現在、組織における「人」の重要性が見直されており、人的資本経営が求められている。その理由には2つの「カチ」が関わっている。
1つは、企業の「勝ち」(競争力)を生み出す源泉が「無形資産」に移っていることだ。アメリカ株式市場の時価総額は90%が無形資産、つまり、見えない資産によってもたらされているというデータがある。見えない資産にはソフトウェアや知的財産なども含まれるが、これらを生み出す源泉は「人」だ。企業における最大の資産が「人」であることは、世界の共通見解となっている。
もう1つは、企業が生み出す社会的「価値」が重視されるようになっていることだ。企業はかつての株主第一主義から脱却し、顧客や従業員、地域社会を含むすべてのステークホルダーを重視することが求められている。利益だけを目的にするのではなく、持続可能な経済成長や社会貢献を目指すことがスタンダードになってきているのだ。
「人」は企業の「勝ち」を決める存在であり、企業が「価値」を提供すべき存在であるといえる。
経済産業省は「人的資本経営」を次のように定義している。「人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」。
だが、日本企業ではこれまでも「人を大切にする経営」を行ってきたはずだ。それと「人的資本経営」とは何が違うのだろうか。
それは、「人材を『資本』として捉える」点である。「資本」は「資源」のように消費されるものではなく、収益を生み出す源泉のことを指す。しかし「人材を『資本』として捉える」とは、単に「人材を使い捨てにしない」ということではない。人を「投資する量によって価値が変わる資産(可変資本)」と捉えることなのである。
人的資本経営では、通常の投資と同様に、合理的な視点で人材への投資判断をすることが求められる。一方で「理性」だけではなく、日本的経営の根底にある“人を大切にすること”、つまり「人情」も必要だ。
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