フラット登山
歩くを楽しむ、自然を味わう
フラット登山
フラット登山
出版社
かんき出版

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出版日
2025年04月21日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

今年こそ山に登ってみよう――。そう思ってから何年も経ってしまった。夏が近づくたびに「今年こそ」と決意するのだが、気がつけば乾いた風が吹いている。

登山には憧れがあるが、初心者にはなかなか一歩を踏み出しにくい。重い荷物を背負って急な山道を登れるのか、道に迷ったらどうしよう……と不安が頭をよぎり、結局今年も見送ってしまう。

そんな登山ビギナーにとって、本書は心強い一冊である。著者の佐々木俊尚氏はジャーナリストとして活躍する一方で、大学時代から登山を続ける登山愛好家としての顔ももつ。そんな著者が提案するのが「フラット登山」だ。一見矛盾するような言葉だが、その本質は「気持ち良く歩くこと」を第一にした、新しい登山スタイルである。

登山といえば、山頂からの絶景や達成感、次なる高みへの挑戦といったイメージがつきまとう。だが著者は、「もっと気軽に、歩くこと自体を楽しんでいいのではないか」と提案する。

本書では「フラット登山」の考え方をはじめ、装備や計画の立て方、初心者でも安心なコース選びまで丁寧に解説している。後半には、著者が勧める30の「フラット登山コース」が紹介されるが、その中には海岸や平地のコースも含まれる。「気持ち良く歩ければ山でなくてもいい」という柔軟さも、フラット登山の魅力でもある。

本書を読めば、歩きたい気持ちが湧いてくるはずだ。最近、疲れていると感じるなら、“ふらっと”自然の中を歩いてみるといい。自分のペースで気持ち良く歩いているうちに、心身がほぐれていくだろう。

ライター画像
矢羽野晶子

著者

佐々木俊尚(ささき としなお)
作家・ジャーナリスト。テクノロジーから政治、経済、社会、ライフスタイルにいたるまで縦横無尽に発言し、日本のインターネット論壇における最強の論客のひとり。
早稲田大学入学と同時に、登山サークルへ入り、社会人山岳会にも加入してバリエーションも含めた本格登山に目覚める。社会人になり、登山から遠ざかっていたが、仲間に誘われて再開。登山初心者を交えての山行を重ねるうち、「山頂に行かなくても楽しい。気持ち良く歩くことができればそれで十分なのでは?」とひらめき、「フラット登山」を考案。散歩でもない、ロングトレイルでもない、新しい登山の形を提唱している。
現在も月に1回程度、「とにかく気軽に、気持ち良く、楽しく歩きたい」をモットーに、仲間とともにフラット登山を楽しんでいる。

本書の要点

  • 要点
    1
    本書では、新しい登山のスタイル「フラット登山」を提唱している。フラット登山とは「ロングトレイルほど求道的ではなく、山頂を目指す登山でもなく、かといって散歩ほど短い歩行でもない。都会の散歩よりも深く濃い自然に浸り、つらくならない程度に、ただ歩く喜びを満たす旅」を指す。
  • 要点
    2
    フラット登山のコース指標は「官能的な山道」であり、「異世界に迷い込んでいる」「広大で開放感がある」「変化に富み、足に快感がある」「冒険心が満たされる」「霊性に畏怖を感じる」の5つの要素で評価する。

要約

【必読ポイント!】新しい登山のスタイル「フラット登山」

そもそも「登山」とは何か?
west/gettyimages

登山にはさまざまな「思い込み」がある。「これが登山だ」と思っていることは、本当なのだろうか。

まず、登山とは「頂上まで登ること」だろうか? たしかに頂上からの景色は素晴らしく、気持ちも良いものだ。しかし、頂上に行かずとも眺めの良い峠などはある。著者はあるときから、「頂上を目指さなくてもいい」という結論に行き着いた。

また、登山とは「スリルを味わうこと」なのだろうか? ナイフのように鋭い稜線、ゴツゴツとした岩稜の鎖場、広大な森林で道迷いの不安。こうしたスリルを求めすぎると、「命を喪(うしな)う」危険性がある。雪山登山の経験のない人がいきなり難易度の高い高山にチャレンジして、遭難してしまうのもこのケースだ。実力のともなわないスリルは、ただ危険なだけである。

さらに、登山の醍醐味は「達成感を味わうこと」なのだろうか? 頂上に到達したときには、えも言われぬ達成感がある。しかし、このような達成感を求めすぎる姿勢には、時代遅れの感が否めない。「右肩上がりで成長した先には、ハッピーエンドが待っている」という発想自体が、前時代的なのだ。現代は「いま、この瞬間の幸せを持続的に味わう」という価値観が主流である。

登山も、頂上というゴールを目指すだけでなく、「この山道を歩いている、この瞬間が気持ちいい」という感覚を求めていいはずだ。登山の楽しさの本質は、「歩く」という行為そのものの中にある。本書では、登山をそのように再定義したい。

「フラット」である3つの理由

著者は、新しい登山のスタイル「フラット登山」を提唱している。

求道的なロングトレイルや、山頂を目指す登山ではない。かといって、散歩ほど短い歩行でもない。都会の散歩よりも深く濃い自然に浸り、つらくならない程度に、ただ歩く喜びを満たす旅――それが「フラット登山」のスタイルだ。

フラット登山の「フラット」には、3つの意味がある。1つ目は、「平坦で広大な大地」だ。頂上を目指すことにこだわらず、大地をフラットに移動しながら歩く喜びを満喫する。

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要約公開日 2025.05.31
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