ピーター・ティールの表紙

ピーター・ティール

世界を手にした「反逆の起業家」の野望


本書の要点

  • リバタリアン(自由至上主義)のピーター・ティールは、過去にくぐり抜けてきた競争環境とフランス人哲学者ルネ・ジラールに影響を受け、「競争は負け犬がするもの」という結論にいたる。

  • スタートアップでティールが重視するのが人間関係だ。創業仲間とのあいだには信頼と友情がなければならないし、メンバーとは家族のように毎日一緒にいる前提で関係づくりをするべきだ、とティールは考えている。

  • ティールは「逆張り思考」で成功を掴んできたが、それは単に人と逆の考え方をするということではない。なにものにも左右されず、他の誰とも見解が一致しない思考でなければならないのである。

1 / 4

ピーター・ティールの原点

リバタリアンへの道筋

firebrandphotography/iStock/Thinkstock

ピーター・ティールはリバタリアン(自由至上主義者)である。その原点はティールが6歳の時にさかのぼる。ティールはドイツで生まれ、米国に移住したのちに、アフリカの小さな港湾都市に移り住んだ。そこでティールは規則に縛られた、厳格な学校へ通うことになる。生徒に制服を着用させ、答えをまちがえた生徒の手の甲を定規で叩くような学校だ。みずからの意思に反して、画一性と規則のなかにムリやり押しこめられることに、ティールは嫌悪感を覚えたという。その後ティール一家は米国へ戻り、スタンフォード大学の北にあるフォスターシティに移り住んだ。アップルⅡが大ヒットし、パーソナルコンピュータが誕生したのはこの頃で、ティールが10歳のときだった。当時のシリコンバレーは戦後期の中産階級にとって、出自や宗教にとらわれない平等で快適な場所だったと、のちにジャーナリストのジョージ・パッカーは綴っている。

スタンフォード大学での出会い

ティールはみずからの学歴を「模範的」だと非難めいて話す。まさしくそのとおり、彼は世間一般的なエリートコースをたどった。大学は自宅から近いという理由で、スタンフォード大学へ進学。専攻は哲学である。スタンフォード大学は当時すでに、コンピュータ科学の分野で世界的に高い評価を得ていた。しかもティールは、チェスの13歳未満の部門で全米7位に入ったことがあるほどの数学的才能の持ち主である。だが彼が選んだのは哲学だった。そしてこの選択が、ティールにとって重要な出会いをもたらした。そのひとつが、リンクトインの創業者リード・ホフマンとの出会いである。2人はなにが真実かということについて、講義後によく議論した。もうひとつの出会いは、スタンフォード大学の教授であり、著名なフランス人哲学者でもあるルネ・ジラールだ。ジラールの思想はティールの人生観だけでなく、ビジネスや投資判断にも多大な影響を与えた。それは「人間には他人が欲しがるものを欲しがる傾向があり(模倣理論)、それが競争を生み、競争はさらなる模倣を生む」というものだった。ティールはジラールから、起業家や投資家の本質を学んだのだ。「人は、完全に模倣から逃れることはできないけれど、細やかな神経があれば、それだけでその他大勢の人間より大きく一歩リードできる」とティールは語っている。

競争からの脱出

_jure/iStock/Thinkstock

大学卒業後、スタンフォード・ロースクールに進学し、法務博士号を取得したティール。その最初の職場は連邦控訴裁判所だった。その後ティールは法学部生にとって憧れのポストである連邦最高裁判所事務官への切符を手に入れるものの、残念ながら不採用になってしまう。それは優秀な成績でエリートコースをひた走ってきたティールにとって、青天の霹靂ともいえる結果だった。それからニューヨークの大手法律事務所に職を得たティールだったが、そこでの日々についてはいまも快く思っていない。昇格のために長時間労働を余儀なくされ、身を粉にして働く環境だ。たしかに誰もがうらやむエリートの世界ではあったが、ひとたび立ち入れば、とたんに脱出したくなる牢獄のようだったという。

もっと見る
この続きを見るには...
残り3038/4345文字

4,000冊以上の要約が楽しめる

要約公開日 2018.06.20
Copyright © 2025 Flier Inc. All rights reserved.

一緒に読まれている要約

インド・シフト
インド・シフト
武鑓行雄
問題児
問題児
山川健一
会社をつくれば自由になれる
会社をつくれば自由になれる
竹田茂
教養としてのプログラミング的思考
教養としてのプログラミング的思考
草野俊彦
会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。
会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。
青野慶久
新・生産性立国論
新・生産性立国論
デービッド・アトキンソン
ソーシャル物理学
ソーシャル物理学
アレックス・ペントランド小林啓倫(訳)
コトラーの「予測不能時代」のマネジメント
コトラーの「予測不能時代」のマネジメント
フィリップ・コトラージョン・A・キャスリオーネ齋藤慎子(訳)高岡浩三(解説)

同じカテゴリーの要約

新版 エスキモーに氷を売る
新版 エスキモーに氷を売る
ジョン・スポールストラ佐々木寛子(訳)
【新】100円のコーラを1000円で売る方法
【新】100円のコーラを1000円で売る方法
永井孝尚
小澤隆生 起業の地図
小澤隆生 起業の地図
北康利
15秒!集客革命
15秒!集客革命
仲野直紀
経営者のための正しい多角化論
経営者のための正しい多角化論
松岡真宏
ユニクロ
ユニクロ
杉本貴司
心理的安全性のつくりかた
心理的安全性のつくりかた
石井遼介
地頭力を鍛える
地頭力を鍛える
細谷功
起業の天才!
起業の天才!
大西康之
実践版 孫子の兵法
実践版 孫子の兵法
鈴木博毅