庭の話
庭の話
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庭の話
出版社
出版日
2024年12月09日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

本書は「庭の話」というタイトルだが、実際は庭の話ではない。

いや、タイトルに偽りがあると言いたいわけではない。実際、確かに庭の話をしていることに間違いはない。ジル・クレマンという庭師の仕事に触れながら、「庭」というものを「人間と事物のコミュニケーションが生まれる場所」と定義し、その概念をキーワードにしながら、「庭」的な場所がいかに必要なのか、そしてそれをどのように実装していけばいいのかを論じている。

しかし「庭」というのはあくまで比喩にすぎないこともまた事実だ。真に本書が語っているのは、情報社会論である。我々はSNSというプラットフォームによって、人間同士が相互に評価をつけあうゲームの中に閉じ込められている。それはたとえばトランプを当選させたり、イギリスをEUから離脱させるようなかたちで、実際に世界を大きく動かしている。一方、それを批判する立場は家族やコモンズといった共同体に回帰しがちであるが、結局それも人間同士の相互評価ゲームからは逃れられていない。どちらの選択肢も窮屈で不毛だとしたら、どうやったら人間を脱出させられるのか――というのが本書の問いだ。

ゆえにこれは、ただの庭の話ではない。疲弊しながらSNSに投稿し続ける我々の話であり、それによって揺るがされているこの世界の話であり、すべての人間が豊かに生きていくことができる未来の話でもある。「庭」という言葉に興味を持ったことはないかもしれなくとも、この世界に存在する巨大なプラットフォームの上に生きている以上、我々は「庭」を必要としているのだ。

ライター画像
池田明季哉

著者

宇野常寛(うの つねひろ)
批評家。1978年生まれ。批評誌〈PLANETS〉編集長。著書に『リトル・ピープルの時代』『遅いインターネット』(ともに幻冬舎)、『日本文化の論点』(筑摩書房)、『母性のディストピア』(集英社)、石破茂との対談『こんな日本をつくりたい』(太田出版)、『砂漠と異人たち』(朝日新聞出版)、『ひとりあそびの教科書』(河出書房新社)など。 立教大学社会学部兼任講師も務める。

本書の要点

  • 要点
    1
    現在、人間はSNSをはじめとしたプラットフォームにおける相互評価ゲームに没頭しており、それがさまざまな問題を引き起こしている。
  • 要点
    2
    こうした問題を解決するために共同体回帰が説かれがちであるが、それは相互評価ゲームと同じ原理に駆動されている。
  • 要点
    3
    その問題を解決するためのヒントになるのが、「庭」のアプローチである。
  • 要点
    4
    「庭」とは人工物と自然物の中間に存在し、人間と人間ではなく、人間と事物のコミュニケーションを促進する場である。

要約

プラットフォームから庭へ

アフター・トランプの世界
danielfela/gettyimages

ローカルな国家からグローバルな市場へ、という常套句は、前世紀末から世界中の経済学者や哲学者が口を揃えて述べてきたものである。一方で、その進行は想定よりずっと速く、トランプ大統領の誕生や、ブレグジットといった象徴的な現象として現れてきた。

イギリスのジャーナリストであるデイビッド・グッドハートは、世界は「Anywhere」な人々と「Somewhere」な人々に二分されていると指摘した。「Anywhere」な「どこでも」生きていける人々とは、今日のグローバルな情報産業や金融業のプレイヤー、あるいはクリエイティブ・クラスのことだ。彼らの考える「社会」とは、世界市民的な全人類が参加するグローバルな市場であり、自身の仕事を通じてその社会にコミットしている。一方、「Somewhere」な「どこかで」しか生きられない人々は、製造業を中心とした相対的に旧い産業に従事し、ローカルな国民国家の一員としての意識を持っている。グッドハートによれば、たとえばトランプの当選やブレグジットの可決は、「Somewhere」な人々の反乱であり、グローバル化や情報化といった大きな流れに対するアレルギー反応であるという。

「Somewhere」な人々は、社会にコミットする感覚を得るために、政治的なアプローチに夢中になる。しかしそれは、正確には政治に関与することでの自己実現ではなく、自分が世界に素手で触れているという手触りである。すでに存在している声に賛否を示せば、それが事実であるかどうかに関係なく、驚くほど簡単に承認を獲得できる。これはプレイヤーが相互に評価し合い承認を交換するゲームとして捉えることができる。そして「Anywhere」な人々は、こうした「Somewhere」な人々のプレイする相互評価のゲームによって収益を上げるインターネット上のプラットフォーム――FacebookやX(twitter)など――を作り上げる。そして「Anywhere」な人々もまた、資本主義のゲームの中で他のプレイヤーから評価されるべくこうしたプラットフォームを運用しているのだから、同じメカニズムを持つ相互評価のゲームをプレイしていることになる。

こうしたゲームに没頭すればするほど、プラットフォーム内でゲームの最適解に到達する人々の社会的身体は画一化し、人間から多様性を奪っていく。そこにあるのは、誰もが承認を獲得するために「敵」と見なしたものを無批判に攻撃し続けることで、効率的に承認を獲得していくディストピアなのだ。

虫と花
borchee/gettyimages

では、こうした構造からどのように脱出することができるのだろう? ここではそれを「庭」だと考えたい。

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要約公開日 2025.06.08
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