すべての出発点は「無裁定条件」
相場は「板」の上で決まる
コンビニで買った250円のチョコが、次に立ち寄ったドラッグストアでは220円だった――こうした「高値づかみ」は金融市場でも起こり得る。価格は需要と供給のバランスでたえず揺れ動くからだ。
ただし金融商品は、野菜や公共工事の入札と違い、同じ銘柄なら「誰から買ってもまったく同じもの」が手に入る。ゆえに買い手にとっては、最低価格が常に最適となる。
その競争を成立させる場が証券取引所である。売り注文と買い注文は、希望価格・数量とともに「板(order book)」と呼ばれるテーブルに集約され、リアルタイムで更新されていく。双方の希望価格が一致すれば取引が成立し、その価格が株価として記録される。
なお、板は匿名である。注文者が見えると売買戦略の特定や市場の過剰反応を招くため、公平な競争のためにあえて伏せられているのだ。
なぜ価格が変わるのか

では、なぜ株価は動くのか。ある企業が大口の公共事業を受注したというニュースが流れたとしよう。買い注文が殺到して安い売り注文が次々に約定されると、板の上には高い売り注文しか残らない。良いニュースを知った売り手にはあえて値を下げる理由がなく、より高い売値で出し直す者すら現れる。買い手も、それに合わせて希望価格を引き上げざるを得ない。こうして需給の均衡が崩れたとき、価格は一方向へ動くのである。
現代の取引の大部分を担うのは、「徹底的な分析に基づいて注文を出す」プロの機関投資家だ。つまり板とは、「世界中の投資家の叡智が結集」し、「その証券に関するあらゆる情報」が反映される場なのである。
「タダ飯は食えない」
取引所は世界にいくつもあり、同じ商品が別々の取引所で取引されることがある。日経平均先物が大阪取引所で4万円、シンガポール取引所で4万500円なら、安いほうで買って高いほうで売るだけで、リスクを取らずに差額を稼げてしまう。これが裁定取引(アービトラージ)だ。ただし、投資家が群がれば、安い市場では価格が上がり、高い市場では下がるため、乖離はやがて消滅する。
現実の市場では、プロの投資家に加えてコンピューターの自動プログラムが休まず市場を監視している。確実な「儲け話」は、現れた瞬間に食い尽くされるのだ。だからこそ、現実の金融市場は「裁定機会が存在しない」と近似できる。これが無裁定条件である。市場というゲームに、「タダ飯が落ちてくるようなバグは存在しない」――この極めて素朴な要請こそが、金融商品の理論価格を考えるすべての前提となる。
【必読ポイント!】 プライシング理論――「分解」すれば値付けできる
金融商品は「割引債の集合体」
プライシング理論とは、金融商品の「本来の価値」=公正価値を推定する理論である。その基本のキがDCF(Discounted Cash Flow)法だ。ポイントは、「金融商品をお金の流れ(キャッシュフロー)に置き換える」こと。たとえば牛1頭の価値なら、牛乳から得られる毎年の利益と、最後に肉用牛として売って得るお金という、将来のキャッシュフローの束に置き換えて考える。




















