超一極集中社会アメリカの暴走

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超一極集中社会アメリカの暴走
出版社
出版日
2017年03月25日
評点
総合
4.0
明瞭性
3.5
革新性
4.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

大国アメリカに到来した超一極集中社会とはどのようなものなのか。トップアナリストとして一線をひた走り、アメリカの動向をつぶさに観察してきた著者が描き出す現状はこうだ。エリート校に入るべく、高騰する教育費を借金で賄う学生たち、アメリカの製造業の「一人勝ち」と現場から消える人間、個人のデータが次々と丸裸にされ世界中で売り買いされる現状。挙句には、0.1%の超富裕層が世のすべての富を奪っていく――。あらゆる分野を横断して見えてくるアメリカの凄まじい現実は、決して対岸の火事などではなく、日本のたどる未来を先取りしている。

超一極集中社会を生み出す要因は、一見喜ばしい「技術革新」にあるという著者の見解は実に斬新である。それを裏付けるエビデンスの数々にうならされること必至だ。個人はどのように人生設計をすればいいのか。企業や国家はどんな戦略を立て、技術革新に対するインセンティブと社会の安定のバランスを図っていくべきなのか。こうした問いに真っ向から向き合うために、今理解しておくべきアメリカ、否、世界の現実が克明に描き出されたのが本書だ。人間と社会を透徹した眼で見つめ続けてきた著者ならではの視点を通して、いくつものピースが合わさり、私たちの生きる社会という一枚の絵ができあがっていく様は見事としかいいようがない。

未来を見通すには、現状を正しく、多面的に理解することが欠かせない。本書はその際の信頼できるアンカー(錨)をおろしてくれるだろう。行きつく先にあるのは絶望か、それとも希望か。まずはパンドラの箱を開けていただきたい。

ライター画像
松尾美里

著者

小林 由美(こばやし ゆみ)
東京都生まれ。1975年東京大学経済学部卒。日本長期信用銀行に女性初のエコノミストとして入社。長銀を退職後、スタンフォード大学でMBA取得。1982年ウォール街で日本人初の証券アナリストとしてペインウェバー・ミッチェルハッチンスに入社。1985年経営コンサルティング会社JSAに参加後、ベンチャーキャピタル投資やM&A、不動産開発などの業務を行い、2017年3月現在にいたる。(株)ジャングル、(株)トライピボットの社外取締役兼任。 著書に『超・格差社会アメリカの真実」(日経BP社)がある。

本書の要点

  • 要点
    1
    アメリカでは富や権力が急激なスピードで一極に集中し、「0.1%対残り」という構図を生み出している。また、悪影響への対処も追いついていない。
  • 要点
    2
    アメリカの製造業復活の背景には、シリコンバレーを中心とした技術革新と、産業構造の抜本的変化がある。
  • 要点
    3
    データ収集企業は莫大な収益を得ており、巨大な「現金吸い込み装置」と化している。消費者側も無料のコミュニケーション手段を利用することで、個人情報に関する所有権を永久に放棄し、一部企業の高収益に貢献していることに無自覚である。

要約

「上位0.1%」対「99.9%」の現実

超富裕層がすべての富を収奪する

世界の大きな動きは、富や権力、影響力の極端な集中に向かっている。世界のビリオネアを毎年公表しているフォーブス誌によると、わずか1810人のビリオネアの純資産が、世界の全人口74億人の総所得の8.9%に相当するという。これほどまでに世界の富が一握りの人間に集中すると、残る人々の生活や人権が脅かされるのは歴史がすでに証明している。こうした変化をいち早く経験し、大きな光と影を生んでいるのがアメリカだ。

現在、アメリカでは新興企業が急成長を遂げ、科学技術の進歩と相まって、次々にイノベーションを生み出している。その一方で、工場閉鎖により失業に追い込まれる人が後を絶たず、貧困と暴力の連鎖が続き、銃の乱射事件や麻薬中毒者の増加が後を絶たない。

これらの変化があまりに急激であるために、悪影響を軽減する動きは全くといっていいほど追いついていないのも事実だ。現に、1980年代以降、上位0.1%の所得は増加の一途をたどるものの、それ以下の世帯では所得はほとんど増えていない。また、純資産のシェアを増やしているのも上位1%だけであり、中でも上位0.1%は急激な増え方を示している。こうして行きつく先は、「0.1%対残り」の構図である。

高騰する「勝ち組」へのパスポート
Png-Studio/iStock/Thinkstock

急速に技術革新が進む今、教育の重要性は誰もが認識している。現況を正しく判断し、将来を見越した対応を考え、実行できるエリートを育てることは急務だといえよう。しかし、その登竜門である、アメリカのエリート大学は、一段と狭き門となっている。

スタンフォードやハーバードのような一流校に進学するためには、高校生になるまでに学業やスポーツ、課外活動などでの優れた実績と人脈を築くことが極めて重要となる。ただし、こうした条件を有利にそろえるために、私立の幼稚園に通わせると、授業料は年間300万円にも及ぶ。おまけに私立大学で4年間を過ごすには、3000万円がかかるという。

就職までのコストが膨大になる一方で、就職後の所得はさほど増えていない。となると、中間層が教育費の捻出で生活を圧迫されているのは火を見るよりも明らかだ。現にアメリカの大学進学者のうち、60%以上が学生ローンを借りている。しかも、政府保証付きの学生ローンを利用した場合は、自己破産しても返済義務を一生背負うことになる。返済が難しい人へのローンでも、政府の保証があれば、証券化して市場で売買できる仕組みになっているのだ。

このように、借金の総額を押し上げている最大の原因が教育費であり、社会人初期の段階で多くの人が多額の借金を負っているのが、アメリカの現実なのである。

実は復活しているアメリカの製造業

アメリカ「一人勝ち」のエンジンは何か
zimmytws/iStock/Thinkstock

2008年の金融危機から回復を遂げ、企業収益を大きく増やしているアメリカ。その背景には製造業の復活があった。アメリカ「一人勝ち」のエンジンは、技術革新のメッカ、シリコンバレーである。もともと半導体産業のメッカだったシリコンバレーには、新エネルギー開発やクラウド、ビッグデータ、IoT、そしてAI、ロボットなどの多様な産業分野が集中している。

また、シリコンバレーには、自動運転車の製造に必要な技術や走行環境、潜在ユーザーといったエコシステムがそろっている。このことから、自動運転の時代に向けて、この地が次世代の自動車産業の中心地となる可能性が高いとされている。一般道路を自動運転で走行する実験距離でいうと、現状では企業の中でグーグルが圧倒的トップに位置する。また、フォードはウーバーやグーグルと協調し、2021年までに無人運転車を発売すると発表している。

自動運転用のインフラを整備するには、かなりの財政資金や政治力がいるうえに、法的問題の解消、ハッキング対策といった課題も山積みである。しかし、グーグルや自動車メーカーは、政治家をうまく味方につけて、自動運転の段階的実用化を加速させていくだろう。

さらに、製造業復活を支えた動きの一つとして、石油製品の製造の増加を忘れてはいけない。

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要約公開日 2017.05.14
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