ヨーロッパ炎上 新・100年予測の表紙

ヨーロッパ炎上 新・100年予測

動乱の地政学


本書の要点

  • ヨーロッパは狭い場所に多くの国が集まっているため、境界地帯がいくつか存在する。境界地帯は民族、宗教、文化が交じり合う場所のため、戦争が始まりやすい。

  • 2つの大戦では、ヨーロッパの境界地帯すべてが紛争の火種となり、大量殺戮の場となった。

  • 「EU諸国は本当に紛争の歴史を乗り越えたのか?」――このきわめて重要な問いに応えるためには、ヨーロッパの民族と国家の本質を見極めなければならない。

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【必読ポイント!】 ヨーロッパの流血の歴史

紛争の火種となる場所

mikdam/iStock/Thinkstock

1914年から1945年までの31年間に、ヨーロッパでは戦争や集団虐殺、粛清、計画的飢餓などの政治的理由によって、実に1億人近くもの人間が死んでいる。この数字はどの時代と比べても、また世界の他のどの場所と比べても、きわめて異常な数だと言える。400年以上にわたって世界の大半を支配下に置き、人々の世界観を大きく変えてきたヨーロッパが、なぜこれだけの死者を出すことになったのだろうか。ヨーロッパというのは、オーストラリア大陸より少し広いだけの狭い場所に、多くの国が集まった大陸である。狭い土地が多数の地域に分かれ、数多くの国家がひしめき合っている。そのため、いくつかの境界地帯が存在する。境界地帯は国境線とは異なる。そこは民族、宗教、文化が分かれる場所であり、交じり合う場所でもある。また、密輸がひとつの産業として成り立つ場所でもあるし、戦争が始まりやすい場所でもある。そういう意味で、境界地帯は単なる国と国の間に存在する地域という以上に、ヨーロッパの歴史を決定づける地域だといえる。境界地帯は紛争の火種なのだ。

大量殺戮の舞台

1815年以降、ヨーロッパでは100年近く平和が続いていた。経済は驚異的な速度で成長し、科学技術もまた驚くべきスピードで発達した。繁栄を謳歌していたヨーロッパだったが、悲劇的だったのは、ヨーロッパの繁栄を支えた特性が、そのまま繁栄を壊す要因にもなったことだ。科学技術の発達は、ただ世界を変えただけでなく、それまでは想像もできなかったような大量殺戮を可能にする武器を生み出した。そして工業の発達が、開発した新型兵器の大量生産を可能にしてしまった。2つの大戦では、ヨーロッパの境界地帯すべてが紛争の火種となった。そこから出た炎はヨーロッパ全土に燃え広がり、ヨーロッパは突如として大量殺戮の場になった。こうして世界の人々は、史上稀に見る戦争を目撃することになる。

冷戦時代、そしてEU設立へ

2つの大戦後、冷戦時代が訪れた。このとき、もはやヨーロッパ人には戦争をするかしないかを決める力はなく、すべてはモスクワとワシントン次第だった。結果的に、冷戦時代に2つの大国が直接戦うことは一度もなかった。紛争の火種はあったが、火はつかなかったというわけだ。しかしこの平和は、ヨーロッパ人たちの努力の賜物というより、他国の行動の結果、たまたまそうなっただけだった。冷戦が終結すると、ヨーロッパ人はEUを設立した。設立の目的は主に2つだ。1つはヨーロッパの繁栄を維持するためであり、もう1つはヨーロッパを分裂させるような戦争の再発を防ぐためである。どの国も、互いにきわめて近い関係になって共に繁栄すれば、他の国を脅かして平和を乱そうなどとは考えなくなるだろうという発想がそこにはあった。

ヨーロッパの未来

Delpixart/iStock/Thinkstock

「EU諸国は本当に紛争の歴史を乗り越えたのか?」これは世界にとってきわめて重要な問いである。苦く悲しい体験に懲りたヨーロッパの人々の心には、「あのようなことは二度とあってはならない」という強い思いが生じたし、ユダヤ人はホロコーストの再発を決して許してはならないと決意し、その防止に力を注いでいる。もしヨーロッパが過去の流血の歴史を乗り越え、今後一切大きな戦争の起きない場所になったのだとしたら、それは世界にとって重大なニュースであり、大変喜ばしいことだ。だが著者は、「私には、ヨーロッパは手術に失敗した癌患者のように思えた」と述べている。医師は癌細胞をすべて取り除いたつもりでわずかに残してしまった。

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要約公開日 2017.10.10
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