伝達の整理学

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出版社
定価
704円(税込)
出版日
2019年01月10日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

東大生や京大生に読まれる本の1位、2位を争うロングセラー、『思考の整理学』で知られる著者の文庫書き下ろしが登場した。『思考の整理学』では、思考の本質について取り上げられていた。一方、本書では、その思考を「伝える」という点にスポットライトをあてている。

日本人は思考の伝達が苦手である。知識を自分の頭に詰め込むことばかりに熱心で、自分の考えをどう深め、どう伝えるかにあまり思いを馳せていない。AIが人間を脅かすと言われるいま、情報発信力を高めるために大事なことは何なのか。それは「ことばの伝達とその整理学」であるというのが著者の主張だ。

「大きなコトバと小さなコトバ」「音声知能」「ことばの近景、中景、遠景」「第4人称と第5人称」。伝達にまつわる様々なキーワードをめぐるエッセイ集は、読んでいて心地よく、知的好奇心がくすぐられる。本書は、読み書き偏重のことばの教育に疑問を投げかけ、聞き、話すことの効用を述べている。読者は「耳の知性」がいかに大事かを痛感することになるだろう。

「知の伝達」という営みへの洞察を深めるうえで、まさに礎となる一冊である。易しい言葉を使って書かれているが、思考を磨き上げられる実感がもて、何度も読み直さずにいられない。著者の本を読んだことのない人も、この機会にぜひ本書を手にとってみてはいかがだろうか。

著者

外山 滋比古(とやま しげひこ)
1923年生まれ。東京文理科大学英文学科卒業。『英語青年』編集長を経て、東京教育大学、お茶の水女子大学で教鞭を執る。お茶の水大学名誉教授。専攻の英文学に始まり、レトリック、思考法、エディターシップ論、日本語論などの分野で独創的な仕事を続けている。著書に『思考の整理学』『「読み」の整理学』『ライフワークの思想』『アイディアのレッスン』『空気の教育』『家庭という学校』『異本論』『知的創造のヒント』『ことわざの論理』『忘却の整理学』など。

本書の要点

  • 要点
    1
    人工知能が人間の知能を脅かし始めている時、ことばの伝達は最も新しい知的テーマである。
  • 要点
    2
    おしゃべりは、あたたかい知的な面白さを生むことができ、人工知能とは違った興味を創出することができる。
  • 要点
    3
    敬語は、コトバの伝達効率を高める優良なレトリックである。
  • 要点
    4
    「むかし、むかし、あるところに……」というおとぎ話の枕ことばは、第4人称(あるところ)、第5人称(むかし、むかし)を端的に表している。

要約

【必読ポイント!】 伝達という新しい文化

大きなコトバと小さなコトバ
Vasyl Dolmatov/gettyimages

日本の教育は、文字の読み書き中心であり、書くことより読むことに重きが置かれてきた。中国大陸のことばを学んだ大昔、人々に教えられたのは文字と意味である。発音は勝手な読み方で、話すことははじめから、無視されていた。大学の講義も視覚中心で、教授が講義案の原稿を書き、読み上げ、学生がそれをノートに書き写す。

ことばのはたらきに、話し、聴くという機能があることは取り上げられることもなかった。日本語を沈黙の言語としてしまったのは、日本人自身である。

文字を書き、文章を読むのはあくまでことばの一部のはたらきであり、いわば「小さなコトバ」である。しかし、ことばの第一義的なはたらきは、話し、聴くものでなくてはならない。「話し、聴き、読み、書く」をすべてカバーするのが、「大きなコトバ」である。

日本語は、小さなコトバにかけては優れた文化を築いてきたが、大きなコトバを忘れていた。小さなコトバは、文学的表現を尊重し、文章がうまいことを評価した。一方で、大きなコトバは、話すコトバのことであり「意図を伝える」という伝達の役割に注目する。そして大きなコトバを身につけるには、「耳学問」が必要となる。

人工知能に対抗する「音声知能」

教育程度が高いほど、視覚知能を重視する傾向にあるようで、聴覚型の学習は、これまで視覚型の学習よりも低い地位に置かれてきた。入学試験なども、視覚知能のテストである。しかし、人間の知覚にとっては、読むことより聞くことの方が深い意味を伝えられるのではないだろうか。

「聡明」というのは、耳の知能と目の知能を並べた漢字だ。耳の「聡」を、目の「明」より先にしているのは注目に値する。近代文化が視覚を聴覚より上位にしているとすれば、それは問題である。

これまでは目の想像力によって生きてきた人間が多かった。だが、耳の知性を加えると、新しい世界が表れる。視覚優先の頭の使い方をしていた活字人間は、耳の活用で新人類になれるかもしれない。

人工知能が人間の知能を脅かし始めている時、ことばの伝達は最も新しい知的テーマである。目は、面白いことを見つけるのが上手でないが、耳は、面白いことに敏感である。人工知能はおそるべき勢いで進化しているが、どちらかと言えば視覚的、無機的である。聴覚は、それに比べて、ずっと有機的であるように思われる。人類が人工知能と競争すれば負けるのではないか。そう多くの知識人が心配しているが、音声言語であれば、AIに負けない可能性が高い。

伝達の妙

アメリカに、「ひとつでは多すぎる」(One is too many)ということわざがあるという。大事なことはひとつではいけない。ひとつだと、それがダメだと全滅になる。いざというときにも代わりがあれば心強いという意味である。

日本人は個人中心にものを考えるが、1人で耳を鍛えることは不可能である。2人で話し合うと、悪い競争に走り、ぶつかり合い潰し合って、ゼロになることが少なくない。

ところが3人になると面白くなる。3人集まってやっと「文殊の知恵」を生み出せる。3人でしゃべり合っていると、思わぬ新しいことを掘り出せる。これには、めいめいの専門が違う必要があるようだ。

すべてのことばは、そのまま移動しない。必ず、意味を変えて相手に受け取られる。おしゃべりは、あたたかい知的な面白さを育てられ、その点で人工知能とは別の興味をつくり出すことが可能だ。乱談から発見や新しい思考が生まれることを実証できれば、古典的英知にまけない知恵が得られる。伝達の妙、まさにここにありと言える。

伝達のテクニック

レトリックについて
Tetkoren/gettyimages

デモクラシー社会では、大きなコトバの力が大きい。当然、話し方を研究し、伝達効率を高める必要がある。ただ話がうまいのとは違う、新しいレトリックが求められる。

外交に当たる専門家は、衝突しても、火花を散らさない修辞学を考えた。外交辞令というレトリックである。国際外交に当たる人たちだけでなく、異文化、異民族との融和、親和をめざすには、新しい外交レトリックを身につけることが欠かせない。

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要約公開日 2019.04.09
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