大脱出

健康、お金、格差の起原
未読
大脱出
大脱出
健康、お金、格差の起原
未読
大脱出
出版社
みすず書房
出版日
2014年10月25日
評点
総合
3.7
明瞭性
3.0
革新性
5.0
応用性
3.0
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おすすめポイント

2015年のノーベル経済学賞は、プリンストン大学のアンガス・ディートン教授に贈られた。受賞の理由は「消費、貧困、福祉についての分析」が評価されたからだという。効果的な経済政策を立案するためには、個人が消費を行う際の選択について理解する必要がある。ディートンは画期的な消費モデルを考案し、このモデルは多くの国で政策分析に用いられるようになった。その後もディートンの研究は開発途上国の経済発展、健康や幸福度などの生活水準の指標など多方面に拡がっている。

ディートンの著作のうち、唯一日本語訳が発表されているものが本書『大脱出』である。このタイトルはスティーブ・マックィーン主演の『大脱走』という映画をモチーフにしている。この作品は第二次世界大戦の捕虜収容所から脱走する男たちの物語であった。本書において「脱出」とは、人類が貧困と早すぎる死から逃れ、生活水準の改善を果たしてきたことを指す。留意しなければならないのは、この脱出に成功したのは一部に過ぎず、いまだに取り残された者が多く存在することだ。先進国はいまも経済成長を続け、健康面でも平均寿命は延び続けている。一方で、開発途上国ではいまも生活困窮者が数多く存在し、子どもの段階で亡くなってしまうことも多い。

もちろんこうした開発途上国には先進国から援助が行われている。意外にも、本書によると、こうした援助は薬でなく毒であるから、むしろ止めた方が良いそうだ。真に現地の人々を救うための援助の在り方とは何なのか。ぜひご一読いただきたい。

ライター画像
苅田明史

著者

アンガス・ディートン
プリンストン大学の経済学部教授。専門分野は健康と豊かさ、経済成長の研究。イギリス生まれ。米英の市民権を持ち、ケンブリッジ大学とブリストル大学で教鞭を執ったのち、プリンストン大学に移籍。2009年にはアメリカ経済学会の会長を務める。現在の研究テーマは、富裕国と貧困国における健康状態の決定因子と、インドをはじめとする全世界の貧困の計測。

本書の要点

  • 要点
    1
    一人当たりGDPと平均余命には相関関係がある。富と健康は幸福のもっとも重要な要素の二つであると同時に、裕福になればなるほど健康になるということが分かっている。
  • 要点
    2
    所得と健康には格差があり、その格差は国内においても国家間においても存在している。特に国家間の格差は大きく、中国やインドのように「脱出」を果たした国もあるが、アフリカの多くはまだその途上にある。
  • 要点
    3
    先進国から途上国への援助において、HIVや天然痘の治療など健康面での援助は成功したものもあるが、大規模な経済援助は被援助国の成長の機会を阻害してしまっているため、やめるべきだ。

要約

格差の起源

所得と健康と幸福の関係とその格差
TPopova/iStock/Thinkstock

18世紀から19世紀にかけてイギリスで始まった産業革命は、何億もの人々を物質的貧困から救うに至る経済成長のきっかけとなった。しかし、イギリスやヨーロッパ北西部、北米が著しい発展を遂げたことで、他の国との大きな格差が生じてしまった。歴史家はこれを「大分岐」と呼び、この巨大な溝は今日に至るまで埋められていない。現在の世界的格差は、実はその大半が近代の経済成長によって引き起こされたものである。

健康面での発展は、富の発展と同様にめざましい。この100年間で富裕国の平均余命は30年も伸び、今も10年ごとに2、3年ずつ延び続けている。しかしここでもやはり、発展から格差が生まれてくる。喫煙が有害という知識は、過去50年の間に何百人もの命を救ってきた。しかし最初に禁煙したのは教育を受けた裕福なホワイトカラーたちで、それが富者と貧者の間に健康格差を生むことになった。ワクチン接種で防げる病気で亡くなる子どもがいまだに年間200万人も存在することも、健康格差の一つと言えるだろう。

健康と富は幸福のもっとも重要な要素の二つである。健康で長生きする人生が幸福であることはわかりやすいだろう。また、国ごとの一人当たりGDPと人生満足度を見るとおおむね比例する。さらに、国ごとに平均余命と一人あたりGDPを比較すると、そこにも正比例の関係があることが分かる。健康状態を改善するためにもっと栄養を必要とする場合、国民はお金を必要とするし、安全な水や衛生状態の改善を確保するためには、政府がお金を必要とするからだ。言い換えれば、裕福になるほど健康になるということである。

本書では健康と所得の二つに焦点を当て、それらの国内・国家間における格差について取り上げている。

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要約公開日 2016.02.08
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