21世紀は、前世紀にも増して複雑で、多様化している。この25年間、世界のリーダーシップを取り巻く文化基盤は軸ごと大きく転換したといえるだろう。かつてのリーダーシップに求められる性質は、例えば男性中心主義的で論理思考を重んじるということだった。現在は、男性的・女性的な視点を合わせ持ち、二極的かつ予測不可能な状況に対応できるということへ変化している。
現代社会が混沌として見えるということは、状況パターンを見逃してしまっているせいかもしれない。リーダーが直面する多くの問題は互いに関連し合い、さらには視点によっては全く異なった様相を見せる。視点や立場が異なれば、問題の受け取り方は変わる。21世紀という新しい時代にはこれまでとは違う力学が働いており、優先事項や目的も異なる。
新時代のリーダーを務めるには、経験知からの予測のみに頼るだけでは足りない。実際に何が起きているのかを正しく見極め、大局的な見地から、流動的な状況に柔軟に対応する必要がある。
このようなリーダーシップについての考え方を具体化するために、著者らは「リーダーシップ・キティラ」というモデルを考案する。このモデルは、古代ギリシャの精巧な歯車式機械「アンティキティラ」からヒントを得たものだ。アンティキティラは、天体の運行を計算する機械である。西ヨーロッパに天文時計が登場したのが14世紀、機械式計算機が登場したのが16世紀という事実を考えれば、アンティキティラが紀元前約205年に存在したというのは、想像を絶する。想像できないことも実際に起こりえるという意味合いを込めて、二重性や二極的な構造を示す今世紀の諸問題を提示するのが「リーダーシップ・キティラ」だ。
リーダーシップ・キティラは、中に8つの軸がある球体と発想されている。この球体は回転している。テクノロジーの発達スピードが速まれば、回転も速まり、その遠心力で軸の二極化はいっそう強まる。
8つの軸には、それぞれ、現代社会においてますます顕著となる光と影のパラドックスが、次のように「I」を頭文字とする言葉で表現されている。人々の行動を変える「情報化(Information)/情報洪水(Inundation)」。世界経済の状況を映しだす「国際性(Internationalism)/島国性(Insularity)」。インターネットの普及に伴い変化した人々の性質を表す「即時性(Immediacy)/性急さ(Impatience)」。ユートピア、または、ディストピアの思想へと人々を導く「知性 (Intelligence)/暴動(Insurgency) 」、国際的な地政学の理解を促す「インフラ(Infrastructure)/孤立(Isolation)」。社会を変え続けるテクノロジーを表す「イノベーション (Innovation)/脅威 (Intimidation)」。ジェンダー問題を表す「包含性(Inclusivity)/不平等(Inequality) 」。新しい価値観を反映する「インスピレーション (Inspiration)/逆行 (Inversion)」。
8つの軸は中心で重なり合い、それぞれの軸が内包する課題が互いに影響し合う。リーダーは、状況の変化による二極化の様相を理解し、正の側面を享受しつつ、負の側面に対応していかねばならない。また、リーダーシップ・キティラが指し示すのは、過去の事象ではなく、現在と未来の事象に着目する重要性だ。リーダーが心に描く世界が未来を形作ると、著者らは主張する。
本要約では、これら8つの軸の中から、21世紀のリーダーシップを地政学的見地から理解するための「インフラInfrastructure/孤立Isolation」、および、鮮明になりつつあるジェンダー問題を考える「包含性Inclusivity/不平等Inequality 」の軸について取り上げる。
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