習得への情熱―チェスから武術へ―

上達するための、僕の意識的学習法
未読
日本語
習得への情熱―チェスから武術へ―
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上達するための、僕の意識的学習法
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習得への情熱―チェスから武術へ―
出版社
みすず書房

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定価
3,300円(税込)
出版日
2015年08月17日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

本書ではチェス、武術の双方においてトップレベルのプレーヤーとなった著者によって、最高のパフォーマンスを引き出す方法論が示されている。まったくジャンルの異なる勝負の世界を移動した著者だが、その技術の習得方法には多くの共通点があった。

その基礎となるのは、徹底した内省だ。と聞くととっつきにくそうに思われるかもしれないが、語り口は明快でわかりやすい。それは、その内省の深さが、とてもシンプルな原理として浮かび上がってきているからにほかならない。チェスと出会った少年時代独特の心の揺らぎに始まり、成長するにつれて感じる重圧や、太極拳と出会ったときの感動など、とても細かく描写されている。一方で、その時々の状態に合わせどのような学習を行ったのか、意識的なものから無意識の領域まで具体的な方法論が示されていく。その分析の詳細さは、一見すると真似のできない神業と思われるプレーがどのように出来上がっているのか、要素に分けて解説できるレベルだ。

著者も言及する通り、膨大な知識をどう扱うかや、試合中に現れるやっかいな感情への対処といった課題は、どのような分野でも遭遇するものだ。しかし、心折れることなく柔軟な姿勢で、いつでも最高のパフォーマンスを行える強さを身に着けられる可能性は、誰にでもある。ある分野に打ち込みたい、より成長したいと考える人たちにとって、本書はバイブルとなり得るだろう。そうして自分自身のパフォーマンスの向上を目指す人だけでなく、だれかを指導する立場にある人にもおすすめしたい一冊である。

ライター画像
菅谷真帆子

著者

ジョッシュ・ウェイツキン(Josh Waitzkin)
1976年ニューヨーク生まれ。少年時代はチェスプレーヤーとして数々のトーナメントで活躍、16歳でインターナショナル・マスター(IM)となり、全米ジュニアチェス選手権(21歳以下部門)2年連続優勝、世界チェス選手権(18歳以下部門)ベスト4をはじめとする優れた戦績を収める。父親のフレッド・ウェイツキンが幼少の頃のジョッシュを主人公に、チェスプレーヤーたちの人間模様を描いた著作"Searching for Bobby Fisher"(Random House, 1988)〔邦訳『ボビー・フィッシャーを探して』若島正訳、みすず書房(2014)〕は映画化もされ、大きな注目を浴びた。1998年から太極拳の一部門である推手を習いはじめ、数年のうちに全米選手権および世界選手権のタイトルを獲る実力となる。2004年にはこの競技の最高峰の闘いの場である中華杯国際太極拳選手権(台湾)で推手二部門を制覇。その後はブラジリアン柔術に力を注ぎ、2011年には世界屈指の柔術家であるマルセロ・ガッシアの下で黒帯となる。本書で語っている習得の技法については全米各地の教育機関へ講演や助言を提供しているほか、柔術と教育の両方への関心を生かして、Marcelo Garcia Academy in NYCのオンライン版MGinaction.com(ハイレベルのグラップラーたちの詳細なテクニックの動画をアーカイヴしたウェブサイトwww.mginaction.com)をガッシアとともに立ち上げた(2015年現在、継続運営中)。定評あるチェスのコンピューター・ゲームChessmasterの最新版(ver. XI、Chessmaster: Grandmaster Edition)には、チュートリアルを提供している。

本書の要点

  • 要点
    1
    「数を忘れるための数」と呼ぶ学習法では、戦い方におけるいくつもの原理が統合され、1つの流れとしてとらえる直感が養われる。
  • 要点
    2
    自分の技術をより効率的な技へ昇華させるには、エッセンスの真髄だけを保ちながら、テクニックの外形を徐々に小さく凝縮する、「より小さな円を描く」メソッドが必要となる。
  • 要点
    3
    集中が必要な状況で心が激しく動揺したとき、感情を遮断する方法では解決できない。感情を観察し利用することで、より深く集中した心理状態に自らを導くことができるようになる。

要約

チェスで得たトレーニングの基本

チェスとの出会い

成長に不可欠なのは、「数を忘れるための数」と呼ぶ学習方法である。チェスの世界では、ある程度の基礎学習期間を経ると、戦い方におけるいくつもの原理が統合され、一つの流れとしてとらえる直感が養われる。そうした知識は、最終的には意識せずとも自分の中に根付く。強豪のプレーヤーほど基本原理がしっかりと根付いており、熟達した技術の基礎となっている。チェスの世界で苦労して身につけたこのような能率的学習法は、武術にも適応させることができた。

6歳の時、ニューヨーク・シティの公園でチェスと出会った。賭けチェスで稼ぐ二人のハスラーの正確で軽快な駒の動きに魅せられ、公園のいかつい男たちに混じって快速チェス(短い持ち時間で行うスピーディーなチェス)をプレーするようになる。ある日のプレーを、チェスプレーヤーであるブルース・パンドルフィーニにみそめられ、その教えを乞うた。ブルースは決して子ども扱いすることなく、思考プロセスを自分の言葉で説明させた。そのおかげで、チェス原理の基礎を学び、チェスへの愛情を育むことができた。

実体理論と増大理論
fizkes/gettyimages

発達心理学の研究をリードするキャロル・ドゥエック博士は、人々の知能に対する解釈の違いを「実体理論」と「増大理論」とに区別する。実体理論者の子どもたちは、成功や失敗の理由を、変えることのできない自分の能力のレベルにあるとする傾向が強い。知能や技術は固定された実体としてとらえられる。一方、増大理論(習得理論者)の子どもたちは、一歩一歩進むことで漸次的に能力を増大させることが可能だという感覚を持つ傾向がある。ドゥエック博士によれば、難しい課題に直面したときに自らの能力を向上させる可能性は、習得理論者の方がはるかに高いという。

子どもが知性のあり方をどのように解釈するかは、親や教師が重大な責任を負っているが、学習へのアプローチはいつでも改善できる。少年時代にチェスで成功した一因には、教師のブルースとエンドゲームを学んだことがある。ここでは、盤上にキングとポーンに対してキングのみという3つの駒だけのシンプルな状況から始めた。このように明確な局面を教材にすることで本質的な要素に焦点が当たり、知識と直感と創造性の間を行き来しながら学習を進められた。

一方、当時のライバルたちの多くはオープニング・バリエーションを学ぶことからチェス学習を始めている。オープニングでは相手の目を欺く罠を仕掛けやすく、それを使って簡単に勝てることから、オープニングから教えたがる指導者も少なくない。このバリエーションを暗記することから始めた子どもたちは結果がすべてになるために実体理論者になりやすく、ゲームが進むほど苦しむという弱点をもつ。

この傾向はどんな分野であっても、頂点を目指す限り遭遇する根本的な問題である。敗戦の失敗は苦痛であるが、同時に成功するための方法を教えてくれる。失敗も含めて学ぶことを心から楽しめたから、道を逸れることなく前進し続けることができた。

ソフトゾーンに入る

何が起きても思考を止めず、クリエイティブな発想が紡ぎだされる精神状態に踏み出すための最初のステップは、スポーツ心理学でいうところの「ソフトゾーン」に入ることだ。気を散らされまいと神経質になって指で耳を塞ぎ、身体を硬直させるといった「ハードゾーン」はとても脆く、圧力を受けるとすぐに折れてしまう状態を指す。一方ソフトゾーンは、静かに深く集中し、一見リラックスしているように見えても心の中では精神的活力に溢れている状態を指す。

気の散りやすい10歳の少年だったころ、大人の大会に出場するようになると、6時間から8時間の長時間集中を保つ必要が出てきた。しかし、試合中の頭の中をボン・ジョヴィの音楽が支配して考えることができなくなり、敗戦を喫したあたりから、次第に会場の雑音まで気になり出した。

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