一流の研究者たちが教える 快眠の科学
一流の研究者たちが教える 快眠の科学
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一流の研究者たちが教える 快眠の科学
出版社
出版日
2025年06月16日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

最近あまり眠れていない気がしたから夜10時過ぎに床に就いてみたのに、夜中の3時に起きてしまった。寝だめしてみたけれど疲れがまったくとれない。帰りが遅くて夕飯がいつも寝る直前になり、いつも胃もたれしている。現代人にとってあるあるの悩みではなかろうか。

OECDによる2021年の調査では、加盟31カ国中、日本は最も睡眠時間が短いという結果だった。2023年の厚生労働省「国民健康・栄養調査」によると、睡眠時間の平均が6時間未満の人は男性が38.4%、女性が43.6%いて、しかもその8割は倦怠感などを訴えている。「生理学的には、もうこれ以上睡眠を削れないところまで来ている」のだ。

にもかかわらず、時間ができても持ち帰りの仕事や勉強、趣味などにあててしまい、寝ようとはしない。「寝る時間がもったいない」と考える気持ちはわかるが、それは「大間違い」だという。週末の寝だめや電車での居眠りで眠気が解消され、「なんとかやれている」と思っても、実際には睡眠負債とそれに伴う健康リスクは消えていないからだ。

本書は、数多くの睡眠専門家へのインタビューにもとづき、睡眠時間を確保しなくてはならない科学的な根拠と、快眠のためのポイントを明快に伝えてくれる。夜にやることがなくて早く寝てしまう人も、やりたいことが多すぎて夜ふかししてしまう人も、生活習慣のなかで睡眠を改善していく必要がある。ショートスリーパーは夢のまた夢、人間はとにかく、眠らなくてはならない。

著者

伊藤和弘(いとう かずひろ)
フリーライター。1967年生まれ。新潟大学法学部卒業。編集プロダクション勤務を経て、93年に独立。医療・健康、マンガ・文芸の分野を中心に「日経Gooday」「NIKKEIプラス1」「好書好日」などに執筆。著書に『男こそアンチエイジング』(日経BP)、『疲れをとるなら帰りの電車で寝るのをやめなさい』(同・共著)、『「週刊少年マガジン」はどのようにマンガの歴史を築き上げてきたのか? 1959-2009』(星海社新書)がある。

本書の要点

  • 要点
    1
    ちゃんと寝たつもりなのに感じる眠気は、ししおどしにたとえることができる。
  • 要点
    2
    不眠症の基準は主観的なものであり、「客観的な睡眠の状況と主観的な睡眠の状況が異なるケースはとても多い」という。
  • 要点
    3
    「睡眠中に成長ホルモンをしっかり分泌させること」が重要だが、そのために提唱されていることの1つに、「3・3・7睡眠法」がある。
  • 要点
    4
    枕とマットレス選びのポイントは、寝返りをスムーズに打てることだ。

要約

【必読ポイント!】 睡眠の「なぜ?」を知る

眠気の正体
Alex Milan/gettyimages

ちゃんと寝たつもりなのに感じる眠気。その実体は少しずつ明らかになっている。筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構長の柳沢正史教授は、この眠気のメカニズムについて、「日本庭園にある『ししおどし』」にたとえている。ししおどしの筒が上を向いている状態が覚醒、水の重みで倒れた状態が睡眠であり、たまっていく水が眠気というわけだ。蓄積された眠気が一定のレベルを超えると、わずか1秒の間に睡眠へと切り替わる。そこで十分に眠ることができれば、眠気が抜けて覚醒状態に戻る。

「覚醒と睡眠を切り替えるスイッチが脳の中にあること」は最近の研究でわかってきた。しかし、眠気そのものや、スイッチが切り替わるメカニズムについてはまだまだ探究中のテーマだ。

柳沢氏らは、眠気の実体に迫った論文を2018年に「ネイチャー誌」に発表している。先天的な過眠症の変異マウス「スリーピー」は、「特定のたんぱく質にリン酸基をつける『リン酸化酵素』の1つが過剰に働いている状態」であり、そのせいで眠気が解消されないと考えられる。遺伝子変異のないマウスに軽い刺激を与え、眠らせないようにしても、「特定のたんぱく質のリン酸化が進む」状態が見られた。このとき、「睡眠を取ることでたんぱく質のリン酸化が解消された」という。

起きている時間に、脳は外界からの情報をつねに受け取るが、不必要な記憶などもたまっていく。それと同時に、脳のシナプスなどで特定のたんぱく質のリン酸化が進み、眠気となってあらわれる。そうして、「いらない記憶や情報を整理するために、睡眠が促されているのではないか」と考えられている。意識を失い、外界から切り離されたオフラインモードで「メンテナンスをするのが『睡眠』」なのだ。

7時間寝ても「3時間」

「寝つくのに2時間以上かかった」というような入眠障害や、途中で目が覚めて再び眠りにつけなくなる睡眠維持障害などを抱える不眠症の問題に悩む人は少なくない。ただし、それらの基準は主観的なものだ。「客観的な睡眠の状況と主観的な睡眠の状況が異なるケースはとても多い」という。

脳波的には7時間眠っているのに、3時間しか寝ていないように感じる。この状態を「睡眠誤認」と呼ぶ。当人が眠れていないと感じるだけで、精神的な不快さだけでなく、実際に身体的な不調があらわれてしまう。

主観的に感じる不眠症と客観的な不眠は別物のはずだが、臨床現場では同様に扱われることが多い。そもそも、「『睡眠を客観的に測る』ということに対するハードルが非常に高い」からだ。

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要約公開日 2025.09.09
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