ファイナンス思考の表紙

ファイナンス思考

日本企業を蝕む病と、再生の戦略論


本書の要点

  • 日本企業には、会社の価値向上ではなく、目先のPLの指標である売上や利益の最大化を目的視する、短絡的な思考態度が根づいている。これが、「PL脳」の呪縛である。

  • 経営者は、長期的な目線に立って事業や財務に関する戦略を総合的に組み立て、会社の企業価値を最大限高めなければならない。

  • そのためには、価値志向、長期志向、未来志向を特徴とする「ファイナンス思考」を取り入れ、「PL脳」から脱却することが求められている。

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【必読ポイント!】 「PL脳」と「ファイナンス思考」

日本企業を蝕む「PL脳」という病

Avosb/iStock/Thinkstock

「PL脳」とは、「目先の売上や利益といった損益計算書(PL)上の指標を最大化することを目的視する、短絡的な思考態度」のことをいう。これが、日本企業の長期的な価値向上の取り組みを阻害し、「失われた10年」がいまや30年に至ろうとする状況を生み出してきた。こうした状況を打破するために身につけるべき思考法は何か。それを著者は「ファイナンス思考」と呼ぶ。ファイナンス思考とは「会社の企業価値を最大化するために、長期的な目線に立って事業や財務に関する戦略を総合的に組み立てる考え方」のことである。それでは、ファイナンス思考のベースとなる、企業活動のエッセンスとはどのようなものか。それは、社会のより大きな問題を解決したり、他社には提供できない希少な製品・サービスを提供したりすること、つまり社会的価値の提供である。その対価として受け取るのがお金である。残念ながら、会社が世の中に提供する価値の大きさを、そのまま数値化・測定できていないのが現状だ。価値の代替指標として、不完全ながらも目安になるのがお金である。そこで、お金に換算された社会的な価値を最大化することが、ビジネスの普遍的な目標といえる。

ファイナンス思考の特徴

会社は3つの市場の評価にさらされている。それは、商品・サービスを消費・利用する顧客による評価(財市場)、働く従業員による評価(労働市場)、投資家による評価(資本市場)である。三者の短期における利害は、もちろん食い違うこともある。そのため、ステークホルダーの目線を、長期的な目標へと合わせていくのが、経営者の重要な役割となる。ビジネスとはそもそも、起業家が、事業に必要な資金を投資家から集め、そのお金を投資して商品やサービスを開発して提供し、対価として得たお金を投資家に返すという一連の活動を指す。その活動は、(1)事業の成果、(2)保有する経営資源、(3)会社の価値といった側面ごとに、お金によって定量的に評価される。(1)「事業の成果」は損益計算書(PL)やキャッシュフロー計算書、(2)「保有する経営資源」は貸借対照表(BS)といった財務諸表によって示される。一方、(3)「会社の価値」を解き明かそうとするのが、ファイナンスのアプローチである。それは「その会社が将来にわたってどれくらい多くのお金を稼ぎ出せるか」といった観点で評価するものである。このことから「価値志向」「長期志向」「未来志向」という点がファイナンス思考の特徴といえよう。会社は将来にわたって、より大きな価値を社会に提供できるよう、お金の使い方(投資)や集め方(調達)のベスト・バランスを追求しなければならない。そのときに求められるのがファイナンス思考なのである。

ファイナンスの4つの役割

bee32/iStock/Thinkstock

ファイナンス思考は、事業内容に応じた最適な時間軸を能動的に設定し、未来に向けた長期的な企業価値の向上を目的としている。ここでは、著者による「ファイナンス」の定義(P55)を引用したい。会社の企業価値を最大化するために、A.事業に必要なお金を外部から最適なバランスと条件で調達し、(外部からの資金調達)B.既存の事業・資産から最大限にお金を創出し、(資金の創出)C.築いた資産(お金を含む)を事業構築のための新規投資や株主・債権者への還元に最適に分配し、(資産の最適配分)D.その経緯の合理性と意思をステークホルダーに説明する(ステークホルダー・コミュニケーション)という一連の活動をいう。これを実現すべく、逆算的、戦略的に事業成長をめざそうとするのがファイナンス思考の特徴といえる。

全ての業務に紐づくファイナンス思考

この定義から、やはりファイナンスは経営層や財務部門の責任範囲であって、一般社員には縁遠いものと感じられるかもしれない。営業やマーケティング、製品開発といった業務は、一見ファイナンスと無縁に見える。しかし実際には、会社で働くビジネスパーソンのほとんどは、先述した「B.資金の創出」に携わっている。全従業員が、自分の部署や仕事がこの活動のどの部分を担い、どのような成果を期待されているかを理解していることが望ましい。

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要約公開日 2018.09.11
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