本書の要点

  • 経営学の歴史は、「科学的管理」を説いたテイラーに始まり、「人間関係論」を語るメイヨーによりソフト面が持つ複雑で深遠なものに対峙していくことになる。

  • ドラッカー、アンゾフ、コトラ―などの知の巨人たちが近代マネジメントを創成し、後の世で出される主要なコンセプトの原型を形作った。

  • その後、ポーター等によるポジショニング派、ピーターズ等によるケイパビリティ派の対立があるも、どちらが正解とも言えないとする、ミンツバーグの「コンフィギュレーション」に結び付く。

  • 21世紀に入り、素早く実行し、素早く修正する考え方を中心とする「リーン・スタートアップ」および「アダプティブ戦略」が評価を得ている。

1 / 5

はじめに

本書の内容

本書では20世紀と21世紀初頭における経営戦略の歴史について俯瞰的に語られるとともに、主要なコンセプトが紹介されており、この1冊で経営戦略の教養を身に付けられる大書である。その歴史をたどれば、ポジショニング派とケイパビリティ派の対立も、各種の経営分析フレームワークの源流も、直近の主要な考え方も全て味わうことができる。それらを学ぶ動機は、経営学を学ぶ教科書でも、辞書や百科事典でも、物語として流れを追うことでも良いだろう。それでは順に経営戦略という広大で最高の知の旅を楽しもうではないか。

2 / 5

近代マネジメントの源流

テイラーの「科学的管理法」

経営戦略を語る上では、およそ100年前の世界を生きた、フレデリック・テイラーを欠かすことはできない。テイラーはハーバード大学を目を悪くして退学し、見習い工としてキャリアをスタートする境遇を辿った後、メキメキと頭角を現す。生産現場の課題に直面する中で、目分量だった管理から科学的な管理への必要性を痛感する。ベスレヘム・スチールでのショベル作業の研究において、ショベル1杯当りの分量、ショベルを差し込む速さや高さ、投げる時間などを最適化していく。その結果、1人当たり作業量を3.7倍に、1人当たり賃金を63%改善する。即ち、生産量当りのコストを56%も削減する効果をもたらしたのだ。そのような分析の集大成としてテイラーが55歳の時にまとめた書が、「科学的管理法の原理」である。そこでは①課業管理、②作業研究、③指図票制度、④段階的賃金制度、⑤職能別組織の5つをもって科学的管理法を説いている。その効果は目覚ましかった一方で、「計画・管理と現場を分離して労使対立を激化させた」などの批判も浴びることになる。そして10年後に人間性重視を謳うメイヨーが登場する。

メイヨーによる「社会的存在としての人間」とは

メイヨーは1880年、オーストラリアのアデレードで医師の子として生まれ、31歳からは教員となる。その後42歳にウォートン・スクールに移り、著名な「ミュール実験」を行う。その内容は次のようなものだ。年250%にも及ぶ紡績部門の離職率の低減を目指し、作業環境改革を行う。彼はその原因を仕事の「単純さ」「孤独さ」からの精神的疲労にあると考え、1日4回10分ずつの休憩を導入する。その効果は目覚ましく、離職率がなんと年5%に急減する。しかし本当に休憩だけが効果を及ぼしたのだろうか。次に電話機製造会社において、「作業効率は照明が暗くなるほど上がる」と言われていた要因を探る。チームの生産性は、照明を明るくしても、暗くしてもどんどん上がっていた。更に2万人の従業員に面談調査を行った。あまりに膨大な量だったので、面接法は自由に会話する形式となった。その結果、面接をしただけで生産性が向上している事実に直面する。つまり、人の生産性は経済的対価の良し悪しだけでなく、社会的欲求の充足を重視するもので、感情や人間関係に大きく左右されるという結論を得るのである。これ以降、経営学の歴史において生産性向上というテーマは、人の感情というまことに複雑で深遠なものに対峙していくことになる。

3 / 5

近代マネジメントの創成

ドラッカーは「マネジメント」の有用性を広めた伝道師

本書を読まれる方はドラッカーの名は聞いたことがあるに違いない。日本でもダイヤモンド社からの書籍だけで累計400万部以上読まれているのだから。ドラッカーは正に「近代マネジメントの伝道師」であると言える。

もっと見る
この続きを見るには...
残り2007/3452文字

4,000冊以上の要約が楽しめる

要約公開日 2014.05.07
Copyright © 2025 Flier Inc. All rights reserved.

一緒に読まれている要約

ビジネスモデル全史
ビジネスモデル全史
三谷宏治
経営戦略の基本
経営戦略の基本
(株)日本総合研究所経営戦略研究会手塚貞治(監修)
悪魔のサイクル(2013年新装版)
悪魔のサイクル(2013年新装版)
大前研一
ハーバード戦略教室
ハーバード戦略教室
シンシア・モンゴメリー野中香方子(訳)
戦略的ストーリー思考入門
戦略的ストーリー思考入門
生方正也
「戦略」大全
「戦略」大全
児島修(訳)マックス・マキューン
未来を切り拓くための5ステップ
未来を切り拓くための5ステップ
加藤崇
伝説の灘校教師が教える一生役立つ学ぶ力
伝説の灘校教師が教える一生役立つ学ぶ力
橋本武

同じカテゴリーの要約

Z世代の頭の中
Z世代の頭の中
牛窪恵
一流のマネジャー945人をAI分析してわかった できるリーダーの基本
一流のマネジャー945人をAI分析してわかった できるリーダーの基本
越川慎司
世界標準の1on1
世界標準の1on1
スティーヴン・G・ロゲルバーグ本多明生(訳)
増補改訂版 フィードバック入門
増補改訂版 フィードバック入門
中原淳
完訳 7つの習慣
完訳 7つの習慣
スティーブン・R・コヴィーフランクリンコヴィージャパン(訳)
トリニティ組織
トリニティ組織
矢野和男平岡さつき(協力)
1分で話せ
1分で話せ
伊藤羊一
世界のマネジャーは、成果を出すために何をしているのか?
世界のマネジャーは、成果を出すために何をしているのか?
井上大輔
「仕事ができるやつ」になる最短の道
「仕事ができるやつ」になる最短の道
安達裕哉
部下をもったらいちばん最初に読む本
部下をもったらいちばん最初に読む本
橋本拓也