宇宙はなぜブラックホールを造ったのかの表紙

宇宙はなぜブラックホールを造ったのか


本書の要点

  • アインシュタインによる特殊相対性理論や一般相対性理論の確立を契機に、ドイツの物理学者シュバルツシルトによって、ブラックホール解が導かれた。

  • 「ブラックホールは観測できない」と考えられていたが、強い電波源の調査や恒星と連星系をなす天体の調査から、いまは次々と新たなブラックホールが発見されている。

  • 銀河の中心にはブラックホールがあり、ブラックホールと銀河が共に進化するという「共進化(co-evolution)」という概念も生まれた。

  • ブラックホールも物質としての性質を持っており、寿命がある。

1 / 4

ブラックホールという概念が誕生するまで

光が脱出できない黒い星

ブラックホールという概念は、研究室のなかから生まれた。18世紀後半は、「光は波ではなく粒子である」という考え方が主流であった。ならば光は重力に引き寄せられるため、光が出てこられないほどの重力を持つ“黒い星”があるのではないか。これが、英国の物理学者ジョン・ミッチェルが1783年に発表した論文に登場した“dark star(暗い星)”であり、ブラックホールという概念の萌芽であった。たしかに星の重力に打ち勝つために必要とされる「脱出速度」が光の速さを上回ることは、理論上あり得る。たとえば太陽と同じ密度の星が太陽の500倍の大きさだったとすると、光の速度ではこの星の重力に打ち勝つことはできない。観察する側に光が届かないため、その星は暗く、当然観測することもできなくなる。

時空は質量分布に応じて歪む

i000pixels/gettyimages

ミッチェルが指摘した“黒い星”には理論上の限界があった。光は質量がないため、重力の観点で脱出速度を論じることは無理があるのだ。古典的なニュートン力学の限界といえるだろう。ブラックホールという概念の誕生は、ドイツ生まれの物理学者アルベルト・アインシュタインと無関係ではない。E=mc2という式に代表される特殊相対性理論で、アインシュタインは3次元の空間座標に対して時間が相互に関係していることを見出し、「時空」という概念を生み出した。また特殊相対性理論に重力を取り込んだ一般相対性理論では、重力の効果が時空の曲がりとしてあらわれるとした。これに従えば、重力波は時空への歪みを伴いながら、光速度cで伝播することになる。こうして「重量を持つ物体がある = その場所の時空は質量分布に応じて歪む」という一般相対性理論が確立した。

そして導いたブラックホール解

星などの天体が自分自身の重さに耐えきれず重力によって縮んでいく、重量崩壊と呼ばれる現象がある。このとき一般相対性理論では、星を形作る物質が星の中心に落ち込むとは考えない。時空が落ち込むと考えるのだ。それでは時空が縮んでいく速度が、光の速度を超えたらどうなるのか。当然ながらその光が観測者のもとに届くことはない。これこそがいまに続くブラックホールの概念で、ドイツの物理学者カール・シュバルツシルトが導いたブラックホール解だ。彼の名前をとって、光が脱出できなくなる速度が実現する半径は「シュバルツシルト半径」と呼ばれる。一般相対性理論のもとでは、3次元の空間と1次元の時間を足し合わせ、4次元の世界で物事を考えなければならない。重力が強くなると時空の歪みが大きくなり、時間の進みが遅くなる。つまりブラックホールに近づくにつれ、時間の進みは弱くなり、「シュバルツシルト半径」に達するとついに時間が止まる。光でさえも止まってしまうので、光はそこから出てくることもできなくなるというわけだ。

2 / 4

【必読ポイント!】ブラックホールの発見

超大質量ブラックホールの発見

scyther5/gettyimages

ブラックホールという概念が成り立つことは、ブラックホール解として示された。しかしそれでもなお、長らくブラックホールは存在しないと思われていた。重力崩壊が原因で密度無限大の特異点を持つとするブラックホールは、安定的に存在できないと思われたからだ。だが天文学の領域において、見えないはずのブラックホールにつながる発見が相次いだ。

もっと見る
この続きを見るには...
残り2583/3972文字

4,000冊以上の要約が楽しめる

要約公開日 2019.05.04
Copyright © 2025 Flier Inc. All rights reserved.

一緒に読まれている要約

民主主義の死に方
民主主義の死に方
濱野大道(訳)スティーブン・レビツキーダニエル・ジブラット
ゼロは最強
ゼロは最強
TAKAHIRO
知らない人を採ってはいけない
知らない人を採ってはいけない
白潟敏朗
アナログの逆襲
アナログの逆襲
加藤万里子(訳)デイビッド・サックス
持たざる経営の虚実
持たざる経営の虚実
松岡真宏
僕たちは14歳までに何を学んだか
僕たちは14歳までに何を学んだか
藤原和博
お金の流れで読む 日本と世界の未来
お金の流れで読む 日本と世界の未来
ジム・ロジャーズ大野和基(訳)
サンデル教授、中国哲学に出会う
サンデル教授、中国哲学に出会う
マイケル・サンデル鬼澤忍(訳)ポール・ダンブロージョ(編著)

同じカテゴリーの要約

AIエージェント革命
AIエージェント革命
シグマクシス
愛される書店をつくるために僕が2000日間考え続けてきたこと キャラクターは会社を変えられるか?
愛される書店をつくるために僕が2000日間考え続けてきたこと キャラクターは会社を変えられるか?
ハヤシユタカ
ユニクロ
ユニクロ
杉本貴司
ケーキの切れない非行少年たち
ケーキの切れない非行少年たち
宮口幸治
ローソン
ローソン
小川孔輔
両利きの経営(増補改訂版)
両利きの経営(増補改訂版)
チャールズ・A・オライリーマイケル・L・タッシュマン入山章栄(監訳・解説)冨山和彦(解説)渡部典子(訳)
トヨタの会議は30分
トヨタの会議は30分
山本大平
キーエンス解剖
キーエンス解剖
西岡杏
未来の年表
未来の年表
河合雅司
シン・ニホン
シン・ニホン
安宅和人