心に残る文章のひみつ
文体を知ると、文章がもっと楽しくなる
「文章には、みっつも楽しみ方がある」と著者は言う。
ひとつは中身の情報。ふたつめは書き手の視点。そしてみっつめが文体。つまり、書き手や文章を特徴づける書き方のことだ。文体を知れば知るほど、読むことも書くことも楽しくなるというが、その正体は謎めいている。
ネット記事にSNS、メールにブログ……。文章があふれる世の中で、埋もれずに心に残る文章には、必ず文体がある。文体はあくまで「言葉」であり、音や色があったりするわけではない。にもかかわらず、同じ内容でも伝わり方を大きく変え、読み手の心をつかむのはなぜなのか。
本書は“文芸オタク”を自認する著者が、読まれる文章に秘められた文体の「ひみつ」を解き明かし、「みんなが放っておけない文章」を作成するためのヒントを伝えていく。
惹きつける文体
森鴎外の寄添力

夏目漱石が「未来型」なら、歴史小説を数多く著した森鴎外は「過去型」の代表格だ。遠い過去の話なのに、すぐ近くで繰り広げられているような文体で「思い出話」を書く名手である。
「古い話である。僕は偶然それが明治十三年の出来事だと云うことを記憶している」から始まる小説『雁』は、この後、「年をはっきり覚えている」理由を明かし、さらに段落の最後で「僕は覚えているからである」と畳みかける。
現在から見た「記憶」だと強調することで、昔話でありながら語り手がすぐそばにいると感じさせ、読み手を惹きつける効果がある。古くは『千夜一夜物語』などでも使われた手法だ。
ポイントは最初に「現在の自分」を明示すること。時制を最初に印象づけることで、読者は安心して「過去の話」についていくことができるのだ。
山崎ナオコーラの冒険力
刺激的なことを書きたいけれど、炎上が怖くて無難な書き方になってしまう。書く人にとってありがちな悩みだ。こういった「言葉の自主規制」はさまざまな場面で起きている。




















