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東大ファッション論集中講義の表紙

東大ファッション論集中講義


本書の要点

  • 西洋の衣服は、身体に合わせて布を裁断し、縫い合わせることが特徴的である。身体をすっぽりと覆いたいという欲望には、母親から分離された胎児としての不安が関係している。

  • 服は長く仕立屋による一点ものであったが、見本を先に見せてからその通りに仕立てるオートクチュールを経て、プレタポルテと呼ばれる既製服が発展することで、ファッションデザイナーの地位は確立されていった。

  • 衣服は常に身体にまとわれるものであるがゆえに、身体をテーマにしたアートとも密接なかかわりを持ってきた。身体をイメージ化、実体化するものこそがファッションである。

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【必読ポイント!】 裁断と縫製――衣服に起源はあるのか

服を着るのはなんのため?

人はなぜ服を着るのだろうか。「身体を保護するため」「身分や職業を表示するため」「自己を表現するため」「他者を誘惑するため」など、さまざまな理由を挙げることができるが、機能や実用性だけにその理由を求めていても答えは得られないだろう。

では、最初に服を着たのはいつだっただろうか? 私たちは生まれたときから布でくるまれ、幼少期には周囲の大人に着替えを手伝ってもらっていた。服はあまりにも身近であるため忘れられがちだが、誰も自分ひとりで服を着られるようになったわけではない。自らの意志で服を着ることを選んだのではなく、誰かが私たちに服を着せたのである。

根源的な行為

AsiaVision/gettyimages

『皮膚―自我』の著者であるディディエ・アンジューは、人間が服を着る以前である胎児の状態に注目した。胎内はあらゆるものが渾然一体とした世界であり、自他の区別がない。不安のない理想の世界にいた胎児は、誕生によってこの世に投げ出され、切断の傷を負う。そのため、人は完璧に包みこまれていた状態を取り戻そうとする。

E・ルモワーヌ=ルッチオーニは『衣服の精神分析』の中で、「胎盤が取り除かれてしまったために、人間は服を身につけて、その上の表面を作ろうとする」と述べた。そのためにどのような衣服がふさわしいのかといえば、それは胎児が母親に包まれていたように、人間の身体をぴったり覆い、皮膚をなめらかになぞる服である。それを可能にする「ひと連なりの生地に切り込んでいく鋏」を、ルモワーヌ=ルッチオーニは根源的なものと見なした。鋏は、「衣服を作るのにふさわしい形をそこから引き出すため」にあるからだ。

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要約公開日 2025.01.24
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