本書の要点

  • 常に消費者目線で「変化対応」し続けることが、鈴木の揺るぎない経営哲学だ。「対応」を徹底するために、従業員とのダイレクト・コミュニケーションには経費を惜しまなかった。

  • 「販売力」、「商品開発力」が成長の源泉である。そこでしか買えない上質な商品を作ることが、圧倒的な販売力をつくるというのが鈴木の考えだった。

  • 緊張関係が組織としての緩みを律する。鈴木と伊藤、セブンイレブンとイトーヨーカ堂、本社とオーナー。セブンイレブンの強みは、絶妙なバランスにもとづいた企業体のあり方にあった。

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鈴木敏文、半生を振り返る

「辞めさせられたわけではない」

microgen/iStock/Thinkstock

2016年、鈴木敏文氏がセブン&アイ・ホールディングス(HD)のトップを辞した。創業家との確執がそのその理由にあるとされる。当時、セブンイレブン社長だった井阪隆一(現セブン&アイHD社長)を退任させようとする鈴木の人事案を、イトーヨーカ堂創業者の伊藤雅俊は承認しなかった。この人事の混乱に乗じて、創業家は実権の取り戻しに動いた。

鈴木は「不仲なんてことは全然ない」と否定した。だが、創業家との関係が変化しはじめたことを、鈴木も人事案を巡る混乱で感じたようだ。退任を表明した記者会見では、創業家について「世代が変わった」と述べるにとどめ、詳細は語らなかった。ただ、側近らによれば、高齢の伊藤に変わり、子どもの世代が資産管理などで実権を握るようになったと鈴木氏はこぼしていたという。もし創業家の介入がなければ、鈴木氏の退任はなかったかもしれない。

しかし、「いいきっかけでした。悔いが残るということはないんだよね。自分で辞めると言ったのであって、辞めさせられたわけじゃないのだから」と語る鈴木氏は退任後、それまで明かすことのなかった胸の内を語り出すようになった。

「中内さんの下だったら、1年で辞めた」

鈴木がセブン&アイの前身であるイトーヨーカ堂に入社したのは1963年。奇しくもダイエーの中内㓛、セゾンの堤清二といった流通業界の偉人たちが、頭角を現しはじめたのと同時期だ。当時は「小売業へ入ろうという気持ちはさらさらなかった」という。

望んでいた仕事ではなかったが、事業家を志していた鈴木にとって、イトーヨーカ堂は格好の自己実現の場となった。仮に中内や堤の下で働いていたら、彼らの強烈なリーダーシップに肌が合わず、1年ももたずに辞めていたかもしれないと鈴木は語る。

「保守」の伊藤と「革新」の鈴木。2人の絶妙な関係性が、バブル崩壊などの変化を生き抜く強さをもたらした。これは1人の絶対権力者が君臨したダイエーやセゾンにはなかった力だ。

一方で、両者には共通する価値観もあった。「金銭感覚」と「真面目さ」である。この商道徳が、セブン-イレブン・ジャパン(SEJ)を誕生させ、強靱な事業構造を生み出す基礎となっていく。

ハリケーン・スズキがやってきた

JackF/iStock/Thinkstock

「アメリカで倒産した大きな会社を再建した日本企業の事例は、セブンイレブンだけ」。1987年、米サウスランドの運営する「セブン-イレブン・インク(SEI)」が、経営難に陥り非上場化した。これを見た鈴木は、一部営業権の取得、株式買収、そして完全子会社化を敢行。SEI幹部は、アメリカに来るたびに厳しく指摘する鈴木を、「ハリケーン・スズキ」と呼んでいたという。

鈴木が徹底したのは、日本で培った「持たざる経営」だ。ベンダーのルートセールス任せでなく、日本と同じように各店舗が自ら発注する体制へ変え、自社で持っていた巨大な物流センターもすべて売却させた。その結果、SEIは企業価値1兆円を超す大復活を遂げた。

米国におけるこの「本家」の再建によって、鈴木の経営哲学は世界でも通用することが証明された。これは彼の実績の中でも白眉といえる。

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鈴木と伊藤、最強の2人

伊藤雅俊の実像「夢追う大商売人」

自分と関わりのある人間には、とことんまで思いやる――伊藤は生真面目や篤実という言葉では表しきれない、強烈な「潔癖さ」を持つ根っからの商人だ。「気持ち悪い」という独特の口癖に象徴される姿勢は、社内外で接するすべての人に適用される。

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要約公開日 2017.08.11
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