登山にはさまざまな「思い込み」がある。「これが登山だ」と思っていることは、本当なのだろうか。
まず、登山とは「頂上まで登ること」だろうか? たしかに頂上からの景色は素晴らしく、気持ちも良いものだ。しかし、頂上に行かずとも眺めの良い峠などはある。著者はあるときから、「頂上を目指さなくてもいい」という結論に行き着いた。
また、登山とは「スリルを味わうこと」なのだろうか? ナイフのように鋭い稜線、ゴツゴツとした岩稜の鎖場、広大な森林で道迷いの不安。こうしたスリルを求めすぎると、「命を喪(うしな)う」危険性がある。雪山登山の経験のない人がいきなり難易度の高い高山にチャレンジして、遭難してしまうのもこのケースだ。実力のともなわないスリルは、ただ危険なだけである。
さらに、登山の醍醐味は「達成感を味わうこと」なのだろうか? 頂上に到達したときには、えも言われぬ達成感がある。しかし、このような達成感を求めすぎる姿勢には、時代遅れの感が否めない。「右肩上がりで成長した先には、ハッピーエンドが待っている」という発想自体が、前時代的なのだ。現代は「いま、この瞬間の幸せを持続的に味わう」という価値観が主流である。
登山も、頂上というゴールを目指すだけでなく、「この山道を歩いている、この瞬間が気持ちいい」という感覚を求めていいはずだ。登山の楽しさの本質は、「歩く」という行為そのものの中にある。本書では、登山をそのように再定義したい。
著者は、新しい登山のスタイル「フラット登山」を提唱している。
求道的なロングトレイルや、山頂を目指す登山ではない。かといって、散歩ほど短い歩行でもない。都会の散歩よりも深く濃い自然に浸り、つらくならない程度に、ただ歩く喜びを満たす旅――それが「フラット登山」のスタイルだ。
フラット登山の「フラット」には、3つの意味がある。1つ目は、「平坦で広大な大地」だ。頂上を目指すことにこだわらず、大地をフラットに移動しながら歩く喜びを満喫する。
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