知らない世界の話について堂々と語る方法
抽象化と個別化

著者の会社員時代の同僚に、フィンテックの会社を起こした木村という男がいる。木村によれば、企業が廃業する理由はひとつだけ――すなわち金がない、というものであるらしい。赤字でも、法令を遵守していなくても、経営者が無能でも、サービスに需要がなくても、それだけでは廃業しない。こうした特徴の一部、あるいはすべてを持っているのに、数十億や数百億と評価されているベンチャー企業もある。投資家が出資してさえいれば、企業は存続するのだ。これに対して著者が「企業が廃業する理由には、経営者がやる気をなくすというものがあるのではないか?」「何かの賞をもらって延命する企業もあるのではないか?」という問いを投げかけると、木村はこれを肯定した。
――これはすべて著者が考えた嘘だ。だが、この話を本当だったと仮定して、この先を読んでみてほしい。著者はこの話を聞いて「小説家と似ているなぁ」と思った。小説家も、本が売れなくて赤字でも、違法行為に手を染めていても、無能でも、作品に需要がなくても、それだけでは絶筆にならない。ベンチャー企業における投資家は、小説家においては出版社である。出版社が小説家に投資をするのは、単に「売れるから」というだけではなく、作品が広く読まれたり後世に残されるべき価値があると判断していることもある。また売れていてもさまざまな理由でやる気を失って書けなくなってしまう小説家はいるし、売れていなくても賞を得たことで小説を発表する機会を与えられ続けることもある。企業の価値も、小説の価値も、売上だけではかることはできないために、さまざまな生き残り方があるのだ。




















