた。

コーチョの村に学校が建てられると、授業はクルド語ではなくアラビア語で行われた。教科書の中にヤズィディ教は存在せず、クルド人は敵として登場する。そしてアラブ系のイラク人が、植民地支配をしていたイギリス人たちと戦った英雄として描かれていた。

のちにISISがヤズィディ教徒の村を攻撃したとき、イラクの他の住民たちが行動を起こすことはなかった。著者はその理由のひとつとして、こうした教科書を使った教育があったと断言する。イラクの公教育は少数派の宗教を無視し、イラクが戦争を行うこと自体をも正当化していたのだ。

崩壊

ISISの台頭

2003年、アメリカ軍がバグダッドに侵攻した。コーチョの村人たちは携帯電話を持たず、他の村とのつながりもなかったため、サダム・フセインの失脚をかなり遅れて知ることとなった。

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