「ロジカルだけの人」から卒業する
新任社員に突きつけられた課題
和泉ヒカリは会議室の扉を開け、新しい上司に挨拶をした。
「あらためてよろしくお願いいたします」
ヒカリを待っていたのは、商品企画部部長の織田慎之介。歴代最年少で部長となった、TBN社内の有名人だ。
TBNは、ナチュラルテイストな生活雑貨を扱うブランド「逸品工房」を全国展開する小売業者である。
大学では数学を学び、主にデータサイエンスを専攻していたヒカリは、新卒で希望どおりマーケティング部に配属された。そこでの活躍が評価され、4年目を迎えるこの春、商品企画部へ異動することになったのだ。マーケティング部では、「ロジカルシンキングの鬼」と呼ばれるほど、その分析力には定評があった。
対面した織田は、明るくエネルギッシュな印象の人物だった。語り口も表情も柔らかく、話しやすそうに見える。
「ロジカルだけ」の人は退屈になる

実はこの面談にあたり、織田からヒカリには宿題が出されていた。それは、「最低1つでいいので、逸品工房の新製品としてふさわしいものを考えてくること」だった。
ヒカリが考えてきた企画は、次の2つである。
1つ目は、用途を明確にした商品をもっと増やすべきだということ。「旅行用の常備薬ミニケース」など、どこでどう使うものなのかをはっきり示すネーミングのほうがユーザーフレンドリーである。
2つ目は、有名人や専門家の名前を前面に出したコラボ商品を開発するべきであるということ。今の時代は「誰が考えたか」が価値になるはずだと考えた。
しかし、織田のコメントは、ヒカリにとって思いがけないものだった。
「実にお行儀のいい、退屈な答えだね」
「おそらく、今の和泉さんはロジカルシンキングだけの人なのだと思う。早く、その“だけ”から卒業すること」
問題解決に必要な「3つの思考法」
翌朝、誰もいないオフィス。ヒカリは織田とのやりとりを振り返っていた。
「……今の和泉さんはロジカルシンキングだけの人なのだと思う……」
ノートパソコンを開き、インターネットで情報を探していると、ある言葉が目にとまった。
【トリプルシンキング】
ビジネスで有効な3つの思考法、すなわちロジカルシンキング、ラテラルシンキング、クリティカルシンキングのこと。
【ロジカルシンキング】
「論理的思考」とも言われ、ビジネスの問題解決に使われる思考法として最もポピュラーなもの。
【ラテラルシンキング】
「水平思考」とも言われ、これまでの思考パターンや情報源とは異なるものを取り入れて、より自由な発想をする思考法。
【クリティカルシンキング】
「批判的思考」とも言われ、今ある前提や自身が考えたい方向性、感情的なバイアスを排除して考える思考法。
ラテラルシンキングやクリティカルシンキングが得意な人の特徴を読むうちに、ヒカリの頭に2人の名前が浮かんだ。
1人は、商品企画部の上田哲平。社内でアイデアマンとして知られている。
もう1人は、法務部の黒澤祐。物事を斜めから見たり、重箱の隅をつついたりするタイプだ。
ヒカリはこの2人を呼び出し、ヒカリがロジカルシンキングを、上田がラテラルシンキングを、黒澤がクリティカルシンキングを、それぞれ教え合うことになった。
















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