【必読ポイント】 名ゼリフのひみつを、言語学でひもとく
「とびきり甘い人生」

2005年公開の『チャーリーとチョコレート工場』は、ジョニー・デップ主演のファンタジー映画だ。貧困家庭で育つ主人公の少年チャーリーは、天才ショコラティエ、ウィリー・ウォンカの営むチョコレート工場の見学ツアーチケットを引き当てる。そのツアーにはチャーリーの他に4人の子どもが同行するのだが、4人で7つの大罪をほとんどカバーできそうなほどの悪ガキたちだ。映画のお約束に漏れず、彼らもかなりひどい目に遭う。
本作には言葉を使ったギャグが多数ある。工場の中のホイップクリームを作る部屋では、作業員たちが生きた牛をピシピシ鞭打っている。これは、whip cream(ホイップクリーム)のwhipに「鞭」や「鞭打つ」という意味があることに由来する。ウォンカが自分の髪の毛を見て「I must find a heir(後継者を探さねば)」と思うのもheir(後継者)とhair(髪の毛)の発音が似ていることから来ている言葉遊びだ。
こうした言葉遊びの中でとくに注目したいのは字幕翻訳で登場する「とびきり甘い人生」だ。ここでの「甘い」は味覚のことを言っているわけではなく、人生に対する幸福感を表す比喩として、味覚表現を他の感覚に転用している。英語の原文は「life had never been sweeter(人生がこんなに甘かったことはなかった)」であるが、これだと、「人生に厳しさが足りない」という否定的なニュアンスが入る余地もある。しかし、「とびきり甘い人生」というフレーズでは、「とびきり」というプラス方向に振り切った言葉と組み合わせることで、「甘い」のマイナス面が消し去られている。否定的な意味が入る余地をなくした、字幕翻訳者の手腕に感心せざるをえない。
「めざせカッちゃん甲子園」
あだち充の代表作『タッチ』は、上杉達也・和也という双子の兄弟と、彼らの隣家に住む幼なじみの浅倉南が登場する青春野球漫画だ。「甲子園に連れて行ってほしい」という南の夢を叶えるために、野球に打ち込み期待のエースとなる努力家の弟、和也(カッちゃん)に対して、兄の達也(タッちゃん)は取り立てて取り柄のない「出がらしの兄」呼ばわりされている。周囲は和也と南を理想のカップル視しているが、南自身は達也に惹かれているようである。




















