運転者の表紙

運転者

未来を変える過去からの使者


本書の要点

  • 上機嫌でいると、運を劇的に変える瞬間を捉えられる。損得ではなく、未知のものに「面白そう」と興味を持つと、幸せの種を見つけられる。

  • 人生のターニングポイントはちょっとした変化しか感じられない。種が育ち、収穫できるまでには時間がかかる。

  • 運はポイントカード。貯めないと使えない。誰かの幸せのために時間を使い、してあげたこととしてもらったことの差が運として貯まる。

  • 努力が報われないことは絶対ない。人生は延々と続く命の物語の一部であり、次の世代がいい時代を生きられるよう運を貯めることが自分たちの役割だ。

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運がいい人生なんて無縁

余裕のない営業職

Cuckoo/gettyimages

妻子を持つ中年の岡田修一は、生命保険の営業職として働いている。「フルコミッション」、すなわち「完全歩合制」の会社で、新規契約を取り付ければ、保険料の一定割合が向こう1年間の給料となる。

しかし1年たつと、その割合はガクンと減る。そうなる前に新しい契約を獲得しなければ心もとない。毎月恐怖感に押しつぶされそうになる。

「岡田!」事務所に出社したばかりの修一を社長の脇屋が呼ぶ。「解約になったぞ」。修一は絶句した。10カ月前に運良く契約に漕ぎ着けた学習塾の教室長ら20名分の保険が一斉に解除となった。

来月の給与からその分の保険料が引かれ、これまでの保険料も保険会社に戻さなければならない。「こいつもそろそろいなくなるな」という空気感が事務所に漂った。

「修一、都会で頑張れ。こんなところに帰ってきちゃダメだぞ」。修一が就職すると同時に客足を失い、店じまいをした実家の文具店。父は修一が小学生に上がる頃、「岡田文具店」から「ファンシーショップ Okada」と名を変え、品ぞろえも変えた。店は中高生であふれ、活気に満ちていた。「将来は好きなことをやったらいい。ここなら何をやっても儲かるぞ」と頭をなでてくる父親を誇らしく、またありがたく思っていた。

こんなところに帰ってくるな――。父の悲しそうな顔を修一は忘れることはできない。

そんな父も半年前に他界、田舎で母は一人暮らし。実家のことを考えなければならない。しかし、自分の人生をなんとかするだけで精一杯だ。

「……なんで俺ばっかりこんな目に遭うんだよ」

運を転ずる運転手

ケータイがさっきから何度も震えている。妻の優子からだった。「ねえ、わかってる? 今日、夢果のことで学校で話があるって」。娘の夢果は不登校になっていた。

タクシーなら20分遅れで着きそうだ。修一はタクシーの後部座席に乗り込んだ。高校生のように若い運転手はニコッと微笑むと、修一が告げてもいないのに「娘さんの学校に急いだ方がいいんじゃないですか?」と言った。

運転手は御任瀬卓志。「おまかせタクシー」が本名なんて、悪い冗談だ。「この仕事を長い間やっていますと、乗った人がどこに行くべきかくらいはわかるようになりますよ」

メーターが目に入った。69,820。「おい! おまえ詐欺かなんかだな」と声を荒らげた瞬間、69,730に下がった。「どうなってんだ、この車は。説明しろ」

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要約公開日 2023.04.02
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