幸せのメカニズム

実践・幸福学入門
未読
幸せのメカニズム
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実践・幸福学入門
未読
幸せのメカニズム
出版社
出版日
2013年12月18日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

「幸せ」と聞いて、私たちは何を思い浮かべるだろうか。おいしいものを食べた瞬間、お風呂に入っている時間など、自分が幸せだと思う瞬間は、きっと一人ひとり異なることだろう。

どんな人でも必ず幸せになれる方法というものは存在しないかもしれない。しかし「どうしたら自分は幸せになれるのか?」というテーマは、おそらく誰もが考えるのではないだろうか。

そんな読者の尽きない悩みに、本書は新たな視点を与えてくれる。「幸せにはメカニズムがある」というのが著者の主張だ。

本書は、1500人の日本人を対象に行われた「幸せ」についてのアンケートをもとに、幸福を感じる人が備えている四つの因子の詳細を分析した結果を解説したものである。人々が幸せを感じる対象や状態は多種多様だが、幸福な人たちには明らかな共通点がある。

「幸福」の研究は日本以外の国でも行われているが、国や言語によって「幸せ」の定義は異なるため、日本語の「幸福」の概念を前提にしてそれらの研究を捉えると解釈が異なったり実践が難しい場合もある。本書ではそのような言語による「幸福」の定義の差異も丁寧に説明してくれる。

「幸福」とは何なのか。人は幸福を目指すべきなのか。どうすれば幸福になれるのか。何かが足りないと日々感じている読者にとって、有益な一冊となるだろう。

ライター画像
菅谷真帆子

著者

前野隆司(まえのたかし)
山口県生まれ、広島育ち。東京工業大学卒、同大学院修士課程修了。キヤノン株式会社勤務、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、ハーバード大学客員教授、慶應義塾大学理工学部教授などを経て、現在、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授、ウェルビーイングリサーチセンター長。博士(工学)。研究分野は、ヒューマンマシンインタフェースから、幸福学、感動額、共感学、イノベーション教育、コミュニティーデザインまで、幅広い。『脳はなぜ「心」を作ったのか―「私」の謎を解く受動意識仮説』(筑摩書房)、『脳の中の「私」はなぜ見つからないのか?―ロボティクス研究者がみた脳と心の思想史』(技術評論社)、『思考脳力のつくり方―仕事と人生を革新する四つの思考法』(角川書店)、『「死ぬのが怖い」とはどういうことか』(講談社)、『脳は記憶を消したがる』(フォレスト出版)など著書多数。

本書の要点

  • 要点
    1
    所得などの特定の価値を得ることは必ずしも幸福に直結しないにもかかわらず、人はそれらを過大評価してしまう傾向がある。
  • 要点
    2
    「幸せ」とはそれそのものを直接目指すのではなく、幸せと関係のある項目を目指したことの結果としてついてくる。幸せを感じるためには、そのメカニズムを知る必要がある。
  • 要点
    3
    幸せは、「やってみよう!」「ありがとう!」「なんとかなる!」「あなたらしく!」という四つの因子に分けられる。
  • 要点
    4
    幸せの四つの因子は、多様な目標をもつ社会を推進するための目安である。

要約

「幸せ」とはなにか

幸福学

科学技術の進化が人間の幸福につながると信じてロボットや脳科学を研究していた著者。しかし日本のGDPが50年で6倍に増えても日本人が幸福になっていない事実を目の当たりにし、人間が幸せになるメカニズムを明らかにするため「幸福学」の研究を始めた。

「幸せって、何だと思いますか?」と尋ねられた人々の答えは実に多様だ。お金、夢の実現、好きな人といることなど、それぞれの考えを持っている。ロシアの文豪トルストイは、小説『アンナ・カレーニナ』の冒頭で「幸福な家庭はみな似通っているが、不幸な家庭は不幸の相もさまざまである」と書いたが、著者は、幸せの形は人によって異なるが、一方で共有可能な幸せのイメージは存在するのではないかと考える。その世界共通の幸福のメカニズムを学問的に解き明かし、「全体幸福への道筋を明確化」することが著者の目指すところだ。

本書ではまず第1章で幸福研究の概要を振り返り、その後第2章では著者が実際に行った研究の成果である幸福の因子分析の結果を紹介する。そして第3章ではこれからの世の中がどうなっていくのか、また私たちはどうすべきなのかを考察する。

幸福の定義と範疇
DrAfter123/gettyimages

まずはこれまで行われてきた幸福研究の概要を見てみよう。その際に気をつけなければならないのは「幸福」という概念は国や言語によって異なるということである。英語のhappyは幸福やうれしいといった意味を含むが、英語の幸福研究はhappyではなくwell-being studyと呼ぶのが一般的だ。happyとwell-beingの違いは何か? 例えば、happyな状態になるだけならドラッグやアルコールでも可能だが、それは良い人生を送ることにはつながらない。短期的な楽しみと長期的な視野での幸福の概念の違いを理解する必要がある。

幸福研究には、主観的幸福研究と客観的幸福研究がある。本書で取り上げるのは主観的幸福だ。これは「各人の主観的な幸福感を、統計的・客観的に見る」というものだ。客観的幸福研究が収入や学歴などのデータに基づいているのに比べ、主観的幸福は当事者の気分や環境の影響を受けるため学術研究の分野では学問の対象として見なされてこなかった。それでは著者はどのような手法で主観的幸福を研究しているのだろうか?

著者は主に「幸福度」「生活満足度」「ディーナーの人生満足尺度」「感情的幸福」を指標に用いて、アンケート調査によって幸福を定量化している。「ディーナーの人生満足尺度」とは、次の五つの質問によって人生満足度を測るもので、幸福の研究で頻繁に使われている。

1 ほとんどの面で、私の人生は私の理想に近い

2 私の人生は、とてもすばらしい状態だ

3 私は自分の人生に満足している

4 私はこれまで、自分の人生に求める大切なものを得てきた

5 もう一度人生をやり直せるとしても、ほとんど何も変えないだろう

このような調査を1500人の日本人に行った結果、これらの指標は互いに一定の相関関係にあることが示された。この定量化された「主観的幸福」の知見をどのように活かすことができるかを著者は考えている。

人は幸せを目指すべきか

幸福の定義と範疇は明らかになったが、そもそも人は幸せを目指すべきなのだろうか?

古代から問われてきたこの問題に対しては肯定と否定の双方の立場から様々な主張がなされてきた。肯定派の一人であるアリストテレスは「幸福は誰もが求める最高の目標である」と述べた。否定的な意見としては、「幸せは目指すべきものではなく日常の中にあることを発見すべきものだ」「それを目指しているところに幸せがあるのだ」といったものがある。

著者は、幸福という抽象的で壮大な目標を目指すことの困難に同意しつつ、だからこそ幸福を因数分解し、具体的目標に落とし込むべきであるとする。そして、「幸福は、目指すべきものではなく、メカニズムを理解すべきもの」と述べる。すると目指すべき目標が明確になり、私たちの脳は意識せずとも幸福を目指してしまうのだ。

幸福の要因

どんな人が幸せなのか
masterzphotois/gettyimages

ところで、幸せな人とはどのような人なのだろうか? 幸せに関連する要因については多くの研究がある。幸福には様々な要因があり、本書では付録として四十八項目を紹介しているが、

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要約公開日 2022.02.06
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