今、コミュニケーションに関する本が売れている。鴻上はその理由を「日本人が生きてきた『世間』が中途半端に壊れてきているから」と考える。鴻上の言う「世間」とは、クラスメイトや同僚、近所の人など、現在もしくは将来の自分に関係のある人たちを指す。この反対語は「社会」で、現在も未来も何の関係もない人たちで構成された世界を指す。日本人の多くは「世間」に生き、「社会」との接点は少ない。
鴻上は、この「世間」が壊れてきていることの例として、NHKの紅白歌合戦を挙げる。1963年の視聴率は81・3%もあったが、現在は大晦日にテレビを見る人自体が減ってきている。
「同質であること」の維持が難しくなってきているにも関わらず、コミュニケーションのやり方は今までの「世間」と同じものを応用しているため、あちこちで軋みが生じている。加えて、「社会」とどう繋がっていいかわからず混乱しているため、多くの人がコミュニケーションのやり方を探しているのでは、と鴻上は推測する。
コロナの影響で国から自粛を求められた際、「演劇界を含め、自粛要請でダメージを受けた業界に休業補償をお願いしたい」という鴻上のインタビューがネットに掲載されると、「好きなことをやっているんだから、貧乏でいいだろう」という反応があったという。中野によれば、私たちの脳は、自分の身の回りのことはよく見える一方、自分の集団にいない人は、記号のようにしか認知できない。つまり、「よそ者は記号だから攻撃してもいい」と考えてしまうのだという。
だから、あえて好きなことをやるために、好きなことをやり続ける苦しさをもっとアピールすべきだと、中野は提案する。好きなことをして生きている人は楽で得だと思われがちだが、どのように生きても人生の苦しみはそれほど変わらない。また、「楽しさ」を感じる神経伝達物質ドーパミンの量は、お金持ちでも貧乏でも変わらないと中野は言う。
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