デジタルエコノミーはいかにして道を誤るか
労働力余剰と人類の富

未 読
デジタルエコノミーはいかにして道を誤るか
ジャンル
著者
ライアン・エイヴェント 月谷真紀(訳)
出版社
東洋経済新報社 出版社ページへ
定価
1,800円 (税抜)
出版日
2017年11月02日
評点
総合
4.0
明瞭性
3.5
革新性
4.5
応用性
4.0
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労働力余剰と人類の富
著者
ライアン・エイヴェント 月谷真紀(訳)
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定価
1,800円 (税抜)
出版日
2017年11月02日
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総合
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明瞭性
3.5
革新性
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レビュー

昨今、大きな注目を集めている「分断」と「デジタル革命」という2つのキーワード。アメリカやイギリスはグローバル化に逆行する政策を進めている。それぞれ国内では、経済的階層や政治的思想が異なるグループ同士が「分断」され、憎悪をむき出しにしている。一方、「デジタル革命」も明るい話題ばかりではない。自動運転の実用化で運転手が職を失うように、「AI失業」が現実的な懸念となっている。日本でも、メガバンクがAIの活用などによって大幅な人員削減を行うと発表した。

本書によると、この2大キーワードに代表される現象が、テクノロジーの進歩にともなう政治体制や社会制度の弱体化のあらわれだという。ではなぜ、このような弱体化が生じたのか。カギとなるのは、「ソーシャル・キャピタル」という概念だ。ここでのソーシャル・キャピタルとは、新たな技術やアイデア、人材をマネジメントし、利益に変える知識・ノウハウを指す。現代の企業や都市、国家の発展において重要なのは、資本や技術力の差ではなく、ソーシャル・キャピタルだ。ビル・ゲイツは米国の西海岸に生まれたことで、その才能をいかんなく発揮し、努力の末、莫大な富を得られた。ソーシャル・キャピタルのおかげで得られた利益が、一部の経営者や資本家に占有されている――。これこそが問題の根源だというのが著者の主張だ。

今後、大きな政治的・社会的な衝突が生じるのは避けられないだろう。前に進む道はただ1つ、可能なかぎりこぼれ落ちる人を出さない、富の恩恵を広く行き渡らせる合意を打ち立てることだ。今後の働き方、政治・経済の動きを見通すうえで、本書を読まない手はない。

ヨコヤマノボル

著者

ライアン・エイヴェント (Ryan Avent)
2007年より『エコノミスト』で世界経済を担当。現在は同誌のシニア・エディター兼経済コラムニスト。『ニューヨーク・タイムズ』、『ワシントン・ポスト』、『ニュー・リパブリック』、『アトランティック』、『ガーディアン』にも寄稿している。2011年にKindle Singleで著書The Gated City(未邦訳)を刊行した。ヴァージニア州アーリントンで妻と2人の子どもとゴールデンレトリバーとともに暮らしている。

本書の要点

  • 要点
    1
    自動化、グローバル化、高スキル労働者の生産性向上という3つの要因が重なり、労働力の余剰と賃金低下という現象が生じている。
  • 要点
    2
    個人の努力によって生み出された富は100%、その努力を発揮できた社会の「ソーシャル・キャピタル」のおかげである。
  • 要点
    3
    デジタル革命の恩恵が平和な形で広く分かち合われる世界になるまでには、大きな混乱や闘争が発生するだろう。

要約

デジタル革命と労働力の余剰

豊かな時代に下がる賃金

「どこもかしこもコンピュータ時代だ。だが生産性の統計数値にだけはコンピュータ時代が訪れていない」。これは、ノーベル賞経済学者、ロバート・ソローが1987年の論文に記した言葉だ。コンピュータはこの50年間、社会を根本から変える革命マシンと見なされてきたが、期待ほどの変革は生じていなかった。

しかし、いま、「デジタル革命」は、社会全体に大きな恩恵と破壊をもたらそうとしている。自動化、グローバル化、高スキル労働者の生産性向上。こうした3つの要因が重なり、労働力の余剰と賃金低下という現象が生じている。自動車産業は、もはや工業ではなくソフトウェアビジネスだ。製造ロボットが革新的な進化を遂げた結果、労働集約性は下がり続けており、大量雇用の場ではなくなった。

価値の比重は、労働者からロボットの制御コード、または、それを書く高スキルなエンジニアに移っている。現在起きているのは、低スキルの仕事の奪い合いである。大卒労働者が学歴に見合わない仕事に就き、低学歴の人々は、さらに給料の安い仕事を奪い合う状況に追いやられているのだ。

雇用のトリレンマ
Tero Vesalainen/iStock/Thinkstock

雇用の機会は、仕事を自動化するテクノロジーと労働力の余剰によって大きく制約を受ける。将来は、高い生産性と高い給料、自動化に対する抵抗力、大量の労働者を雇用する可能性、という3つのうち、多くても2つしか満たせない、トリレンマ状態になる可能性が高い。

もちろん、Uberの運転手やWebを通じた単発の業務受託のように、テクノロジーが創出する雇用もあるだろう。しかし、破壊される雇用のほうが多いだろう。デジタル革命による労働力の余剰とはすなわち、労働力の希少性を激減させる現象である。同時に、労働者から、経済的報酬の分配を要求する交渉力や政治力を奪うという現象でもある。

賃金があまりに低い世界では、失業状態を選ぶ人が増える。働いて社会保障費を負担する人と、社会保障で生活する人が明確に分かれ、持てる者と持たざる者との政治的対立が激しくなるかもしれない。

【必読ポイント!】 デジタルエコノミーの力学

会社を動かすのは社内文化

「会社はなんのために存在するのか」。この質問に答えるのは意外に難しい。経済学者のロナルド・コースはこの質問に、どう答えたか。市場でのやりとりだけで目的を果たそうとすると、手間がかかりすぎるようになったとき、会社が組成される。彼はこうした答えを導き、ノーベル賞を受賞した。

しかし、コースの答えは完全なものではない。報酬と引き換えであっても、従業員が経営者の意のままに動くことなどありえないからだ。実際に会社を動かすのは、社内文化、別の言い方をすれば社内の情報処理メカニズムだ。

同じ会社にある程度の期間いれば、様々なものがどう噛み合って会社を動かしているのかが理解できる。経営学では「無形資産」とも呼ばれるこの社内文化が、企業の最も重要なテクノロジーになりつつある。どの情報が重要で、その情報を使って何をするか。この理解度が、とてつもない利益を上げる企業と倒産する企業を分かつといってよい。

21世紀のソーシャル・キャピタル
RomoloTavani/iStock/Thinkstock

社内文化が会社の優劣を決めるのと同様に、会社の外にもそのような文化が存在する。著者はこれを「ソーシャル・キャピタル」と呼ぶ。

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