考察する若者たち
考察する若者たち
考察する若者たち
出版社
出版日
2025年11月18日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

ひとたびYouTubeを開けば、「あのアニメにこんな裏設定が!?」「ゲーム内では語られていない真実を暴く」といった文言が飛び交う。制作者が用意したであろう「裏側」を解き明かし、「ほんとうの物語」を見出そうとするコンテンツたちだ。

ドラマ、映画、アニメ、ゲームなどのそうした考察記事、考察動画は、ひと昔前よりも数を増やし、格段にクオリティを上げている。それだけ「考察」を気にする層が厚くなっているということだ。かと言って、考えなければその深みに至れないような難しい作品ばかりになったのかというと、そういうわけでもない。さらには、『あなたの番です』や『変な家』、『近畿地方のある場所について』など、制作側から視聴者、読者に対し、「考察」を促す仕掛けを施した作品も増えている。

これほどまでに「考察」がブームとなっている背景には何があるのか。

この現象について、ベストセラー『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』の著者である三宅香帆さんは本書『考察する若者たち』のなかで、次のように語る。ただおもしろい、感動するというだけでなく、「そこにプラスアルファの『意味ある時間』に変える工夫ができると、流行する」のではないか。これは、いま若者の心を捉えている数々のコンテンツ、アクティビティ全体に対していえることであり、その背景には「現代特有の痛み」があるという。

その「痛み」は、若者だけのものではない。情報の奔流のなかで、芯となるものを探したくなる私たち、すべてに向けられている。あなたはけっして、「考察」と無関係ではない。

著者

三宅香帆(みやけ かほ)
文芸評論家。京都市立芸術大学非常勤講師。1994年生まれ。高知県出身。京都大学大学院人間・環境学研究科博士前期課程修了(専門は萬葉集)。著書に『人生を狂わす名著50』(ライツ社)、『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書、書店員が選ぶノンフィクション大賞2024大賞、新書大賞2025大賞)、『「好き」を言語化する技術』『伝わる言語化』(いずれもディスカヴァー・トゥエンティワン)、『「話が面白い人」は何をどう読んでいるのか』(新潮新書)など。

本書の要点

  • 要点
    1
    「考察」という言葉は最近、新しい文脈のなかで使われている。「事件の真犯人などの『謎』を、作中のヒントから推察し、その推察をSNSやブログで語ること」を指す。
  • 要点
    2
    ウェブ上のプラットフォームは、レコメンド・アルゴリズムによって「『正解』という名の最大公約数を強化させる表現を支持する傾向」をもち、これがユーザーの個別性を失わせて、同じような主張を持つ人たちによる「界隈」を生み出している。
  • 要点
    3
    現代では余暇においても、行動の報酬、「報われポイント」を求めている。

要約

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批評から考察へ
Ei Ywet/gettyimages

「考察」という言葉は最近、新しい文脈のなかで使われている。「事件の真犯人などの『謎』を、作中のヒントから推察し、その推察をSNSやブログで語ること」を指す。しかも「考察」文化はドラマに限ったものでもない。ミステリのジャンルではない作品であっても、「作者は謎を仕掛けている」という前提で、視聴者や読者みずから考察する。それが、現代の「フィクション受容になりつつある」のだ。

2024年には映画化もされたウェブライター雨穴による小説『変な家』は、この傾向を小説で実現した「考察小説」である。知人から手渡されたとある家の間取りから謎を読み解いていくこの作品では、間取りに存在する違和感を「考察」せよと作者みずから伝えてくる。それまでのミステリ小説であれば、ひとつの「謎」以外にも人間関係や関連する事件の詳細などが語られる。しかし『変な家』の前半では、人間の感情などを排除して間取りの謎の提示に終始している。考察小説はこのように、読者による考察と「一つだけの正解」を知るプロセスが用意されているのだ。

この考察の時代では、『鬼滅の刃』や『ONE PIECE』などの作品でも、「伏線回収」「裏設定」などの字がタイトルに躍る考察動画が多い。制作者たちが仕掛けたであろう「気づかれていない」真実を伝えようとする。考察文化は作品の受容体験自体を「正解のあるゲーム」に変えているといえよう。

こうした「考察」がない時代は、「批評の時代」であった。ここでの批評は、「作者すら思いついていない作品の解釈を提示する」ことである。考察には、「作者の意図」への意識がある。

NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』では、2023年公開の映画『君たちはどう生きるか』について、「宮﨑駿が高畑勲の死を乗り越えるためだけにつくった、自分たちの関係性をアニメに映し出した作品」という「ジブリからの回答」があるかのように紹介されていた。この映像を観た人は、制作者による“答え”を知ったと思って、安心するに違いない。しかし、『君たちはどう生きるか』ではたとえば、主人公の少年が抱く葛藤が克明に描かれており、それを宮﨑駿と高畑勲の関係において読み解くのはなかなか難しい。こうした複雑さは、「考察の時代」には好まれないのである。

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要約公開日 2025.11.18
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