本書の要点

  • 平成元年頃、「八海山」(新潟県)の製造が追いつかずプレミア化が起こった。八海山を醸造する八海醸造は、それを“利益を高く取るチャンス”とは捉えず、製造体制に投資して「質」と「量」を両立させた。

  • 2022年の日本酒全体の輸出額は約475億円で、その15%を「獺祭」(山口県)が占めている。そんな獺祭のすごさは、「酒米の王様」と呼ばれる山田錦を原材料とし、最大限の手間とコストをかけて製造している点にある。

  • 日本酒を造るためには清酒の酒類製造免許が必要だが、日本国内では70年間で一度も新規免許が発行されておらず、休廃業した酒蔵を買収・継承するしかなかった。そのような業界に新風を吹き込んだのが、クラフトサケを製造・販売する「WAKAZE」だ。

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【必読ポイント!】 「八海山」に学ぶ酒ビジネスの世界

なぜ八海山はどこでも美味しく飲めるのか

tomoya murakami/gettyimages

「八海山」(新潟県)は、日本酒を嗜む人ならきっと口にしたことがある、知名度の高いお酒だ。居酒屋で飲めるほか、スーパーやコンビニでも手軽に購入できる。

八海山を醸造する八海醸造はどちらかというと若手の酒蔵だ。創業数百年の蔵も少なくない中で、八海醸造は創業100年を迎えたばかりである。

そんな八海醸造の手掛ける事業は幅広い。日本酒以外にも焼酎や梅酒、地ビールを醸造しているし、グループ会社では北海道のニセコでジンとウイスキーを製造している。また、東京都の麻布・日本橋に直営店「千年こうじや」を構えて地元の魚沼の食文化を発信しているほか、本拠を置く南魚沼市では複合施設「魚沼の里」を運営している。海外では、アメリカ・ニューヨーク州で初のクラフトSAKEメーカー「Brooklyn Kura」とパートナーシップを締結した。

これほど多角的な経営を行い、ブランドの認知が高まっている八海山を、なぜ私たちはいつでも美味しく飲めるのか。その理由は、八海醸造が「よい酒を、より多くの人に」という理念のもと、企業努力を続けているからだ。

実は平成元年頃、八海山の評価が高まる中、製造が追いつかずプレミア化が起こり、2000円のお酒が5000円で流通したことがあった。一般的な企業なら、これを“高く利益を取るチャンス”と捉えるかもしれない。だが八海醸造は違った。「商品が需要に対して少ないのは、メーカーとして供給責任を果たせていないから」と考え、供給量の確保に努めたのだ。しかも「製造体制をそのままにして製造量だけを増やすと、日本酒は必ず質が悪くなる」として、設備の拡充と刷新、原料確保などへの投資をためらわなかった。

「質」と「量」を両立させる努力があったからこそ、私たちはいつでもどこでも八海山を美味しく飲めるのである。

なぜ今、世界で日本酒が人気なのか

今、世界各地で日本酒が注目されている。数字で見ても、2022年度の日本酒の輸出額は475億円と、2009年の6.6倍にのぼる。日本酒の国内市場は4500億円と推計されているので、約1割相当が海外で販売されている計算だ。

なぜ世界中で日本酒の人気が高まっているのか。その理由は3つ考えられる。

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要約公開日 2025.01.12
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