本書の要点

  • 資本収益率(r)が経済成長率(g)よりも大きければ、富の集中が生じ、格差が拡大する。歴史的に見るとほぼ常にrはgより大きく、格差を縮小させる自然のメカニズムなどは存在しない。

  • 20世紀に格差が縮小した原因は1914―1945年の世界大戦の影響によるものだった。現在では富の格差は歴史的な最高記録に近づいているか、すでにそれを塗り替えてしまっている。

  • 富の格差の無制限な拡大を抑えるための理想的な手段は、世界的な累進資産税を設けることだ。高度な国際協力と、地域的な政治統合を必要とするため、困難ではあるが、まずは第一歩を踏み出さねばならない。

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資本/所得比率の力学

所得と資本

本書が特徴的なのは、「できる限り完全で一貫性ある歴史的情報源の集合を集め、長期的な所得と富の分配をめぐる動きを研究」しようとしている点である。所得の構成や、資本の蓄積の推移を示しながら、格差の拡大・縮小の歴史を紐解いてくれる。まずは国民所得、資本、資本/所得比率の概念を紹介し、世界の所得分布と産出がどのように推移してきたかを描き出そう。所得は、資本所得と労働所得の和に分解できる。国民所得=資本所得+労働所得本書において資本とは、企業や政府機関が使う、各種の不動産や、金融資産、専門資産(工場、インフラ、機械、特許など)を指している(人的資産は含まない)。したがって資本所得とは、資本の所有者に対する支払いのことで、利潤、配当、金利、賃料、ロイヤルティなどのことを意味する。一方、労働所得とは労働者に対して支払われるもので、賃金、給与、賞与、ボーナスなどのことを指す。

資本/所得比率

所得と資本が定義できたら、この2つの概念をつなげる基本法則である資本/所得比率の定義に移ろう。所得はフローだ。これはある期間(通常は1年)の間に生産され分配された財の量に対応する。資本はストックだ。それはある時点で所有されている富の総額(総財産)に対応する。ある国の資本ストックを測るもっとも自然で便利な方法は、そのストックを年間の所得フローで割ることだ。これで資本/所得比率(βと表す)を求めることができる。たとえば、ある国の総資本ストックが国民所得6年分に相当するならβ=6(もしくは600%)と書く。今日の先進国では、資本/所得比率はだいたい5から6くらいだ。長い目でみると、資本構成に占める農地の割合は徐々に工業・金融資本と都市部の不動産にかわっていった。しかし驚くべきことに、資本/所得比率は超長期で見るとあまり変わっていない。イギリスやフランスでは第一次世界大戦直前には国民所得の6、7年分だった資本が、1914―1945年の戦災の打撃を受けて2―3年程度まで低下したあと、現在では約5―6年分にまで回復している。一方、米国では資本/所得比率の急激な増減はなく、いまも4年分をわずかに超える程度だ。なぜ資本/所得比率はヨーロッパでは再び史上最高水準に回復したのだろうか? そしてヨーロッパの方が米国に比べて構造的に高いのはなぜだろうか?

資本主義の基本法則 β=s/g

Gabriel Schroer/iStock/Thinkstock

先の問いの答えは、資本/所得比率と貯蓄率と成長率の関係によって説明される。長期的には、資本/所得比率βは、貯蓄率s、成長率gと次の方程式で示す関係を持つ。β=s/gたとえば、毎年国民所得の12%を蓄えており、国民所得の成長率が年2%の国では、長期的に資本/所得比率は600%になる。たくさん蓄えて、ゆっくり成長する国は、長期的には所得に比べて莫大な資本ストックを蓄積し、それが社会構造と富の分配に大きな影響を与える。貯蓄率が10―12%で、ヨーロッパのように人口成長がほぼゼロで、経済成長率が約1・5%の国なら、国民所得6―8年分に相当する資本ストックを蓄積できる。一方、米国のように人口成長が年間約1パーセント、経済成長率が2・5―3%の国では3―4年分相当の資本ストックという結果になる。この法則について念頭に置くべき原則は、富の蓄積には時間がかかるということだ。

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要約公開日 2014.11.28
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