

「線」という言葉は、単なる直線や図形の意味にとどまらず、「物事を律する基準」や「行動の方針」といった含みをもつ。したがって「職場に線を引く」とは、「この順序、この手順で作業を行う」「この目標の実現を指針とする」と定めることであり、自らの進む方向や取り組み方が正常か、それとも異常かを判断する基盤をつくる行為にほかならない。
「正常」「異常」を区別するには、「3つの条件」を満たした線を引くことが欠かせない。第一に、「ここまでは良し、ここからは不可」という境界を示す基準を定めることだ。基準を可視化すれば、到達していれば合格、届かなければ不合格と判定できる。
第二に、「このやり方を守る」という標準的手順を設定することである。作業の道具や手順をあらかじめ定め、全員が従う線を引いておけば、もし違反があれば「異常」と見なせる。トヨタでは、この共通ルールを「標準」と呼ぶ。
第三に、「この方向を目指す」という方針を定めることだ。方針は、正常と異常を見極める道標であり、組織が目的を実現するための基本的なガイドラインである。定めた方針に沿って行動し成果を挙げれば正常、逆に方針を無視した場合は異常とみなされる。
このように、線は単なる境界ではなく、組織に秩序を与え、改善の起点を生み出す要となる。

トヨタにおける改善の第一歩は、組織が抱える問題点を洗い出すことから始まる。しかし、選定が間違っていれば成果は生まれず、改善に投入した時間や人員は無駄になってしまう。
そこで拠りどころとなるのが「線」である。問題解決とは、理想とする「あるべき姿」と、現実に存在する「現状」とのあいだに横たわる差を見つけ、その隔たりを埋める営みだ。あらかじめあるべき姿を定め、それを実現する線を引けば、これまで見過ごされてきた事象も問題として立ち現れる。

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