ヤバい社会学
一日だけのギャング・リーダー

未 読
ヤバい社会学
ジャンル
著者
スディール・ヴェンカテッシュ 望月衛(訳)
出版社
東洋経済新報社 出版社ページへ
定価
2,376円
出版日
2009年01月16日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
5.0
応用性
3.0
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ヤバい社会学
一日だけのギャング・リーダー
著者
スディール・ヴェンカテッシュ 望月衛(訳)
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東洋経済新報社 出版社ページへ
定価
2,376円
出版日
2009年01月16日
評点
総合
4.0
明瞭性
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革新性
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応用性
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レビュー

きわめて治安の悪い居住区、通称「ゲットー」。そこで暮らす人々がどのような生活を送り、ギャングたちとどう共存しているのか、ありのままを伝える文献や映像は少ない。そういう意味で、実際ゲットーに足を踏み入れ、住人やギャングたちと時間をともにし、その実態を生々しく描いた本書は貴重な文献だ。

彼らは、マスコミや民生委員たちに心底嫌気がさしてしまっている。著者が彼らに受け入れられたのは、白人ではなく南アジアからの移民という立場、そして大学院生という客観的に物事を観察できる立場にあったことが大きいだろう。著者が、彼らの生活に無知であることを隠そうともせず、素直に彼らの話に耳を傾けていたのも奏功したのかもしれない。

彼らのなかでも、特に著者と深く関わってくるのは、ギャングの若きリーダー・JTだ。ただ彼だけでなく、アメリカ最悪のゲットーの一つに数えられるロバート・テイラー・ホームズの人たちも、この「物語」においてなくてはならない存在である。例えばJTの母ミズ・メイは、著者が家に訪れるたびに食事を与え、温かくもてなす。彼女のような、貧しいなかにあっても支え合う住民たちの優しさに、著者は驚きを隠せない。それと同時に、「自分は調査対象に深入りしすぎているのではないか」と深く考えこむようにもなる。本書は、エスノグラフィーをするうえでの葛藤を、生々しく描き出した作品でもある。

本書を読むことで、アメリカという国のこれまで「隠されていた」景色が、ぐっと見えてくるに違いない。

下良 果林

著者

スディール・ヴェンカテッシュ (Sudhir Venkatesh)
ニューヨーク市のコロンビア大学で教授を務める。専門は社会学とアフリカ系アメリカ人研究。アメリカの貧困について膨大な著作がある。現在は、フランスとアメリカの都市部の貧困層の比較研究を行っている。ヴェンカテッシュの手による専門書、逸話、ドキュメンタリーは、『アメリカン・プロスペクト』誌、『ディス・アメリカン・ライフ』誌、『ザ・ソース』誌といった雑誌や、PBS、ナショナル・パブリック・ラジオなどで取り上げられている。

本書の要点

  • 要点
    1
    著者が社会学に接するうちにおぼえた違和感は、研究者たちが調査対象としている貧しい人たちに会おうとせず、抽象的でよそよそしい議論しかしないことであった。
  • 要点
    2
    警官は必ずしも住人の味方ではない。警官のなかには、ギャングを襲って彼らの金や宝石を盗んだり、住人に対して嫌がらせや虐待、強請などのあらゆる悪行をおこなったりする者もいる。
  • 要点
    3
    ギャング衰退に大きな影響を及ぼしたのは、クリントン政権が決定した公営団地の解体だ。縄張りを失ったギャングは稼ぎを失い、バラバラになっていった。

要約

ゲットーに足を踏み入れる

社会学への不満
photogl/iStock/Thinkstock

著者がシカゴ大学に入ったのは、1989年の秋だった。その時受講した授業のなかに、社会学の古典的な問題を扱ったセミナーがあった。どうして仕事に就けない人がいるのか、なぜ刑務所に行くはめになるのか、なぜ未婚のまま子供を生むのかといったことを、アンケートをおこない入手したデータをもとに、高度な数学的方法で分析し、理論を立てるというものだ。しかしそういった議論は、冷たくてよそよそしく、抽象的な議論のように著者の目には映った。また、研究者たちが、彼らに直接会ってみようとすらしないことにも違和感をもった。

一日中教室に座って数字を見つめるよりも、もっと他のことがしたい――そう考えた著者は、社会学の世界で一番有名なアフリカ系アメリカ人であるウィリアム・ジュリアス・ウィルソン教授のもとを訪れた。ウィルソン教授はちょうど、若い黒人が、さまざまな環境要因からどのような影響を受けているか、という調査を計画していたところだった。

JTとの出会い

ウィルソン教授の力になろうと、著者は自ら街に出て、若い黒人に直接話を聞いてまわった。だが、誰も協力してくれないばかりか、サイコロ賭博をしている若者集団に絡まれてしまう。

身の危険を感じた著者だったが、そこへ取り巻きを連れた一人の若者が現れた。立ち居振る舞いから、すぐに彼が皆のボスなのが見てとれた。彼の名はJTといい、ブラック・キングスという組織の一員だということがわかった。

著者はJTに、若い黒人の生活を理解し、より良い公共政策を立案するのを目的とした調査のためここへ来たと説明した。だが、JTは自分のことを、「黒人でもアフリカ系アメリカ人でもない」とし、「自分はニガーだ」とそっけなく答えた。彼によれば、アフリカ系アフリカ人というのは、郊外に住んでいて、ネクタイを締めて仕事に行く。だが、ニガーはスラムに住み、仕事なんてもらえないという。

彼らのことを本当に理解するためには、学者の使う質問票は役に立たないとJTは続ける。一緒につるまなければ、本当のことは何も見えてこないのだ、と。

ロバート・テイラー・ホームズの人々
Rasmus Rasmussen/iStock/Thinkstock

JTとつるむことにした著者は、アメリカ最大の公営団地であり、JTが育った場所であるロバート・テイラー・ホームズという団地へ足を踏み入れた。

1980年代の終わり頃のロバート・テイラー・ホームズは、シカゴのギャング問題と麻薬問題の総本山とみなされていた。多くの住民が現金給付や食糧配給券、医療扶助などの生活保護に頼って生きている一方で、ギャングたちは麻薬密売、ゆすり、賭博、売春、盗品など、非合法的な手段で金を稼いでいた。いずれにせよ、彼らの多くは貧しい暮らしを強いられ、表の経済から実質的に切り離されていた。

当時、そのようなアメリカのスラムを扱ったルポタージュは驚くほど少なかった。特に、貧しい人たちとギャングたちとの関係について、取りあげているものはほとんどなかったと言ってよい。

著者がロバート・テイラー・ホームズで見たのは、住民たちとギャングたちの奇妙な共生関係だ。JTは、ホームレスから場所代を受け取り、麻薬を売ることを許されていない下っ端たちの取り分として回していた。また、ギャングたちを放っておいてもらえるよう、パトロールをしている人たちに金を渡したり、女性が安心して過ごせるように、麻薬中毒者に暴力を加えて黙らせたりもしていた。ロバート・テイラー・ホームズにおいて、JTたちは事実上の管理組織であるかのように振る舞っていた。

ゲットーに巻き込まれる

大学院生が日雇いギャング・リーダーに

そうしているうちにJTとつるんで三年近くが経ち、博士論文のテーマを指導教授らと話すようにもなっていた。彼らは、ひとつの情報源ばかり頼りすぎたり、コミュニティを題材に博士論文を書くならもっと対象を広げよと忠告したりした。だが著者はコミュニティへの一番の入り口はJTであると考えていたし、彼のカリスマ的なリーダーシップや、彼が歩んでいる人生にも多大な関心を抱いていた。著者は彼のギャングがどのように幅広くコミュニティに影響を与えているか、もっと知りたくなっていた。

そんな時、大きなチャンスが訪れた。

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2009年01月16日
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