心療内科医が教える本当の休み方の表紙

心療内科医が教える本当の休み方


本書の要点

  • 人がうまく「休む」ためには、休みが必要な状態だと自覚し、休むことができる環境を確保した上で、自分の状態にとって適切な休養活動を選択する、というプロセスが必要だ。

  • 心身の健全なゆらぎを保持するには自律神経が深く関わっている。その自律神経について、交感神経優位、背側迷走神経優位、腹側迷走神経優位の3つの状態に分けるのが、ポリヴェーガル理論だ。

  • 腹側迷走神経は、環境の変化に応じて交感神経系・背側系の自然な切り替わりを保ち、健全なゆらぎのバランスをキープしてくれる。

1 / 3

疲れたけど休めない人へ

いつまでも疲れが取れない理由

「休みたくても休めない」「休みをとっても、心や身体が休まらない」「疲れが取れない」という悩みを抱え、常に心身がくたびれている人は少なくない。「多少休まなくても大丈夫だ」と思っていたのに突然体調不良に陥り、心身が追い詰められていたことに気づいた人もいる。疲労は目に見えないし、実感を伴わないこともある。だから身体が先に悲鳴をあげて、急に朝、起き上がれなくなったりするのだ。その原因は、「休むこと」がいかに高等技術であるか、理解されていないことにあるという。うまく「休む」には、「休みが必要な状態だと自覚」し、「休むことができる環境を確保」した上で、「自分の状態にとって適切な休養活動を選択する」というプロセスが必要だ。「テキトー」に休んでいては回復することはできない。

どうして「自覚」できないのか

elenaleonova/gettyimages

ストレスにさらされていると、その負荷に抵抗するために人体では、アドレナリンなどの「抗ストレスホルモン」が放出される。このホルモンは、血圧や血糖値を上げることで身体を「戦闘モード」にし、パフォーマンスを高める。その「ドーピングモード」は概ね3カ月続き、身体に蓄積するダメージをよそに、むしろ心身の調子を上げる。それに気がつかずに頑張り続け、ストレスホルモンが枯渇すると、一気に疲労感と、頭痛や腹痛、蕁麻疹、不眠といった身体症状が襲ってくる。腰痛にも、こうした「メンタル疾患」の一面がある。ストレッサーが多様であることも、ストレスに気づけない要因だ。心にダメージを与える「心理的ストレッサー」について著者は、2つ挙げている。まずは、家族との死別や結婚・離婚、失業、引っ越しなどの「ライフイベント」だ。一般的にはポジティブと思われる出来事もストレスになることに注意したい。楽な環境への変化も含め、「変化とは、すべからくストレス」なのだ。ライフイベントストレスは「連発すると危険」であることを心得よう。もうひとつは、満員電車や生活騒音、面倒な家事など、日常の些細な出来事を指す「デイリーハッスルズ」だ。個別には大した傷にならないからこそ厄介で、無意識にダメージを蓄積させる原因となる。「こういった誰もが頻繁に経験する些細なデイリーハッスルの積み重ねが、心身の健康状態にもっとも影響する」と言う研究者もいる。少しでももやもやを感じたら、それを逐一記録しておこう。特にコミュニケーションにおいては、小骨のような不快感を無視しないことが大切だ。

「休める環境」とは?

あなたは「自分が不調だ」と素直に言えるだろうか。心配や迷惑をかけたくない、評価を下げたくない、といったさまざまな心理が、「休みたい」と伝えられない要因になる。疲労によって思考力が低下し、合理的な意思決定や自己評価ができず、「ヘルプを求める」ことがリスクになってしまう。いざ休みに入っても、罪悪感で落ち着かなくなる。休む環境の確保は、「甚大な心理的コストを必要とする技術」なのだ。こうなってしまうのは、周囲に配慮し、他者との調和を重視しすぎて常に気を張っている「過剰適応」状態にあるからだ。真面目な人ほど、他者のニーズを優先し、自分のケアを後回しにしがちである。そうしているうちに、次第に感情が動かなくなり、生活に現実味がなくなって、あらゆる痛みに鈍感になる。これは、逆境への適応反応である「解離」だ。どれだけ酷い状況でも「つらい」と思わずにやりすごせてしまう「生ける屍」になる前に、「他者のニーズ」から大きく距離を取る必要がある。しかしこれがなかなか難しい。他の人と同じように役割を果たすことは、「普通」であり「安心」を与えてくれるからだ。休んでいる間も「動けない」ことに「怒り」を感じる。それも含めて休むことを困難にしている「一連の症状」なのだ、と気づかなくてはならない。

2 / 3

自律神経の3つのモード

心身を癒す「自然なゆらぎ」

Maria Korneeva/gettyimages

「本当の休みをとる」とはどのようなことか。著者は、「自らの『身体のニーズ』を把握し、それに応えることで自分自身とのつながりを取り戻し、心身が安全・安心を感じられる状態にすること」だと定義する。そこで着目するのは、「ストレスと自律神経の関係」だ。

もっと見る
この続きを見るには...
残り1939/3670文字

4,000冊以上の要約が楽しめる

要約公開日 2023.12.06
Copyright © 2025 Flier Inc. All rights reserved.

一緒に読まれている要約

お金の不安がなくなる小さな習慣
お金の不安がなくなる小さな習慣
有川真由美
瞬考
瞬考
山川隆義
新版 科学がつきとめた「運のいい人」
新版 科学がつきとめた「運のいい人」
中野信子
仕事ができる人が見えないところで必ずしていること
仕事ができる人が見えないところで必ずしていること
安達裕哉
無意識さんの力でぐっすり眠れる本
無意識さんの力でぐっすり眠れる本
大嶋信頼
人生をガラリと変える「帰宅後ルーティン」
人生をガラリと変える「帰宅後ルーティン」
リュ・ハンビン小笠原藤子 (訳)
これからの生き方図鑑
これからの生き方図鑑
樺沢紫苑
食欲人
食欲人
櫻井祐子(訳)デイヴィッド・ローベンハイマースティーヴン・J・シンプソン

同じカテゴリーの要約

ハーバードの心理学講義
ハーバードの心理学講義
ブライアン・R・リトル児島修(訳)
一流の研究者たちが教える 快眠の科学
一流の研究者たちが教える 快眠の科学
伊藤和弘三島和夫(監修)
新版 科学がつきとめた「運のいい人」
新版 科学がつきとめた「運のいい人」
中野信子
スマホ脳
スマホ脳
アンデシュ・ハンセン久山葉子(訳)
最強に面白い 睡眠
最強に面白い 睡眠
柳沢正史(監修)
なぜゲームをすると頭が良くなるのか
なぜゲームをすると頭が良くなるのか
星友啓
新版 「空腹」こそ最強のクスリ
新版 「空腹」こそ最強のクスリ
青木厚
科学的に元気になる方法集めました
科学的に元気になる方法集めました
堀田秀吾
スタンフォード式 最高の睡眠
スタンフォード式 最高の睡眠
西野精治
FACTFULNESS
FACTFULNESS
ハンス・ロスリングオーラ・ロスリングアンナ・ロスリング・ロンランド上杉周作(訳)関美和(訳)
無料