科学と資本主義の未来

〈せめぎ合いの時代〉を超えて
未読
科学と資本主義の未来
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〈せめぎ合いの時代〉を超えて
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科学と資本主義の未来
出版社
東洋経済新報社

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出版日
2023年04月20日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

我々は「価値」のない時代を生きている。絶対的な目的や真理といったものはなく、我々は常にその時代その時代で目指すべき道を選ばなくてはならない。現代において、最も力のある正義の一つは経済発展だろう。資源を消費し、新たな価値を生み出し続け、そして資本を社会に蓄積させていく。そして科学はこうした無限の発展に寄与し、新たな技術を生み出すべく資金がつぎ込まれてきた。これまで、この方向性に疑問を持つ人は限りなく少なかったといえる。ニュースではGDPという指標が当たり前のように大きく取り上げられている。

では、果たしてその方向性は本当に正しいのか。これが本書の投げかける疑問である。昨今、持続可能性という言葉がよく取り上げられる。立ち止まって考えてみれば、GDP追求の結果、環境資源を減らしてしまうと、我々は経済発展と引き換えに何か大きなものを失ってしまうかもしれない。ならば、資本主義と科学はどのような展望を描けばいいのか。本書はダイナミックな視点を持ちながら、資本主義とは科学とは何かという堅実な議論から未来への展望を描いていく。

本書をめくれば、人類の頭上を飛び立つ大鷲のようにこの社会を俯瞰し、草花の合間を縫う蜂のように繊細なものを見つめる、大小さまざまな視点を得ることができるだろう。

著者

広井良典(ひろい よしのり)
京都大学人と社会の未来研究院教授。1961年岡山市生まれ。東京大学・同大学大学院修士課程修了後、厚生省勤務を経て1996年より千葉大学法経学部助教授、2003年より同教授。この間マサチューセッツ工科大学(MIT)客員研究員。2016年より京都大学教授。専攻は公共政策及び科学哲学。限りない拡大・成長の後に展望される「定常型社会=持続可能な福祉社会」を一貫して提唱するとともに、社会保障や環境、都市・地域に関する政策研究から、時間、ケア、死生観等をめぐる哲学的考察まで、幅広い活動を行っている。『コミュニティを問いなおす』(ちくま新書)で第9回大佛次郎論壇賞を受賞。
その他の著書に『日本の社会保障』(第40回エコノミスト賞受賞)、『定常型社会』『ポスト資本主義』(以上、岩波新書)、『生命の政治学』(岩波書店)、『ケアを問いなおす』『死生観を問いなおす』『持続可能な福祉社会』(以上、ちくま新書)、『人口減少社会のデザイン』『無と意識の人類史』(以上、東洋経済新報社)など多数。

本書の要点

  • 要点
    1
    私たちの生きる時代は「スーパー資本主義」「スーパー情報化」と、「ポスト資本主義」「ポスト情報化」という2つのベクトルがせめぎ合っている。
  • 要点
    2
    科学と資本主義は両輪のように相互的に作用しながら発展してきた。そうした時代の変遷を理解し、現在の「情報化」「資本主義」の先を見据える視野の広い展望が、今の日本には必要なのではないだろうか。
  • 要点
    3
    資本主義の議論は活発だが、論者が資本主義のことを十分理解しているとは言い難い。時折資本主義と市場経済は同質のように語られるが、これは大きな誤解である。

要約

せめぎ合いの時代

2つのベクトルのせめぎ合い

私たちの生きる時代は、2つのベクトルのせめぎ合いの時代としてとらえることができる。第一のベクトルは「スーパー資本主義」「スーパー情報化」という方向だ。デジタル化によって「効率化」が進み、人々はその利便性を享受してきた。しかしながら、それはスピードと利潤をめぐる極端な競争の幕開けでもある。極端な効率化は格差の拡大、エネルギーの争奪戦という副作用をもたらし、結果として気候変動と環境危機が加速していった。

第二のベクトルは「ポスト資本主義」「ポスト情報化」という方向である。これらは人々が環境の有限性に関心を向け始め「限りない成長」よりも「持続可能性」を踏まえた経済社会のあり方を志向し、それに伴い社会の構造や豊かさの意味を再考するような動きである。

我々が「科学」と呼ぶものは、17世紀以降同時代に生成した資本主義と相互的に影響を与えながら車の両輪のように展開してきた。本書では、科学と資本主義、ポスト資本主義を総合的に構想し、科学と社会の新たなビジョンを提案することを目的とする。

科学と経済の関係
imagedepotpro/gettyimages

科学とはそれが独自に発展していくのではなく、その時代の経済社会と密接にかかわり合いながら進んでいく。ここでは資本主義との関わりに注目しながらその流れを追っていこう。

我々が「科学」と呼んでいるものは実質的に「西欧近代科学」を指している。近代科学はヨーロッパで勃興し、それと並行するかたちで資本主義も本格的に始動した。これらを通じてヨーロッパの世界制覇が展開していったのがこの時代である。

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要約公開日 2024.08.24
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