本書の要点

  • 利益を上げさえすれば手段を選ばない、という方針は会社を倒産にまで追い込みかねない。「勝てば官軍」ではなく、勝ち方の美しさを説くのが上司の役割だ。

  • 部下の熱意を引き出し、やりたいと願うことをやらせることも上司の務めである。そのような考え方は、ゆくゆくは、多様化する市場に会社が柔軟に対応できるかどうかにもつながっていくだろう。

  • 優れた経営者、優れた上司というのは、優れた人材を良く用いるという「将にとっての将」を指す。成功を収めたとしても、自分ひとりの力によるものではないと自覚し、部下への感謝を忘れてはならない。

1 / 5

「上司の役目」とは何か

持つべき夢を語れ

shutter_m/iStock/Thinkstock

かのイチロー選手でさえ、天才的な能力ではなく、努力によってアメリカ・メジャーリーグでも一目置かれる野球選手となった。彼が小学生の頃に書いた作文からは、プロ野球選手になるという夢を幼少期から掲げていたことがうかがえる。遊びたいという誘惑を振り払って厳しい練習をいとわずコツコツ続けていたからこそ、今の彼があるのだ。松下幸之助は、松下電器の創業間もないころ、250年後の夢を社員に語った。「生産した電気製品を通じて日本をすばらしい国にしたい。そのような願いの実現を我々が十世代にわたって熱心に目指していくならば、250年後には相当の成果が上がるだろう」と。この夢と目標を、松下はその後も毎日のように社員に語りかけたという。会社で働く期間は、せいぜい40年か50年だ。トップが壮大な夢を折に触れて部下に伝えることで、部下は「自分が働いている間には夢は実現できないかもしれないが、次の世代につなげられるような環境をつくっておこう」と努力するようになる。それは組織が長く続くための秘訣といえよう。

「勝ち方」を示す

高みを目指すのにも様々なやり方があるだろう。しかし「勝てば官軍、負ければ倒産」という経営理論は、長い目で見れば世間の信用を失い、会社の衰退へとつながってしまう。1985年に、日本の旅客機が御巣鷹山に墜落した。このとき、ある企画会社が事故発生後すぐに社員を墜落現場に送り込み、御巣鷹山の土を集めてそれを化粧箱に入れ、遺族に1個5万円で売り込んだ。遺族の感情を逆撫でするその心ない商売に、マスコミは一斉にこれを叩き、結局その会社はあっという間に倒産に追い込まれた。これこそ、手段を選ばず利益を上げることだけを考えた結果であろう。当然のことながら、利益は追求すべきものである。しかし我々が考えなければならないのは「勝ち方」だ。利益を生む企画があっても、それが経営理念に反するならば、続けたとしても様々な問題や不祥事を起こす原因となってしまうことを頭に入れておく必要がある。

2 / 5

【必読ポイント!】 部下に信頼される「上司の力」

熱意を引き出す

Miyuki Satake/iStock/Thinkstock

あるとき、アメリカの学者ハーマン・カーンが松下に会いに来ることになった。松下は著者に彼を知っているかと尋ねた。すぐさま「21世紀は日本の世紀だと言っているアメリカのハドソン研究所の所長で、未来学者」だと答えた。翌日、松下はまた著者に、カーン氏が何をする人かと聞いた。

もっと見る
この続きを見るには...
残り3084/4102文字

4,000冊以上の要約が楽しめる

要約公開日 2016.04.08
Copyright © 2025 Flier Inc. All rights reserved.

一緒に読まれている要約

シンプルだけれど重要なリーダーの仕事
シンプルだけれど重要なリーダーの仕事
守屋智敬
部下論
部下論
江口克彦
どんな業界でも記録的な成果を出す人の仕事力
どんな業界でも記録的な成果を出す人の仕事力
伊藤嘉明
働く力を君に
働く力を君に
鈴木敏文勝見明
無印良品が、世界でも勝てる理由
無印良品が、世界でも勝てる理由
松井忠三
27歳からのMBA グロービス流リーダー基礎力10
27歳からのMBA グロービス流リーダー基礎力10
グロービス経営大学院村尾佳子田久保善彦荒木博行金澤英明
イノベーション・ファシリテーター
イノベーション・ファシリテーター
野村恭彦
ハーバード あなたを成長させるフィードバックの授業
ハーバード あなたを成長させるフィードバックの授業
花塚恵(訳)ダグラス・ストーンシーラ・ヒーン

同じカテゴリーの要約

AI分析でわかった 仕事ができる人がやっている小さな習慣
AI分析でわかった 仕事ができる人がやっている小さな習慣
越川慎司
壁打ちは最強の思考術である
壁打ちは最強の思考術である
伊藤羊一
しんどい世の中でどうすれば幸せになれますか?
しんどい世の中でどうすれば幸せになれますか?
橘玲樺山美夏
仕事の「判断ミス」がなくなる脳の習慣
仕事の「判断ミス」がなくなる脳の習慣
加藤俊徳
肩書がなくても選ばれる人になる
肩書がなくても選ばれる人になる
有川真由美
頭のいい人が話す前に考えていること
頭のいい人が話す前に考えていること
安達裕哉
きちんと伝わる説明の「型」と「コツ」
きちんと伝わる説明の「型」と「コツ」
阿部恵
AIエージェント革命
AIエージェント革命
シグマクシス
やりきる意思決定
やりきる意思決定
中出昌哉
生成AI最速仕事術
生成AI最速仕事術
たてばやし淳