言いたいことが相手になかなか伝わらないとき、私たちは言葉を尽くして説明しようとする。言語化はたしかに大切だ。しかし、それだけでは十分ではない。言葉を使う前に意識すべきなのが、「視点」だ。同じものを見ていても、注目するポイントによって、とらえ方はまったく異なる。そのことに気づき、それを尊重し、そこからその違いを埋める努力をすること。それが、「コミュニケーション能力が高い」ということである。
たとえば、意見が対立したとき、互いの意見を主張し合ってケンカのようになることがある。しかし、そんなときに「お互いの視点を相手に伝える」だけで、解決するという研究がある。コミュニケーションのゴールは、「相手に伝わること」、そして「互いをできるだけ理解すること」だ。それを達成するには、自分が言いたいことを言うのではなく、「相手の視点の理解」が必要だ。
相手と世界の見え方が違っていることを、「認知のズレ」と呼ぶ。これを引き起こす大きな原因が「脳のバイアス」だ。バイアスとは、先入観や偏見、思い込みなどから生まれる思考のくせを指す。100人いれば、100通りの脳のバイアスがある。だから、わかりあうことは難しいのだ。
「わかりあえない」という前提に立つことで、人にやさしい視点や多様なものを認める思考が身につく。
心理学では、人は頭の中で自分が感じやすい五感のイメージで見ているものを再現していることがわかっている。著者はこうした研究をベースに、2000名以上を調べて、「脳タイプ」を3つに分類した。それは、視覚を優先する「視覚タイプ」、聴覚を優先する「聴覚タイプ」、触覚、味嗅覚など体の感覚を優先する「体感覚タイプ」だ。
脳タイプによって、同じものを見てもインプットする内容やその後の記憶のされかたがまったく異なる。たとえば、著者はある夫婦から部屋の片付けについてケンカが絶えないという相談を受けたことがある。部屋が散らかっているのに夫は片付けようとせず、妻はそれに苛立っていたそうだ。この原因は、脳のタイプにある。妻は視覚タイプだったので、ものが散らかっている状態を見て「汚い」と感じていた。ところが夫は体感覚タイプだったので、見ただけでは「汚い」とは思っていなかったのだ。
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