現代アートビジネス

未読
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現代アートビジネス
出版社
アスキー・メディアワークス
定価
0円(税込)
出版日
2008年04月10日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

アートの値段はどう決まる? アートに投資するのは難しい? 村上隆や奈良美智の名前は聞いたことがあるけど、そもそも現代アートってどう見たらいいの? ギャラリーって一体どんなところ?――このように現代アートの世界をとっつきにくく感じている方は多いのではないだろうか。

著者である小山登美夫氏は、みずから企画展示を行い、アーティストの作品を買い手に提供するギャラリストだ。村上、奈良両氏の人気の陰の立役者としてもその名を知られており、長年にわたって現代アート業界の発展、マーケットの拡大に真摯に尽くしてきた。

本書では自身の体験を織り交ぜながら、ギャラリストの仕事や、アーティストはどのように育っていくのか、アートマーケットの仕組みなど、現代アート業界をビジネスの観点から解説する。本書を読めば、現代アートに親近感を覚え、教養を深めることができるだろう。さらにはアートを買いたくなったり、ビジネス面からアプローチしてみたいと思うかもしれない。

またそれ以上に、小山氏の「誰も見たことのないものに価値を見出し、売る」という、ある種のプロデューサーとしての在り方や、信念をもって海外市場を開拓する様子は、アート以外の業界に勤める方にも、仕事上の大きなヒントを与えてくれると思われる。

現代アートという特殊な世界を掘り下げつつ、幅広い読者の好奇心や向上心を満足させる一冊だ。雑誌「一個人」(2008年10月号)で「カリスマ書店員が本音で選んだ最高に面白い本」新書部門第一位に輝き、その後も順調に版を重ね、今なお新鮮さは失われていない。未読の方には、心からおすすめしたい。

ライター画像
熊倉沙希子

著者

小山 登美夫
1963年東京生まれ。東京藝術大学芸術学科卒業。西村画廊、白石コンテンポラリーアート勤務を経て、1996年に小山登美夫ギャラリーを開廊。奈良美智、村上隆をはじめとする同世代のアーティストの展覧会を企画・開催し、海外へも積極的に紹介。現代日本のアートシーンを牽引する中心的ギャラリストとして内外で注目を集める。日本のアートマーケットを確立することが現在の課題。明治大学国際日本学部特任准教授。
http://www.tomiokoyamagallery.com

本書の要点

  • 要点
    1
    ギャラリストの仕事は、誰も見たことのないアート作品に価値を見出し、その価値を高めて世の中に出していくことだ。
  • 要点
    2
    美術の歴史的な流れ、現代社会の動向と、現代アートの価値はつながっている。
  • 要点
    3
    健全な現代アートマーケットは、作品が好きで、楽しみのために買うコレクターに支えられている。需要が増え、より公的なコレクターに買い求められるようになることで、作品価値が上がっていく。
  • 要点
    4
    作品の価値と価格が上がっていくことで、アーティストも、ギャラリストも、買い手も、利益を得ることができる。

要約

誰も見たことのないものに価値を見出す

ギャラリストの仕事
moodboard/moodboard/Thinkstock

小山氏は高校生のとき、ジャスパー・ジョーンズの絵に胸を射抜かれた。わけがわからなかったからだ。現代美術を「わからない」から面白くないという人がいるが、でも「わからないから面白い」と考えることもできる。ただで作品が見られる画廊(ギャラリー)巡りをはじめた小山少年は、東京藝大卒業後、現代アートを取り扱う画廊で働くことになる。

新しいアートが世の中に受け入れられていく過程とは、今までまったく存在したことがないものに、どうやって価値を見出していくかということではないか、と小山氏は語る。

ギャラリストは、第二次世界大戦後、ニューヨークを中心とした現代アートの環境から生まれた。ギャラリーで働くギャラリストは、広義でいえば画商(アートディーラー)の一形態だが、展示空間を持ち、みずから企画展示をすることが画商と違う点だ。

また、ギャラリストは、みずから見出したアートをギャラリーで発表し、社会に価値を問い、その価値を高めていく仕掛け人ともいえる。画商がブローカーや営業マンに近く、顧客であるコレクター寄りに活動しているとすれば、ギャラリストはマネージメント業者やプロデューサーに近く、アーティスト寄りに活動しているのだ。

日米アートマーケット事情

やがて独立した小山氏は、みずからのギャラリーを開廊する。すでに出会っていた村上隆、奈良美智らのような同世代のアーティストを赤字覚悟で売り出すためだ。

しかし、若手アーティストの作品はさっぱり売れず、経営は逼迫。日本のマーケットに頭打ち感を感じ、小山氏はアメリカに活路を求めることにした。

開廊前、小山氏はアメリカのアートギャラリーを視察していた。圧倒的なギャラリーの数の多さと多様さは、それを支える顧客の層が厚いことを物語っていた。「これが売れるのか?」と疑問に思う絵も次々と売れていた。作品が「よい/悪い」「好き/嫌い」ということと、「売れる/売れない」は全く別の話で、どんな作品でも交換が成り立てばマーケットができるということを、目の当たりにしたのである。

小山氏は作品をトランクにつめ、単身アメリカに渡った。英語が話せないので日本人留学生に声をかけて通訳を頼んだ。するとそこでは思いがけないことが起こる。ほとんどの客には見慣れないはずの、奈良美智や村上隆の作品が次々と売れていったのだ。ふつうの人たちが、極東のアーティストの作品をどんどん買っていく。

その頃日本のギャラリストたちは、現代アートの本場である欧米に引け目を感じていたせいで、なかなか海外へ売り出しに行かなかったのかもしれない。だが小山氏は、「アートの世界は自由だ。日本のアートだって引けをとらない」「海外で新しいマーケットをつくっていく」という気概で挑んだ。

アーティストが仕事の要
Jupiterimages/Digital Vision/Thinkstock

ギャラリーの要となる仕事は、自分のギャラリーが取り扱うアーティストを決めることだ。自分なりの美の基準に合ったアーティストを発掘し、育てていくというタイプのギャラリストもいるが、小山氏の場合は、そのアーティストが「社会」や「時代」と真剣に切り結んでいるかどうかを基準にしている。

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