今日の芸術の表紙

今日の芸術

時代を創造するものは誰か 新装版


本書の要点

  • 芸術とは我々の生活にはなくてはならないものである。それは美しいものではあるが、ここちよくもきれいでもない。

  • 描くだけではなく、鑑賞も創造する行為である。時代が移り変わると、芸術への価値観も変わってきた。うまいことが芸術の絶対条件ではない。むしろ我々は下手に創造すべきだ。

  • 新たなものを生み出すのが芸術の至上命題である。古い型を保持しようとする芸とは根本的に異なる。古い型を否定し、新しいものを創造するのが芸術だ。

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なぜ、芸術があるのか

生きるよろこび

芸術と聞くと、非常にとらえどころのない印象を受ける。なぜこんなものがこの世に存在し、ときに高く評価され、取引されるのだろう。芸術に全生命をつぎこんで悔いのない人もいるが、べつだん芸術がなくても楽しく生活していける。だから、芸術はきどった教養で、ぜいたくだと思われている面もある。芸術とは何か。それは素朴な疑問ではあるが、本質をついた問題でもある。芸術とは毎日の食べものと同じように、人間の生命にとってはなくてはならない、絶対的な必要物だ。そうでないように扱われていることは、現代的な錯誤のせいであり、そこから今日の生活の虚しさ、芸術の空虚さが来ている。すべての人は、瞬間瞬間の生きがいを持たなければならない。そのよろこびが芸術であり、それを表現したものが芸術作品なのだ。

自己回復の情熱

Hulinska_Yevheniia/gettyimages

芸術はけっきょく生活そのものの問題だ。生活というと、普通の人は食いぶちを稼ぎ、余暇には適当な娯楽に興じ、また翌日には食うために働くことだと思っている。ほとんどの人は仕事で何かを作っているが、そこに創るよろこびはあるだろうか。社会の発達とともに、人間は部品化され、歯車のように目的を失いながらグルグルまわりつづけるようになった。そうして人間本来の生活から自分が遠ざけられ、自覚さえ失っている。これが自己疎外である。遊ぶための手段や施設はふえたが、遊ぶ人の気分は空しくなっている。どんなに遊んで楽しんでいるようでも、自分の生命からあふれ出てくるような本然のよろこびがなければ、満足できないものだ。好きな娯楽を堪能し、いい家に住み、生活を楽にする。そうした外からの条件ばかりが自分を豊かにするのではない。だれでも本性では芸術家であり天才なのだ。だが、こびりついた垢に本来のおのれ自身の姿を見失っている。芸術は、日々の生活のなかで失われた自分を奪回しようとする情熱の噴出だ。そこに今日の芸術の役割がある。

芸術とは、うまくも、きれいでも、ここちよくもない

著者は宣言する。「今日の芸術は、うまくあってはいけない。きれいであってはならない。ここちよくあってはならない。」

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要約公開日 2023.01.18
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