Branding Inside Out

Internal branding in theory and practice
未読
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Branding Inside Out
出版社
定価
0円(税込)
出版日
2017年10月03日
評点
総合
3.8
明瞭性
3.5
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

読者の皆さんは、自社製品やサービスに誇りを持っているだろうか。自社ブランドの持つビジョンや目標を明確に理解しているだろうか?自律的に行動することを奨励されているだろうか。そもそも、自社を愛しているだろうか。全ての答えが「イエス」であれば、成功を収めている企業である確率が非常に高いだろう。

ブランドは、もはや市場でのマーケティング・ツールではなく、企業で働く従業員が発信する企業像という考えが浸透してきている。従業員がブランドのビジョンや価値と一体となり、顧客や他のステークホルダーと共にブランドを体験していく「リビング・ザ・ブランド」において、従業員の役割の重要さは言うまでもない。にもかかわらず、この重要性が十分に実践に生かされていない現実がある。これこそが本書の核心テーマだ。

本書では、ブランドに携わる企業リーダーと大学でマーケティングを専門とする研究者たちが、実例をもとに研究成果や経験の考察を提示していく。本書の編集者ニコラス・インドは、両者の成果がより強くリンクすることの重要性を強調する。本書に貢献した研究者の一人は、ブランドはメンテナンスを必要とし、社会とともに進展するものであるべきと主張している。

社会の変遷と連動して、その在り方が問われるブランド論を、実践者と研究者の両方の観点から大いに味わっていただきたい。

ライター画像
佐藤瑞恵

著者

ニコラス・インド
在オスロ―、クリスティアニア大学准教授。エクイリブリウム・コンサルティングのパートナー。アイコン・メディアラボ(スウェーデン)のブランド・コンサルティング部門の前代表取締役。アイコン入社前には、イギリスにてブランド・コンサルティング会社を経営すると共に、デザイン会社取締役および広告代理店の顧客担当取締役を兼任。著書に、“The Corporate Image”“Terence Conran – The authorised biography” “The Corporate Brand” “Living the Brand” “Brand Together and Brand Desire”など、これまでに12冊を執筆。スイスのヨーロピアン・グラデュエート・スクールにて博士号修得。イギリスのデザイン・ビジネス協会の前取締役。コーポレート・レピュテーション・レビューの諮問委員会メンバー、および、ジャーナル・オブ・ブランドマネジメントの編集委員会メンバー、また、ヨーロピアン・ビジネス・レビューの編集委員を務める。ESADE(バルセロナ)およびエジンバラ・ネピア大学の客員教授。国際的なブランディングのシンクタンクであるMedingeグループの創設メンバー。

本書の要点

  • 要点
    1
    従業員がブランドのビジョンや価値を体感し、表現することで、顧客や他のステークホルダーとつながる「リビング・ザ・ブランド」の概念が主流になっている。
  • 要点
    2
    労働市場のグローバル化やメディア環境の変化により、コントロール型の企業運営では、優秀な人材の確保が困難になっている。雇用者ブランディングは、優秀な人材の確保にも大きな役割を果たす。
  • 要点
    3
    ブランドマネジメントの成功は、従業員がブランドの約束するものを与えられるかどうかに左右される。インターナル・ブランディングを浸透させることで、従業員は企業ブランドの意味を理解し、業務に生かせるようになる。

要約

【必読ポイント!】 変わるブランドへのアプローチ

リビング・ザ・ブランドの概念

ブランドに対する企業のアプローチが変わってきている。1990年代、ブランドは、主に市場とのコミュニケーションをはかるためのマーケティング・ツールとして捉えられていた。しかし、昨今では、従業員がブランドのビジョンや価値に深く関わり合う「リビング・ザ・ブランド」という概念が主流となっている。

ここには、ビジネスが、多様なステークホルダーの要求を満たすような、斬新で卓越した目的のもとに行われるべきであるという考え方がある。ブランドを押し付けるのではなく、ステークホルダーそれぞれが、独自の立場で、感情や知性をブランドと結びつける環境を作り上げる。そこにこそ、意義ある永続的なブランドが生まれるというわけだ。それゆえ、組織の理念やブランドの価値を共有し、浸透させるインターナル・ブランディング活動の重要性がいっそう強調されることになる。

この背景には、「ブランド・コントロールの喪失」、「有能な人材の確保競争」、「ブランドの目的や価値と従業員との関係性」についての新しい考え方がある。

ブランド・コントロールの喪失
marchmeena29/iStock/Thinkstock

とりわけ企業のマネジャークラスは、ブランドのコントロールを失うことに不安を抱くかもしれない。しかし、それを否定的に捉える必要はない。企業内外を隔てる境界のあいまいさ、オンライン上でのブランドに関するコミュニティの成長、業界のめまぐるしい変化という現実を反映しているにすぎない。

コントロールを重視する企業では、幹部が選択・実行の主導権をにぎる。従業員をあまり信頼せず、彼らの自発的な行動を抑制する傾向にある。また、ブランド構築も幹部が中心となって行う。このような企業は往々にして、ブランドと消費者との相互関係を理解せず、従業員のアイデア、創造性、知識を活用できないという壁にぶつかる。従業員が企業の知的資源となりうるという認識に欠けているのだ。

ブランド・コントロールの喪失が示唆するのは、従業員と社外ステーキホルダーとの接点(タッチポイント)の増加と多様化である。このため、企業は従業員の行動を直接的に管理するのがますます困難となっている。今後大事になるのは、従業員が、自発的に考え、責任をもって判断を下せるような環境作りである。そして、彼らの情熱と創造性をブランドに生かせるようにする。このように、管理を重視してきた従来の企業のあり方が、確実に変化している。

人材獲得戦争

マッキンゼー・アンド・カンパニーは1990年代に、世界の労働市場に関する研究を行い、「人材獲得戦争(the war for talent)」というフレーズを生み出した。労働市場のグローバル化、転職回数の増加、そして起業ブームにより、大企業は、もはや人材の供給源としてはみなされなくなった。

テクノロジー関連の企業は、有能な人材を確保するために、魅力的な企業となるための努力を迫られている。こうした流れを受けて、雇用者ブランディングという考え方が生まれたのは必然なことだった。

本書の編者は、コーポレート・ブランドは、従業員が理解し、支援するものでなければならないと強く主張する。ここに、インターナル・ブランディングの必要性が生まれたといってよいだろう。

ブランドマネジメントの成功は、従業員が直接的にも間接的にも、「ブランドが約束するもの」を顧客に与えられるかにかかっている。これは、インターナル・ブランディングの根底にある考えだ。本要約では、インターナル・ブランディング構築の実例として、グローバルな保険企業NNグループを、また雇用者ブランディングについては、スポーツ用品メーカーのアディダスの取り組みを紹介する。

NNグループのブランド再生への道のり

従業員の声を集めて「前進」する
fizkes/iStock/Thinkstock

NNグループは、オランダを本拠地として、世界18か国、約1万名以上の従業員を有するファイナンシャル・サービス・グループである。世界金融危機の影響を受けて、総合金融機関INGグループから分離したNNグループは、新規株式公開(IPO)に向けて、企業ブランドの再生と企業文化の再構築という大きな挑戦に臨んだ。

ブランド再生に向けて、業界の先行き不透明性、自社の将来的な不確実性といった問題が山積していた。そこで同社は、「前進」を意味する「FWD」という仮称ブランドを旗印に、インターナル・ブランディング・プロジェクトに乗り出した。その第一歩は国内外の各グループの管理職から一般の従業員に至るまで、広い範囲からの声を集めることだった。

新しい価値の構築

同社は、従業員の考え、同社の発祥地、170年の社歴、国際性、事業の将来性を配慮し、「You matter」という新しい国際的ブランド・キャンペーン・スローガンを掲げた。このスローガンには、顧客の財務面に関する将来を守ることにより、顧客の目標や夢の実現をサポートするブランドになるという同社の抱負が込められていた。そこから、新しいブランド・ビジョン、ミッション、社風を推進するために、「ケア」「クリア」「コミット」という新しい企業価値が生まれた。

一年後の調査では、社員の91%が、この価値観を認識していたという。こうして新しく生まれた企業価値は、同社の活動・文化の礎と同時に、従業員がステークホルダーに対応する際の指針となった。

一致団結したイベント
scyther5/iStock/Thinkstock

NNグループがブランド再生に成功できた秘訣は、企業風土のシフトとの一体化にある。社内の創造性、協働、そして徹底した実行力の結集といってもいい。

同社は、IPOに至る過程で、従業員の総力を結集することが重要であり、IPOが、NNブランドや新しいロゴを積極的に外部に伝える最初の機会となることを認識していた。IPO当日には、オランダらしく、NNの理事会幹部が自転車で、アムステルダムの証券取引所に出向き、NN社員の素顔を披露した。また、上場の様子は従業員向けにライブストリームで放映され、まさにIPOは従業員の団結を示すイベントとなったのだ。

オール・アバウト・ピープル

一般的に、企業は理論、分析、事実により従業員を管理しようとする。一方、NNグループは、従業員の可能性を解き放し、創造性や共感に訴えた。管理するのではなく、信頼からなる企業文化を築いた。企業の独自性は、従業員がどのような考えのもとで顧客に対応し、企業文化とブランドを生かすかにおいて発揮される。今もNNグループのブランドは進化の一途をたどっている。

眠るジャイアント・ブランド

雇用者ブランディングが急務だったアディダス

今から10年ほど前のアディダスは、有能な人材を確保できる状況ではなかった。人事部の人材定着率は低く、人材の採用方法も時代遅れだった。アディダスというブランドの知名度の高さのみを頼りにしていて、多くの従業員が競合からの転職組だった。ブランド自体も、競争力をいかに保持するかに四苦八苦しており、小売り、卸売り、eコマースの分野での新規開発が渇望されていた。

このような状況を打開するために採用されたのは、現在、同社のグローバル・タレント・フューチャー・チームを率いるスティーブ・フォガティであった。フォガティは、テクノロジー業界のPRエージェンシー、ワグナーエドストロムにおいて人材開発やスカウトを担当していた。

人材確保というチャレンジ
marchmeena29/iStock/Thinkstock

当時のアディダスにとっては、例えば、才能あるデザイナーを見出すことさえも大きなチャレンジであった。同社にデザイナーとしての素晴らしいキャリアが開かれていることを、社外の人間が知る手立てはほとんどなかったからだ。社風も自己批判的で、「良い製品を作ること、それを自慢してはならない」という、実直なドイツ人気質の上に成り立っていた。

そこでフォガティは、同社のトップデザイナーとデザインセンターを採用マーケティングのマイクロサイト上で紹介することにした。視覚的に魅力があり、デザイナーたち自身が語った経験談を盛り込んだ。そのため、社外デザイナーたちから共感がみられ、実際の求人応募につながった。

しかし、より大きなチャレンジは、アディダスの企業ブランドや従業員の優秀さを、外部のトップタレントたちにいかに伝えていくのかであった。当時は社内でのガイドラインというものが全く存在しなかった。よって、グローバルな雇用者ブランディング戦略をゼロから構築、実行する必要があったのだ。

雇用者ブランディングで有能な人材を引きつける

フォガティは、人事面から見た雇用者ブランディングの構築は、他の類のブランド構築と基本的に大差ないと主張する。例えば、アディダスの企業ブランドがめざす最終ゴールは、長期生存と次世代の消費者とつながることだ。人事においても、同様の観点から有能な人材を維持し、アディダスへの求人数を伸ばせばよい。

アディダスのようにグローバル展開する企業では、多様なビジネス地域の特殊性を考慮しながらも、統合性のある雇用者ブランディングを創造することが必要となる。このブランディングをもって、同社の次世代を担う人材を引き付けることができる。そしてアディダスが焦点を当てたのは、“Shape the Future of Sport”というコンセプトで、アスリートとの交流を示していった。

ストーリー・テリングで共感の輪を広げる

雇用者ブランディングの構築には、戦略と実践が重要なのはいうまでもない。一般的なツールであるマニフェスト、パンフレット、ビデオなどは時代遅れとなりつつある。

これらを代替するのは、リアルタイムでのデザインとスト―リー・テリングだ。雇用者ブランディングを実施する際の課題は、いかにステークホルダーとうまくコミュニケーションをとるかに帰結する。

この意味において、ストーリー・テリングが非常に重要であったとフォガティは振り返る。彼らは、世界中のアディダスの従業員を対象に、「アディダスで働く理由は?」、「入社以来最も感動したことは?」、「アディダスでのキャリアで一番気にいっていることは?」などという質問を投げかけ、それにまつわるストーリーを集めていった。そこから500のストーリーを選び、それらを5つのキー・ストーリーに凝縮した。また、アディダス・グループでのコミュニケーション・バイブルとした。アディダスのストーリー・テリングは、常に未来を見据えている。ストーリーは、何を信じるべきかを告げるのではない。ストーリーの提示により、それぞれの人たちが自ら信じるものを創造できることが目的だという。

アディダスはクリエーターの集合体

アディダスの消費者と従業員は、クリエーターだとフォガティ氏は語る。クリエーターは、指揮命令に従うのをよしとせず、独自性と創造性で世の中に発信していく。現在、アディダスのキャリアサイトには年間約8百万が訪問し、4千~6千のポジションに、約80万人が応募する。創造性、協働、自己確信を新しい動機付けとした雇用者ブランディングを創りあげることでなしえた偉業である。

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