歴史は実験できるのか
自然実験が解き明かす人類史

未 読
歴史は実験できるのか
ジャンル
著者
ジャレド・ダイアモンド(編著) ジェイムズ・A・ロビンソン(編著) 小坂恵理(訳)
出版社
慶應義塾大学出版会 出版社ページへ
定価
2,800円 (税抜)
出版日
2018年06月15日
評点
総合
4.0
明瞭性
3.5
革新性
5.0
応用性
3.5
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自然実験が解き明かす人類史
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ジャレド・ダイアモンド(編著) ジェイムズ・A・ロビンソン(編著) 小坂恵理(訳)
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2,800円 (税抜)
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2018年06月15日
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レビュー

「あの時これが起きたら/起こらなかったら、歴史はどう変わっていたか」。誰しも一度はそう考えたことがあるだろう。歴史はいまにいたるまでの長い道のりであり、私たちの目の前にある現状は過去の産物である。

液体をフラスコに入れて過熱するように歴史を「実験」して、「未来のオプション」を見ることができたらどんなにおもしろいことか。しかしそれはいわずもがな不可能だ。過去を操作することはできない。

代わりに本書が試みるのは、歴史を「自然実験」「比較研究法」という手法で探り、特定の事象の原因と結果を導き出すことである。スポット的に歴史の流れを読むのではなく、自然環境や国の制度、イデオロギーなど、さまざまな社会的条件を考慮しながら、複合的な角度で読み解くのだ。

本書に掲載されている8つの研究テーマはいずれも興味深い。執筆陣の専門分野も歴史学だけでなく、考古学、経営学、経済史、地理学など多岐にわたる。そのなかから要約では、歴史学者ジェイムズ・ベリッチによる19世紀の開拓地での爆発的な移民増加についての考察、進化生物学者ジャレド・ダイアモンドによるハイチとドミニカ共和国の比較論、経済学者アビジット・バナジーとラクシュミ・アイヤーによるインドの制度の比較分析を取り上げた。

いま当たり前の事実として横たわる事象も、元を辿れば「原因」がある――それもひとつではなく。まさに歴史のおもしろさを存分に味あわせてくれる一冊であり、読み進めるほどに「そうだったのか!」と膝を打つこと請け合いだ。

矢羽野晶子

著者

ジャレド・ダイアモンド(Jared Diamond)
1937年生まれ。カリフォルニア大学ロサンゼルス校。専門は進化生物学、生理学、生物地理学。1961年にケンブリッジ大学でPh.D.取得。著書に『銃・病原菌・鉄:一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎』でピュリッツァー賞。『文明崩壊:滅亡と存続の命運をわけるもの』(以上、草思社)など著書多数。

ジェイムズ・A・ロビンソン(James A. Robinson)
1960年生まれ。シカゴ大学公共政策大学院(刊行当時はハーバード大学)。1993年にイェール大学でPh.D.取得。専門は政治経済学、比較政治学。共著に『国家はなぜ衰退するのか:権力・繁栄・貧困の起源』(早川書房)がある。

本書の要点

  • 要点
    1
    19世紀に入ってからの開拓地の爆発的成長は、ブーム(にわか景気)、バスト(恐慌)、移出救済という3つのサイクルが繰り返された結果である。
  • 要点
    2
    ひとつの島を分けるハイチとドミニカ共和国だが、自然環境や植民地時代の宗主国の方針、独立後の支配者などが、両国の貧富の差につながっている。
  • 要点
    3
    インドにおいて、かつて地主支配下だった地域の学校やインフラの普及率はいまも低い。このことからも国の成長を促すうえで、「制度」はきわめて強い影響力をもっているといえる。

要約

アメリカ西部の人口爆発はなぜ起こったか

人類史上最大の人口増加
Maxger/gettyimages

アメリカ西部開拓時代、未開の地であったフロンティアは爆発的な人口増加を遂げた。たとえば1790年のアパラチア以西の入植者人口は約11万人だったが、1920年には6200万人まで増加。1830年に1000人程度だったシカゴは、のちの90年で270万人にまで膨れ上がった。この人類史上例を見ない爆発的な成長はどのように起こったのか。

19世紀における開拓地の急成長は、「ブーム(にわか景気)」「バスト(恐慌)」「移出救済」という、周期的に訪れる3つの段階による産物といえる。これは大まかに以下の流れを辿る。

まずフロンティア地域でブームが5~10年続き、そのあいだに人口は少なくとも倍増する。フロンティアには商品、資本ともに入りの方が多いため、市場も活性化する。

だがその後、バストが訪れる。成長率は大きく落ちこみ、農場や企業の大半が倒産する。

最後の移出救済の段階に入ると、過去の残骸から新たな社会経済が創造され、経済は緩やかに回復する。だが成長スピードはブームと比べるとかなり遅い。このときフロンティアと大都市の関係はより密になる。

アメリカ西部をはじめとした開拓地の大半は、このサイクルを少なくとも一度は経験している。

急成長の三段階

ブームの時期に入ると、ヒト、お金、情報、スキルが都市部からフロンティアへ大量に移動する。そのため船や鉄道などの輸送手段を始めとした、巨大なインフラ産業が生み出される。たとえば1850年代にアッパー・カナダで進められた鉄道建設には、男性労働者の約15%が直接関わっていた。また人口増加にともなう住宅建築や街の整備のため、木材調達も必至。林業も盛んであった。さらに先住民と欧州入植者の戦いもブームの一角を担い、フロンティアではあちこちに砦が築かれ、戦争への莫大な投資がなされた。

次に来るバストでは、物価・賃金ともに下落する期間が2~10年継続する。1819年のバストの際は、アメリカで10年のあいだに設立された何百もの単一銀行のうち、半分が消滅した。またカナダ沿海州の一部地域では、1840年代はじめのバストによって、多くの町がゴーストタウン化している。

移出救済の段階にくると、インフラができあがり輸送技術も進歩する。ニューヨークが1900年に世界最大の都市になったのは、インフラ整備により大量の移民がフロンティア奥地へ到達できるようになったことが大きい。加えて都市住民が食料などの必需品をフロンティアに求め、それにフロンティアが対応するという「利害関係の結合」が発生。その結果、アメリカ合衆国全体の一体感が築かれた。

「地獄」から「地上の楽園」へ
NiseriN/gettyimages

アメリカへの移民の爆発的増加には、1815年頃に始まった「3つのシフト」も大きく関わっていると考えられる。ここでいう3つのシフトとは、ナポレオン戦争の終結、モノの移動の増加、そして入植者の地位向上のことだ。

1815年にナポレオン戦争が終結し、欧州では125年に渡る戦争に終止符が打たれ、イギリスとアメリカの40年に渡る対立も終わった。戦争は欧州を大きく動揺させたが、英語圏にはプラス効果もあった。アメリカでは戦争をきっかけにプロト工業化が進み、金融機関や国際貿易が発達。イギリスは工業化を成功させ、海上の覇者としての地位を不動のものとした。

またテクノロジーの発達により、モノの移動が増加した。これにともないヒトや情報、マネーの移動が促され、開拓地でのブームにつながっていく。

「植民」に対するイメージも大きく変わった。

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