本書の要点

  • 一人当たりGDPと平均余命には相関関係がある。富と健康は幸福のもっとも重要な要素の二つであると同時に、裕福になればなるほど健康になるということが分かっている。

  • 所得と健康には格差があり、その格差は国内においても国家間においても存在している。特に国家間の格差は大きく、中国やインドのように「脱出」を果たした国もあるが、アフリカの多くはまだその途上にある。

  • 先進国から途上国への援助において、HIVや天然痘の治療など健康面での援助は成功したものもあるが、大規模な経済援助は被援助国の成長の機会を阻害してしまっているため、やめるべきだ。

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格差の起源

所得と健康と幸福の関係とその格差

TPopova/iStock/Thinkstock

18世紀から19世紀にかけてイギリスで始まった産業革命は、何億もの人々を物質的貧困から救うに至る経済成長のきっかけとなった。しかし、イギリスやヨーロッパ北西部、北米が著しい発展を遂げたことで、他の国との大きな格差が生じてしまった。歴史家はこれを「大分岐」と呼び、この巨大な溝は今日に至るまで埋められていない。現在の世界的格差は、実はその大半が近代の経済成長によって引き起こされたものである。健康面での発展は、富の発展と同様にめざましい。この100年間で富裕国の平均余命は30年も伸び、今も10年ごとに2、3年ずつ延び続けている。しかしここでもやはり、発展から格差が生まれてくる。喫煙が有害という知識は、過去50年の間に何百人もの命を救ってきた。しかし最初に禁煙したのは教育を受けた裕福なホワイトカラーたちで、それが富者と貧者の間に健康格差を生むことになった。ワクチン接種で防げる病気で亡くなる子どもがいまだに年間200万人も存在することも、健康格差の一つと言えるだろう。健康と富は幸福のもっとも重要な要素の二つである。健康で長生きする人生が幸福であることはわかりやすいだろう。また、国ごとの一人当たりGDPと人生満足度を見るとおおむね比例する。さらに、国ごとに平均余命と一人あたりGDPを比較すると、そこにも正比例の関係があることが分かる。健康状態を改善するためにもっと栄養を必要とする場合、国民はお金を必要とするし、安全な水や衛生状態の改善を確保するためには、政府がお金を必要とするからだ。言い換えれば、裕福になるほど健康になるということである。本書では健康と所得の二つに焦点を当て、それらの国内・国家間における格差について取り上げている。

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要約公開日 2016.02.08
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