不平等と再分配の経済学

格差縮小に向けた財政政策
未読
不平等と再分配の経済学
不平等と再分配の経済学
格差縮小に向けた財政政策
未読
不平等と再分配の経済学
出版社
出版日
2020年02月28日
評点
総合
3.7
明瞭性
3.0
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

本書は『21世紀の資本』で知られる著者が、経済学の観点から「不平等」というテーマを概説したものである。1997年に初版が刊行されて以来、全体の構成と参照された情報、資料は基本的に変わっていないが、論点は古びていない。

格差とその是正に関する議論は、自由市場の機能に任せるか、それとも政府が市場に介入するかといった対立軸と同時に、効用の上昇や経済効果を基準にするか、それとも公正さを基準にするかといった論点を通して争われてきた。社会全体の経済効果を最大化するための最適な資源の再配分は、必ずしも各人にとって公正なものであるとは限らない。たとえば、ある人に多大な負担を強いることが社会全体の利益となるとしても、その負担が過度であれば、負担を被る当人にとっての公正さは損なわれているからだ。しかし本書では、その公正な再分配と、社会全体の経済的な利益につながる効率的な再分配とは両立すると説く。そして、労働者の賃金を上げる直接的再分配よりも、累進課税や社会保障を通して政策的に行われる財政的再分配の方がより効率的であるとの主張が特徴的である。

不平等や格差の是正は、倫理的な観点から主張されることも多いが、残念ながらそれだけで社会を変えるのは難しい。倫理的なだけでなく、効率的でもある論点であれば、不平等や格差の是正に対する社会的なコンセンサスをより形成しやすくなるだろう。不安定さが増す時代を迎え、今後ますます、本書で提示されているような視点の重要度が高まるのではないだろうか。

ライター画像
大賀祐樹

著者

トマ・ピケティ Thomas Piketty
1971年、フランス(クリシー)生まれ。フランス国立社会科学高等研究院(EHESS)で博士号を取得後、米国MITでの教鞭を経て、現在EHESSの研究所長を務める。また、パリ経済学校の創設に貢献し、2014年より同校教授を兼任する。専門分野は公共政策と経済史。不平等の経済に関し、とくに歴史的かつ国際的なパースペクティブの下に研究を行うスペシャリストとして世界的に有名である。主要著書として、Les hauts revenus en France au XXe siècle, Drasset, 2001(山本和子・山田美明・岩澤雅利・相川千尋訳『格差と再分配――20世紀フランスの資本』早川書房、2016年)、Le capital au XXIe siècle, Seuil, 2013(山形浩生・守岡桜・森本正史訳『21世紀の資本』みすず書房、2014年)、Capital et Idéologie, Seuil, 2019などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    資本の量やその所有の有無から生じる資本と労働の不平等は、世代間で再生産されてしまうため、解消する必要がある。
  • 要点
    2
    再分配には、企業が労働者に支払う賃金を上げるような直接的再分配と、徴税と社会政策を通じた財政的再分配がある。
  • 要点
    3
    生まれ育ちの環境が要因となる不平等に介入するため、教育の機会だけでなくクラスの「質」といった環境の格差も是正しなければならない。
  • 要点
    4
    低賃金労働者は収入の多くを社会保険料で徴収されており、実質的に再分配のための大きな負担がかかっているため、これを軽減させなければならない。

要約

不平等の実態

不平等と再分配をめぐる対立
francescoch/gettyimages

不平等と再分配の問題は、二つの立場の対立となって現れる。

右派の自由主義的立場は、市場の力、個人的なイニシャチブ、生産力の発展が、長期的に不利な状況にある人々の生活条件を改善できるとする。したがって、再分配に対する公的機関からの介入は、できるだけわずかなものに制限されなければならない。市場と価格のシステムが自由に機能するままにする。

一方、左派の立場は、資本主義社会によって生み出された貧困を軽減するために、社会的かつ経済的な闘争を求める。再分配に関して公的機関は、生産過程にまで入り込まなければならない。賃金労働者の間の不平等を問題とし、生産手段の国有化などが政策として示される。

このように、右派と左派の対立は、再分配への考え方と、それに関連した手段の違いがとくに大きいことを示している。経済学者はこの対立を、〈純粋な再分配〉と〈効率的な再分配〉との違いで表現する。前者は、市場均衡の考え方に基づき、より恵まれた個人がそれほど恵まれていない人に資金を再分配することを求める。後者は、市場の不完全性を前提に、介入によって資源配分の公平性を改善しようとする。

賃金の格差

フランスの世帯の所得を階層ごとに分析してみると、年金や各種手当て、あるいは投資や不動産などの資産と比較して、大部分の層で賃金所得が全所得のうちの大きな割合を占めていることがわかる。資産から大きな収益を得ている5%の最富裕層でも、賃金所得の割合が63・6%と最も大きい。

2000年におけるフランスの賃金の中央値は1400ユーロであったが、平均賃金は1700ユーロであった。これは、一部の富裕層が受け取る非常に高い賃金が、平均賃金を引き上げるからである。最も裕福な10%層と最も貧しい10%層との間には、平均賃金に3倍の差がある。

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要約公開日 2020.06.18
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