現代の日本は、深刻な人手不足に直面している。立教大学経営学部教授の中原淳氏は、DE&I(Diversity, Equity & Inclusion)の推進は「労働力確保のため、企業が取り組まざるを得ない必須の施策」だと考えている。
誰もが働きやすい環境を整えることができれば、人材の確保につながるうえ、ものの見方や考え方の多様化によって、イノベーションも生まれやすくなる。DE&Iは、まさに企業の成功を左右するキードライバーなのだ。
一方で中原氏は、DE&Iの推進には「3つの壁」があると指摘する。
1つ目は「理解度向上の壁」だ。これを乗り越えるには、トップの強いコミットメントが不可欠だ。トップ自らがDE&Iに取り組む意義を言葉で語り、「うちの会社が勝つために必要なこと」だと明確に打ち出すことが求められる。
2つ目は「行動変容の壁」だ。DE&Iを実践する人材を組織内に増やし、社員一人ひとりの行動変容を促す必要がある。
3つ目は「継続とインパクトの壁」である。DE&Iの取り組みは成果が見えるまでに時間がかかるため、現場に“シラケ”が広がりやすい。だからこそ、取り組みによる変化を数値として示し、納得感を得ることが重要だ。
本書では、こうした壁を乗り越えながら、DE&Iを推進している14社の事例を掲載する。本要約では、その中から4社の取り組みを紹介したい。
旅行業のJTBが、Diversity推進に取り組み始めたのは2007年のこと。2023年からは「違いを価値に、世界をつなぐ。」を掲げたJTB Group DEIB Statementのもと、DEIB(Diversity, Equity, Inclusion, Belonging)の推進を本格化している。
その背景には、「多様な(Diversity)人財が活躍するためには、平等性だけではなく、一人ひとりが輝ける舞台をつくる公平性(Equity)が不可欠である」という考えがある。
加えて、多様な人が活躍できる働き方や制度を整えることで、包括性(Inclusion)を高めていく必要がある。
さらに重要なのは、個々人が自分らしさを表現でき、チームの一員としての居場所(Belonging)を実感できることだ。JTBでは、こうした状態がエンゲージメントを高め、結果的により高いパフォーマンスにつながると考えている。
JTBでは、DEIにB(Belonging)を加えた「DEIB」を推進している。Belongingは「帰属性」を意味するが、同社では「心理的安全性」と表現されている。社員が安心して新しい挑戦をするには、自由に意見を言い合える環境が欠かせないと考えるからだ。
DEIB推進において、最も“JTBらしさ”が表れているのが「Smile活動」である。これは「働きやすい組織は自分たちでつくる」という考えに基づいた、組織風土改革の一環だ。
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