働くひとのためのキャリア・デザイン

未読
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働くひとのためのキャリア・デザイン
出版社
出版日
2002年01月29日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

キャリアをガチガチにデザインするのは難しいものだし、自然な流れに身を任せることによる収穫もある。だが、大事な節目では強い信念を持って自分の道を選ぼう――。このように語るのは、本書の著者、神戸大学名誉教授の金井壽宏氏である。

本書は、キャリア・デザインの理論と具体例を多く解説した、キャリア・デザインの教科書的な一冊である。キーワードは「トランジション(節目)」。人生やキャリアは、安定期(流されてドリフト状態でも大丈夫な時期)と移行期(しばしば危機でもある節目)の繰り返しであるとし、分かれ道や十字路が「トランジション」にあたるという。キャリアにおいてなぜ節目が重要な役割を果たすのか、私たちはいかにキャリアを積んで成長していくのか、何十年間にも及ぶキャリアをいかにデザインしていくべきかといった疑問に、著者は丁寧に答えてくれている。

「キャリア・デザイン」という言葉を知ってはいても、「今後のキャリアを綿密にデザインするなんて無理だ」と感じている方も多いだろう。そんな方や、転職や起業を考えている方、今後のキャリアが不安な方に、本書をおすすめしたい。本書を読むと、少し力を抜いて、これからのキャリアを考えていけるだろう。

また本書は、キャリア・デザインをあまり意識せず、ただただ流れに身を任せてきた人にもぜひ読んでほしい。これからのキャリアをどのように“漂流”していくべきか、考えるきっかけになるに違いない。

ライター画像
木下隆志

著者

金井壽宏(かない としひろ)
1954年神戸市生まれ。1978年京都大学教育学部卒業。1980年神戸大学大学院経営学研究科修士課程修了。1989年マサチューセッツ工科大学(MIT)Ph.D.(経営学)。1992年神戸大学博士(経営学)。現在、神戸大学大学院経営学研究科教授。リーダーシップ、ネットワーキング、モティベーション、キャリアなど、経営学のなかでも人間の問題に深くかかわるトピックを、主たる研究分野としている。
著書に『変革型ミドルの探求』『企業者ネットワーキングの世界』(以上、白桃書房)、『ニューウェーブ・マネジメント』(創元社)、『経営組織』(日経文庫)、『組織変革のビジョン』(光文社新書)、『やる気!攻略本』(ミシマ社)、『リフレクティブ・マネジャー』(中原淳との共著、光文社新書)、監訳に『完全なる経営』(日本経済新聞社)などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    節目のときだけは絶対に強く意識してキャリアをデザインすべきだ。数年に一回ほど訪れる節目だけデザインして、ぶれない方向感覚をもっていれば、節目と節目の間の期間は多少流されてもかまわない。
  • 要点
    2
    ナイジェル・ニコルソンによる「キャリア・トランジション・モデル」は「準備」「遭遇」「順応」「安定化」という4つの段階からなるサイクルだ。このサイクルは、就職や異動、昇進など、キャリアのあらゆる節目において生じ、わたしたちを成長させる。
  • 要点
    3
    キャリアにおいて、時にはドリフトする(流される)ことにも意味はある。

要約

キャリアにおける「トランジション」

節目とキャリア・デザイン

節目のときだけは絶対に強く意識してキャリアをデザインすべきだ――本書における著者の主張をひと言で言うと、こう表現できる。

遠い未来のキャリアまで綿密にデザインするのは難しいものだ。だが、数年に一回ほど訪れる節目だけデザインして、ぶれない方向感覚をもっていれば、節目と節目の間の期間は多少流されてもかまわない。流れに身を任せるなかで、意外な発見にも巡りあえるだろう。

ブリッジズのトランジション論
VioletaStoimenova/gettyimages

キャリアや生涯発達の文脈において、節目は「トランジション」という言葉で表される。また、人生やキャリアは、安定期(流されてドリフト状態でも大丈夫な時期)と移行期(しばしば危機でもある節目)が繰り返されるとされている。分かれ道にさしかかった地点・時点や、十字路などに立ったときがトランジションだ。

トランジションは通常、安定期の後には危機が、危機の後にはやがて安定期がやってくるというサイクルをなしている。そうした繰り返しがひとの発達につながるのだ。

臨床心理学者のウイリアム・ブリッジズは、トランジションを次の3つのステップからなると説明する。

(1)終焉(何かが終わる時期)

(2)中立圏(混乱や苦悩の時期)

(3)開始(新しい始まりの時期)

人生やキャリアは「安定期」と「移行期」を繰り返すと先述した。移行期とは、ある状態が終わり、別のある状態が始まる時期だ。だが、多くのひとが、後者の「開始」ばかりを目にして、「終焉」を不問にしてしまいがちである。

また、その移行期が大きな転機であればあるほど、「終焉」から「開始」への移行には戸惑いが伴う。新たな「開始」に向けて、途方にくれたり、やや宙ぶらりんな時期になったり、少し空しくなったりもしながら、気持ちを整えていく時期が必要だ。

「開始」に気をとられていないか

具体例として、第一子の誕生を挙げてみよう。ブリッジズの集団療法に来ていたある女性は、ずっと子どもがほしかったという。しかしいざ第一子が生まれてみると、子育ての大変さにおおいに戸惑ったようだ。怒りはまず夫に、つぎに親に、そして集団療法の会に居合わせたメンバーにも向けられた。

こうした事象が起こる原因のひとつは、彼女が「終焉」と「中立圏」の重みを見落としていることだろう。「3人での新生活」という「開始」の局面ばかりに目がいってしまっているのだ。

一方、子どもの誕生を機に終わるものがあるのも事実だ。しばらくは、夫婦ふたりでレストランやコンサートに行くことはできなくなる。そういう気持ちにまだ折り合いがついていないのだろう。彼女は、大きなエネルギーを必要とする「ゼロ歳児の子育て」に突入する前に、「終焉」と「中立圏」での自分の感情に向き合う必要がある。

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要約公開日 2023.04.20
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