増補改訂版 フィードバック入門
増補改訂版 フィードバック入門
部下が成果を出すための最も効果が高い育成の技術
著者
NEW
増補改訂版 フィードバック入門
出版社
出版日
2025年08月19日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
4.5
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おすすめポイント

部下の成長を支援するとき、どんな言葉をかけるべきか――。

いま多くの上司がパワハラと見なされることを恐れ、批判や指摘を避け、無難なコメントに終始している。どこまで厳しくすべきかの線引きに迷い、ならば自分で片づけた方が早いと考える者も少なくない。短期的には楽でも、その帰結はマネジャーにのしかかる負担、伸び切れない部下のフラストレーション、そしてチームの学習能力の痩せ細りである。

本書はその閉塞感に対する解を示す。キーワードは「鏡」だ。感情や好悪ではなく、現場の事実を淡々と拾い集め、そのまま提示する。大げさな評価や説教の装いに逃げず、相手の言動を「鏡のように」映す。そうして初めて、当人が抱える課題が輪郭を帯びて立ち上がり、次の一手が見えてくる。

事実に立脚しないフィードバックは、ポジティブであれネガティブであれ、表面をなでるだけで本質に届かない。だからこそ本書は、「耳の痛い」助言を実務の手順へと落とし込み、日々の現場で実行に移す勇気を与える。褒める場面でも叱責の場面でも、拠り所は同じだ。「事実(fact)」を鏡に映し出し、相手の理解に届く言葉に整えるのである。

ここに書かれた作法を粘り強く試せば、あなたの部下やチームメンバーは変わり、そしてあなた自身も変わるだろう。静かながら確かな変化の手応えをもたらす一冊である。

著者

中原淳(なかはら じゅん)
立教大学経営学部教授(人材開発・組織開発)
立教大学大学院経営学研究科リーダーシップ開発コース
1975年、北海道旭川市生まれ。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院人間科学研究科、メディア教育開発センター(現・放送大学)、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員、東京大学講師・准教授などをへて、2018年より現職。「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発、組織開発について研究している。
著書に、『職場学習論』『経営学習論』(ともに、東京大学出版会)、『実践!フィードバック』『サーベイ・フィードバック入門』(ともに、PHP研究所)、『話し合いの作法』(PHPビジネス新書)、『組織開発の探究』(中村和彦氏との共著、ダイヤモンド社)、『残業学』(パーソル総合研究所との共著、光文社新書)など多数。

Blog: NAKAHARA-LAB.NET (https:www.nakahara-lab.net/)
X(旧Twitter)ID:@nakaharajun

本書の要点

  • 要点
    1
    フィードバックは「経験軸」と「ピープル軸」を土台に、情報通知と立て直しを統合する育成技術である。
  • 要点
    2
    フィードバックは「具体的に相手の問題行動の事実を指摘する」必要があるため、事前準備が不可欠だ。相手の情報(事実)をできる限り集めて、それを「鏡のように」映し出し、客観的かつ正確に通知する。
  • 要点
    3
    チームを動かしたり人を伸ばしたりするには、ポジティブフィードバックも必要だ。ポジティブフィードバックには、部下の仕事満足やモチベーションの向上などが期待できる。

要約

フィードバックとは何か

「ティーチング」と「コーチング」の二項対立を超える

日本の職場で管理職が部下を導く際、かつて主役だったのは「どう教えるか」「どう指示するか」「どう伝えるか」であった。上下のヒエラルキーに沿う一方通行の情報伝達が善とされ、現場の実務においても会議や面談の作法においても、その価値観が色濃く反映されていた。要するに、部下育成は長いあいだティーチング(教えること)が主流だったのだ。

やがて2000年代後半、舞台に躍り出たのがコーチングである。端的に言えば「他者の目的達成を支援する技術」だ。一方向の部下育成法が当たり前だった現場で、当人の内省と自律を引き出す手法として注目を浴び、次第に存在感を増していった。各社の現場に、制度や会話の型として導入されていったのである。

この潮流自体は健全だが、当時の導入・紹介の文脈には誤解が少なくなかった。コーチングはしばしばティーチングの仮想敵とされ、「コーチングこそが正解で、ティーチングは時代遅れだ」と高らかに謳われたのである。その結果、現場ではティーチングがことさらに否定され、コーチング一色へと染まっていった。

しかし、白黒の構図が機能しないことは、少し考えれば誰でもわかる。育成にはティーチングが有効な場面もあれば、コーチングがふさわしい局面もある。つまり「ケースバイケース」なのである。

フィードバックの2つの要素
kyonntra/gettyimages

では、どうしたらいいのか。そこで注目されるのが、両者を包括する上位の枠組み――フィードバックである。「相手に気づかせるのか、それとも教えるのか」といった二項対立から脱し、双方のバランスを取りながら部下を育成するのである。

フィードバックの定義はさまざま存在するが、本書では次の2つの要素から成立するものとする。

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要約公開日 2025.10.13
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